米国人が生きられない地獄。それはデフレの世界だ(物価がじりじり下がり続ける世界)。そしてそのデフレの象徴が日本。今の米国は、この「日本化の恐怖」があちこちで言われ始めている。そんな中、昨日はついに地区連銀総裁までもレポートで「日本化」を名指しで警告した。レポートにはPERIL(禍)というタイトルがついおり、戦前の「黄禍論」を彷彿させる。
ただ個人的にこの表現にはショック療法に近い意図を感じる。そもそもショック療法とは、内部が分裂し、為政者にとって普段のやり方では統率が難しくなった時に使われる事が多い。ブッシュ政権が始まった2000年.ハイテクバルブが崩壊して不景気が始まった。久しぶりの不景気に米国は混乱した。そしてオバマ政権は金融危機で混乱が頂点になったところで始まった。そして「100年に一度」などという言葉が流行り、政府と中央銀行による救済策はなし崩し的に施行された。
結果的にブッシュ政権が国内の統率を取り戻したのはあの9・11のテロ。そしてそのテロ後の政策で潤った人々や、実は金融危機で焼け太りした金融機関の実態から、その二つの危機はショック療法だったという意見もある。ところが混乱が過ぎ去った今、オバマ政権ではFEDの金融政策にも微妙な意見の食い違いが出てきた。そんな折に地区連銀総裁までも、「PERIL(禍)の到来)と表現したのは、政策を巡り意見が分かれ、次の一手を躊躇するワシントンへの〝ミニ〝ショック療法を意図していると感じたのだ。
まああのパールハーバーも、欧州戦線への参加に嫌戦モードだった米国内を愛国心からの参戦に変えてしまったわけが、ここでも「日本」が再び登場するところは何かの因果か。ただ今回は戦争ではない。米国の敵は、米国が失敗策と決めつける日本政府と日銀がとったバブル崩壊後の経済政策。しかし一日中経済番組で「日本化の恐怖」を連呼されれば、日本人としては奇妙な気分である。本当に日本はそこまで悪だろうか。
ところで、その発言をしたのはセントルイスのバラード総裁だった。彼の言いたい事は、中途半端にダラダラと低金利を続けるのは逆効果、だからやる時は量的緩和を徹底的にやった方がデフレ脱却は早いという趣旨である。「生ぬるさ」を否定するのは中西部気質。だが、彼が正反対の主張の同僚のホー二ング総裁と同じ州に暮らしているのは興味深い。ついでに言うと、ホー二ングが総裁を務めるカンザスシティーとバラードが総裁のセントルイスは共にミズーリ州にある。
ミズーリは米国のど真ん中にある小さな州だが、そもそもそんな小さな州に二つも地区連銀があるのは不思議かもしれない。特にセントルイス連銀が単独で管轄する州はアーカンソーだけである。ただこの州には大統領選挙で重要なジンクスがある。それは大統領選の予備選が接戦の時は、このミズーリを制した候補者が代表になる傾向。つまり時節に敏感な浮動票が多いオハイオが本選挙で重要な様に、地域ごとの価値感が交差するミズーリは連邦国家としての米国の重要な指標なのである。
そしてその地域を代表するバラード総裁がこれまでのタカ派的イメージから立場を変えた意義は大きい。これで、12の地区連銀総裁で、タカ派なのは前述のホー二ングとダラスのフィッシャー、そしてフィラデルフィアのプロッサー総裁だけになった。一方金融街を代表するニューヨークのダッドレー総裁とボストンのローゼングレン総裁が民間の金融機関ベッタリのハト派なのは当然として、残りのFOMCのメンバーは概ねバーナンケに逆らう事はない人達だ。そのバーナンケ本人にこのバラードの直言は決断を迫るモノになるだろうか・・。
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