2010年6月30日水曜日

死ぬべき人々

本日のNHKのニュースでシカゴが出てきた。理由は昨日最高裁がシカゴ市の拳銃規制条令に違憲判決を下したからだ。個人的にはこれで9年前に購入したスミス&ウェッソンのマグナム375を堂々とシカゴ市内にを持ち込める・・。

こんな事を書けば驚く人もいるだろうが、拳銃は2001年、前回デフレの風を感じた時に購入した。それは、それまでの守られた日系企業の海外駐在員という立場から、自分で家を買い、米系大手で勝負に出た瞬間だった。そんな時に直面したこの国の景気後退。本来好戦的な性格ではないが、迷う事は無かった。

まあ真面目なおまわりさんに守られ、またデフレ下でも皆で平和的に縮小均衡を楽しむことが出来る世界でも特殊な日本の社会からは想像できないだろう。だがこれが本来この国のリスクである。ただその米国の本質を理想高きオバマ政権は変えようとした。しかし理想は甘さでもある。中途半端な試みは事態を悪化させることもある。一年前、ここで米国には2億丁の拳銃が出回っている事を紹介した。ところが、オバマ政権が試みた拳銃規制は逆効果となり、それまで拳銃を持たなかった人までがガンショップに殺到、今はそれ以上の拳銃が出回っている。

実はこの失敗と、あの金融の救済は同じ事になる危険性がある。そしてそれが今日の相場の本質である。

そもそも米国にとって拳銃は魂。メイフラワー号の先人がインデイアンから助けてもらったのは、この新兵器でインデイアンの争いに加勢したからである。その後南北戦争で多くの銃が造られると、戦争終了後に銃は西へ向かう開拓者の必需品になった。そして大陸横断鉄道が開通する頃には東海岸の豊かさは爆発的な食肉需要を生み、またこの頃には現在のグレートプレーンズは米国の穀物需要をほぼ満たした。

そこに登場したのが南軍の退役兵士が中心となって始めた牧畜産業である。彼らは鉄道で東海岸への食肉輸送が可能になった事で、駅のある北に向かった。そしてテキサスからオクラホマ、カンザスと北進した。これが後にカーボーイと言われるこの国の文化に発展する。但し、このカーボーイの人々は早死にだった。過酷な仕事に加え、原住民との戦い、映画さながらの命を粗末にする暮らしがあった。

だが、このWIN BY SWORD, KILLED BY SWORD(剣で倒し、剣で滅びる) が本来この国の市場原理の根幹である。命を掛けたリスクテイクが脈々と続きそれが原理主義を支えたのだ。だがこの国は豊かになり人は簡単には死ぬ事が出来なくなった。それはベービーブーマー主体の経済も同じだ。ただ国家としてそれは当然の成り行き。だが、米国にはここからの道筋で日本や欧州とは違う事を言う人がいる。

いいかえると、いつまでも見せかけの成長を言う人がいる。ただその多くは救済を受けた人々だ。そして彼等の殆どは政府に助けてもらいながら政府に協力をしようとしない。つまり、規制を受けいれず、税金を払わない。それどころか、この時ばかりは昔の米国のスピリットを持ち出す。ならば本来そのセリフを持ち出す前に彼等は全員は死んでいなければおかしい。

恐らくオバマ政権はこの連中を助けてしまった事で、取り返しのつかない失敗をした事になるだろう。なぜなら最早彼らを縛る事はできない。新法案さえままならず、中にはCNBCに登場、選挙で共和党が盛り返せば株は上がると能天気な発言を繰り返す。馬鹿な。実際は逆だろう。いずれにしても、オバマ政権は助けたはずの金融に足元をすくわれかねない状態。これが拳銃規制と同じ運命の所以だ。

そして最新の調査では、米国民の消費に回す可処分所得と負債の比率は史上最高の120%に達した。この数値の平均は80%。この悪化からしても、元々貯蓄のない庶民が住宅市場の二番底を感じる中では消費行動に戻る可能性は低い。仮に一時的に消費が回復しても最早それはこの国の根本的問題を解決しない事は実証された。

そんな中でオバマ政権が後退し、ブッシュ時代の様な共和党が復活したらどうなるだろう。米国の国家財政は危機的、そんな中で資金がある大企業と富裕層はどうしたら税金を払はなくて済むかを考えている。それが、前述の3流ファンドマネージャーの共和党待望論の如く株を復活させるというのか。無理だ。あの英国でさえ覚悟を決めた中で、そんな自己都合の理論が他国から支持されるとは思えない。つまりそれは、米国が世界から見放されると言う事である・・。






2010年6月29日火曜日

メタボリックGDP

あの金融危機後を「恐慌」と呼ぶにふさわしいかどうか疑問だが、クルグマン(ノーベル賞経済学者)が「3度目の恐慌が近づいている」との悲観的なコメントをしたせいもあり、本日の債券市場は堅調だった。

一方株では「中国」が米株を買い始めた話がWSジャーナルに載っている。そして最新のフォーチュン誌には「中国」が誰も手を出さない「ギリシャ」への投資を始めたと紹介している。ただこの二つの記事を注意深く読むと、同じ「中国」でも、前者と後者は「買い手」違う事が判る。前者は米系大手などに運用が一部解禁となった中国人投資家の資金。そして後者は政府の意向を受けたソブリンファンドである。つまり、前者は自国の株で損失を出した個人投資家という素人の行動。そして後者はいよいよ米国を射程圏に入れた中国政府のグローバル戦略の一環である。

ところで、前回ボルカーの話で彼がFED議長だった際の米国のGDPがわずか4兆ドルだった事を触れた。違和感があったのでもう一度確認したが、数値は正しかった。だとすると、現在14兆ドルに膨張したこの国のGDPと比較し、先週FT誌で紹介された米国のGOODS OUTPUT(物作り経済)が$1700bnという数字はあまりにも小さい。それだけGDPの7割を占める消費と金融等のサービスに依存してしまったわけだが、その歴史であるこの国のGDPのチャートをみると、戦前からボルカーまでの時代と、グリーンスパンからベーナンケの時代とではその上昇カーブ傾斜は別モノだ。

恐らく後半の急激な上昇カーブは住宅の値上がりも同じはず。ただGDPの7割になるまでこの国の消費を膨張させたグリーンスパンとバーナンケの時代は一体何だったのだろうか。今話題の本、「FAULT LINE」のランジャン氏はその恩恵を受けた世界経済と日本 ドイツ 中国などの輸出大国の構造転換の遅れを非難している。だがそもそも購買力の無い人にモノは売れない。私からすれば、始まりは米国のベービーブーマーの存在の方が先だ。

先日大恐慌の原因には二つの意見がある事を紹介したが、生活が厳しくなる中でも理念を優先し、更に金融を縛るためにグラスステイーガルを成立させた当時の米国には若さがあった。一方先の危機では「100年に一度」などと大げさな事を言い、ベービーブーマーの悲鳴に呼応しただけの政権とバーナンケをみると、この国に嘗ての若さはないと言える。それにもかかわらずこの国のアナリストは米国の成長は不変だと叫ぶ。救済を受けながら自分の老化が判らない愚か者たち。本来市場原理という「若さのルール」が健在なら、彼らこそ真っ先に死に絶えて教訓を次の時代に残すべき存在である。

結局オバマ政権はこのベービーブーマーの代弁をしている政権にすぎない。そして「消費が全て」と言っても過言ではない構造下、新法案では消費者を守る巨大な権力はFEDの中に入った。これとレギュレーションの統括者としてFEDの権限が強化された事を踏まえると、それまであったFEDへの批判とは逆にFEDの権限はこれまで以上に強化された事になる。この可能性を指摘した1996 年制作のDVDを以前顧客に配った事があるが、バブルと危機を煽り、結局間違いを犯した本人に更に権力を集中させるという金融の国家支配の体制が遂にこの国でも完成した。

そういえば、本日医薬品関連でCNBCが流していたの米国の糖尿病と肥満の増加率は、GDPの上昇カーブにそっくりだ。消費と、ソレを支えた金融サービスで水膨れしたこの国のGDPの推移からすれば当然か。そんな中で中国のGDPはまだ日本と同等。だが中国がいずれ米国を抜くというより、水膨れだった米国のGDPの水準維持の方が世界にとってはより現実的な課題である・・。




2010年6月26日土曜日

法律の限界

オバマ政権が発足してからの二大テーマの一つ。金融改革法案の原案が終に出来上がった。これであとは大統領のオバマが署名するだけである。ただ、新法案の影響がどうなるかは今後の話として、本質は法律は万能では無いという事。特にこの国はその最たる国だ。従ってこの法案がどんなモノにせよ、その気になれば必ず抜け道はある。

ところでオバマはこの法案をG20の会議まで用意しろと強く議会に要求した。おかげで朝5時までかかったバーニー(金融担当の下院議員)の今日の顔は酷かった。だがそこまでして自国の法案をG20に持ち込む意図は何だ。言うまでもなく金融のルールは自国だけでは意味がない。ただそもそもG20は成長優先の米国と、成長より財政健全化に舵を切った他国の間に開きがある。そんな中で形式だけの法案を用意したところで米国の本質が変わらなければ意味は無いのではないか。米国べったりの国はこの法案を真に受けるかもしれないが、既に米国の本質を見切っている国にはオバマ政権のパフォーマンス優先の実態は余計にしらじらしく映る可能性がある。

ところで、今回の法案の前に米国が金融のあり方を変えたのは、グラスステイーガル法を廃案にした1999年である。グラスステイーガル法とは、大恐慌の原因とされるそれまでの銀行証券の混同を禁止した法案である。ただここで触れておくが、今この国には大恐慌の原因には二つの意見がある。一つは恐慌にさかのぼるバブル発生と、そのバブルを生み出した緩い規制が原因だったとする意見。そしてもう一つは、バブルが崩壊後の対処療法に問題があったとする意見だ。言うまでもなくバーナンケは後者。だから彼は一連の救済を行った。だが当時の米国は恐慌の苦しい中で敢えて前者を採用した。

その法案をクリントン政権は政権末期のどさくさで廃案にした。そして同法案が廃案になった背景をもう一度紹介すると、一つはユニーバーサルバンキングだった欧州系金融機関が90年代後半に米系の証券会社を買い漁った事。そして何といってもSワイル会長のCITIグループ創設に向けての野望が議会を動かした事が大きかった。

たが、一昨年の危機後は有識者の間で同法案の廃案が失敗だったという認識が広まった。しかし議会で堂々とその意見を言う人は少ない。理由は明確。それはクリスドット(上院金融委員長)などの有力な面々の殆どが、99年に廃案を承認した張本人だからだ。こうみると今回の新法案ではいかに議員による政治的パフォーマンスが優先されたかが良く判る。

そして興味深いのはそもそもユニバーサルバンキングは欧州の産物だった事。つまり、本質論に戻れば、ドイツ銀行などがずっとユニバーサルバンキングであったにもかかわらず、世界がドイツ発のバブルにならなかったのは、バブルは究極的に法律の結果ではないという事だ。要は人間の問題。そう、法律を使う側の問題である。言い換えると、元々ドイツは銀行と証券の垣根が無くても健全性が保たれた国だったのではないか。だが皮肉な事に冷戦終了後の90年代後半、そのドイツがウォール街に殴りこんできた。ドイツ銀行とUBSによる米証券買収は、議会を動かすに十分なインパクトがあった。

いずれにしても、先進国は成長が鈍化するに従い金融に頼らざるをえない。ただ大きな失敗を経験し、ここからは教訓を活かしながらいかに金融を殺さないかの模索だ。ただその点でこの新法案はこの国の今の本質、つまり昔に比べて安易な金銭欲が強くなりすぎた現状に対してはどの程度の効果があるか個人的には疑問である。恐らくG20に集まる米国をよく知る老獪な欧州や、どうやら覚悟を決めたドイツからすれば、この法案は失敗の当事者によるEXCUSEの産物でしかない。そんなモノを振りかざしてオバマはどうするつもりだろう。

最後に日本の今後の金融行政が注目だ。80年代の日本のバブルもあれはあれで日本の一方通行の特徴が出たもの。だが本来の日本人の国民性からして、本当は米国に必要なガチガチの規制が今の日本に必要だろうか。むしろ逆ではないか。ドイツの制度が世界の災いにならなかった様に、日本は日本人の規律性を信じ、金融への過度な規制を緩める方が得策だ。もし日本国民にソレを説明するのが厄介というなら、政治家と役人はそれこそクリスドットとバーニーフランクを見習うべし。ただ米国はそんなアドバイスを日本にすることは絶対に無い。なぜなら、米国は日本が日本のお金を日本のために使う事を想定していないからである・・。

 



2010年6月25日金曜日

世紀の勘違い

多くの日本人、並びに金融関係者が間違えている事の一つが中国をエマージング国家(勃興国)として考える事。それを今週のFTの記事は改めて問い直している。まず、記事は米国のIHS社のデータを参考にしており、世界史に殆ど興味を示さない米国ではこのシンクタンクはやや異質なのかもしれない。そして内容は世界のモノづくり国家NO1の推移である。具体的にみると、2009年の米国のGOODS OUTPUT(モノ作り)の総額は$ 1717bn(150兆円)、中国は$1608bn(140兆円)。だが同シンクタンクの予想では、2011年に中国は$1870bn(165兆円)になり、米国を抜き去る予定だと言う。

同数値で米国が英国を抜いて世界NO1に躍り出たのが1890年代初頭と言われている。よって米国は120年に渡る王座を明け渡す事になる。数値はインフレ率を考慮していないが、IHSはインフレ を考慮しても違いはせいぜい2~3年としている。ならば来年世界は新チャンピオン誕生という歴史的瞬間を迎えるのか。実はそれは違う。中国は新チャンピオンではない。FTも指摘している様に、中国は1850年に産業革命で勢いがでた英国に王座を明け渡すまで、1500年に渡り世界のモノづくり国家NO1だった。つまり、中国は新チャンピオンではなく、王座への返り咲きである。ここが現代人の最大の勘違いである。

この様に、モノ作りの歴史では、米英など足元にも及ばない圧倒的な存在であった中国。ならばその中国をエマージング国家と呼ぶのは中国に失礼。そして元々自分達をエマージングなどとは考えていない12億の中国人と、この世界史としての客観的な史実を全く意識しない米国人との感覚のズレは、いずれ世界にとって災いになるだろう・・。

FT記事: http://www.ft.com/cms/s/0/af2219cc-7c86-11df-8b74-00144feabdc0.html







2010年6月24日木曜日

DISORDER (秩序の乱れ) 顧客向けレターから

面白いCMを観た。まずサッカーの試合で金髪の白人選手が競り合いで倒れる。痛がる選手に救護要員が駆け寄る。ただ持っているのはいつもの救急器具ではない。彼は無造作に整髪用ハサミと鏡で選手の髪を整えた。そしておもむろに立ち上がった選手は会場の女性に笑顔でアピール・・。このCMははサッカーに対抗してラグビー協会が流したモノらしい。そして続けて流れた「ラグビーでのぶつかり合いは演技ではありません・・とのコメントが久しぶりに面白かった。

さて、ワールドカップでは実力からしてあまりにも情けない終わり方のフランス。騒動を受けたウォールストリートジャーナルの見出しはレミゼラブル(ああ無情)。そして今日のニューヨークタイムスは、このフランスのDISORDER(秩序の欠如)をスポーツ記事としてではなく政治社会面で取り上げた。ただ、そんな中でDISORDERはこの米国にとっても他人事ではなくなった。これが本日の最大のニュースである。

今までここでは政権を担当する日本の民主党内のDISORDERを、国家としての危機意識の欠如としてきた。その点で戦時国家の米国は、一旦政権がスタートすると(少なくとも表面的には)ヒラリーがオバマの足を引っ張る事は絶対にないと断言してきた。ところがアフガン方面司令長官のマカリスタ将軍の政権批判は、その米国の根幹を揺るがす事態を招いている。

多くの日本人はその具体例を知らないが、米国は多種多様な人々がそれぞれの思惑で国家を形成している。だから政権は一糸乱れず大統領を支える事が絶対条件だ。その点で基本的に日本人が日本という国を構成しているニッポンは幸せ。だから政治も悠長だ。

そしてマカリスタ将軍は「イラクよりもアフガン」と言い続けたオバマが政権発足と同時に鳴り物入りで任命した人。彼の見事な経歴と、今も鍛え抜かれた身体からはオバマと同じカリスマ性が漂う。だがその戦時長官を大統領が罷免するとなれば、それはトルーマンがマッカーサーを罷免した時以来の異常事態である。そして、マッカーサーが性格に問題アリとされながらも英雄視されたのに対し、トルーマンが大統領の実績と比較してそこまでの人気がないのは、本来好戦的な米国人の本性の現れだろう。

この様に米国にはジョージワシントンを原点とする軍人の威厳を維持しながら大統領としても偉大だった人を英雄視するDNAが残っている。その意味でオバマは大きな岐路に立った。元々彼の弱点はCommander-in-chief(軍事行為における大統領の別名)としてのカリスマ性。現状ソレはあのカーターと比べても劣る。それは嫌戦の象徴であるベービーブーマー世代としては仕方がないが、政権を引き継いだ時点での大嵐は一旦収まり、重要な法案を二つも通したはずの彼への不満と諦めモードは高まっている。

BPへのオバマの対応も米国人が評価しないのは、恐らくこの弱点が見えてきたからだだろう。そして、ここにきて政権の重要命令を無視するアリゾナとルイジアナの例は、オバマ政権の求心力が衰える中で始まったDISORDERの象徴だ。実は米国の内情はフランス代表以上に深刻かもしれない。


(注)アリゾナ州は大統領の警告を無視して差別的移民法を施行。またルイジアナ州はオバマの沿岸油田採掘中止命令を無視する事を発表した。


2010年6月23日水曜日

ドイツ流 規律の力(顧客向けレターから)

ニュージャージー州は財政難を克服するため、金持ちへの増税を検討している事が話題になっている。同州には日系駐在員も多い事から、この話は日本企業も注目するだろう。ところで同州のTeaneckはマンハッタンに近く1920年代に急発展を遂げた。だがその煽りで大恐慌後には町の財政が破産に瀕した。そこで危機を救うべく特命任務を受けた人がいた。彼は1930年から1950年までの20年間に渡り、町の特命財務官として力を注いだ。そして見事に復興を成し遂げたのである。その人の名前はPaul A. Volcker。そう、我々が知っているあのボルカーの父親である。(グリーンスパンの前のFED議長)

息子のボルカーJRは母親とドイツの宗教改革の本流の一つ、ルーセラン教会に行きながらこの父親の背中を見て育った。そして70年代後半、この国に不景気とインフレが起こると今度は彼がFED議長として躊躇なくインフレに立ち向かった。その際に政策金利を21.5%まで引き上げた時は、不況で苦しむ巷には彼の顔を入れたWANTED(御尋ね者)張り紙が貼られたらしい。そしてその強権ぶりを「月額500ドルの賃貸アパートに住み、4兆ドル(400兆円)の経済を支配した男と揶揄されたボルカーは、経済が回復基調に乗ると父親のように評価された。(1980年前後のワシントンの賃貸と当時の米国のGDP)

そのボルカーが提唱した新しい金融ルールが法制化されるかどうか、今米国の国会議員は最後の審議に入っている。そして横ではFOMC(米国の日銀会議)が開かれている。だがここに集まるの人々の顔ぶれも変わった。まずグリーンスパン、バーナンケとユダヤ系の議長が続き、そして重要な脇役には以前は統治された側の証券業界の出身者が多数入った。まあこうなるとこの会議から出てくる答は決まっている。つまりこ会議には昔の様な神聖さは存在しない。

言い換えればそこにあるのは巷への迎合だ。ボルカー時代とグリーンスパンの初期まではFEDにはバチカンの雰囲気が残っていた。FED議長はローマ法王。その時代、世界金融とはFEDの指導する金融の教義を学ぶ事に等しかった。だが金融危機でFEDは教義を変えた。背景に庶民の苦しさを救済する目的があったが、本来の聖書とは苦しくても正しく生き、それを耐える為の心の豊かさを維持するために残された言葉だったはず。だがそんな弱い庶民を導く役割だったFEDは庶民からの人気を優先、自ら聖書を書き変えたのである。

こうなると世界はFEDを金融の総本山とは思わないかもしれない。まずドイツが「刺激策はもうやめよう」と提唱したのはその走りである。そして審議中の重要な法案はボルカーの提唱をそれほどは含まない内容に向かっている。両院会議が始まった頃はリンカーン議員のデリバテイブ規制よりもこのボルカールールが優先されると思われたが、ここにきて逆の展開になった。

そもそもボルカールールとは金融のあり方を原点に戻すという理念が本質。だがリンカーンの提案は方法論である。リンカーン議員の提唱する銀行のデリバテイブ規制も別会社でならOK。ならば最終的にはそれ程の違いはない。

この様に表面を取り繕う手法が近年の民主党の特徴。そしてこの政権にはそれにたけた人がいた。だがその人事にも綻びが出てきた様子。まず政権内で予算を担当したピーターオルザック氏が任期途中で辞任する。そもそも政権のスタッフの任期は最低でも2年が常識。余程の事情が無い限り、2年を全うできないのはオバマによるクビか、本人がサジを投げたかのどちらかだ。オルザック氏の場合どちらのケースかは言うまでもない。

そして中間選挙後にはマニュエル首席補佐官が去ると見られている。だがこのままボルカールールが形骸化されれば、彼が辞めるのも時間の問題だろう。そうなると最後はオバマか。個人的にはオバマ本人が再選を望まない事もあり得ると感じている。

いずれにしても、世界が緊縮を覚悟する中、総本山のFEDが迎合政策(救済政策)を続けていては世界から金融の教義としての信認を失うだろう。一方結果としてのドルの暴落を防ぐために機能していた強調政策の要の人材が辞めていく事態ではこの国にはどんな手段が残されるのだろう。その意味を世界が感じた時、ゴールドがいくらになっているか興味深い。   




2010年6月22日火曜日

スモールな人々

週末は日本中がオランダ戦に熱中し、そして米国ではUSオープンで石川が世界のトップスリーの中で頑張った。だが気が付いてみたら勝ったのは宮里だった・・。もう少し注目してやってほしい快挙。やはり日本人が個人として世界に通用するのは女性の方が先か。

ところで、そんな中で米国のメディアが注目したのはヨットレースだ。ただこのヨットレース、米国人は無関係。実はこのヨットレースにはBPのヘイワード会長が出場していたのだ。危機の最中にヨットレース楽しむ会長に、米国人は怒りを新たにしている。

そしてそのBPと対決しているのがオバマ。最新のエコノミストの表紙もオバマ対BPである。ところがそのオバマへの批判も鳴りやまない。共和党の一部はヘイワード会長がヨットレースなら、オバマは今週末にゴルフをしていたと批判している。

言うまでもなくオバマ批判の最大の要因は能弁するぎる彼のスピーチ。重大なスピーチでしか使わない大統領執務室からのあの危機対応のスピーチも、多くの人には返って空ぞらしく聞こえてしまった。

そしてBP関係者が「我々はSMALL PEOPLE(小さい人)の事もちゃんと考えている」と発言した事も波紋を呼んでいる。このSMALL PEOPLEと言う表現は、今この米国に渦巻く不満を解説するのに都合いい材料である。

英国や日本の様な金融か大企業中心社会では、個人事業主はスモール以外の何物でもない。だがこの国にはきちんと税金を払いながらそのスモールビジネスで米国経済を支えていると自負する人が大勢いる。彼らからすれば、TOO BIG TO FAILの大企業を救済し、また税金を払わない都市部の貧困層を擁護するオバマ政権と民主党は元々敵だ。

そして今回、オバマ政権はこの国家的悲劇を英国の大企業と取引する事で、政治的に利用していると映っているのである。まあ感情論だが人間社会は感情が支配している。この問題は簡単には済まない。



2010年6月18日金曜日

品質調査

最新の自動車の品質評価(JDPOWER)で20年ぶりにBIG3が上位に来た。一方トヨタは前年の6位から21位へ下落した。

ただこの結果を大々的に騒いでいるCNBCには申し訳ないが、それでも個人的にはBIG3の車には乗らない。なぜなら、今の時代、買ってすぐに壊れる車などない。その意味ではどれも大差ないの事実だ。だがこの結果は多分にマスコミによるマインドコントロールの賜物。そこにGM株抱える政府が肩入れすれば当然の結果である。そんな事に惑わされずとも、真贋の見極めは簡単だ。最早この国には物を造る魂がない。モノづくりの魂は、一旦金融国家の軽薄さを覚えてしまうと復活は出来ない・・。



2010年6月17日木曜日

「米国」復活債の実態

王者バルセロナもそうだが、スペインのサッカーが負ける時はこういうゲーム。圧倒的にボール支配し優雅に攻めても、不運もあり、最後ラインが割れない。一方相手はUGLYな(カッコ悪い)ゴール。だが優雅で美しいゴールも、かっこう悪いゴールも一点には変わらない。

そういえばアルマダの海戦で無敵艦隊が負けた際は、スペインが伝統的な品格を重視する貴族指揮下の海軍だったの対し、相手(英国)は海賊のドレークが実質戦闘を指揮したのは有名。まあ理由はなんであれ、ギリシャが負け、ポルトガルが勝てず、スペインが負けたのは、(ついでにイタリアもいまいち)今のところワールドカップは欧州危機の主役たちの国勢が出ていると言える。

そんな中で米国も地方債がギリシャ債の様な爆弾になりえる事は判っている。そこで政府はこれまで地方債に代わる新商品の「BUILD AMERICA BOND」(米国復活債)の発行を促してきた。これは地方が発行し、政府が金利負担の35%を肩代わりするという代物。だがこの債券の名前は実態と合わないとしてアイオアのグラムシー上院議員は名前をBUILD AMERICA からBUILD ニューヨーク, BUILDカリフォルニアに変えるように提言している。

理由はこの債券を発行している州は前述の2州が突出しているからだ。またフロリダはこれまで大量に利用してきたが、将来の金利負担が逆に増加する恐れが出てきた事から一旦中止すると発表した。もともとこの商品は発行手数料が高い事で証券会社にとっても美味しい商品だったが、発行の際は通常の地方債よりも価格を低く発行して結局は納税者の金利負担は増えると言う批判が上がり始めた。

日本を含めた海外勢がどのくらいこの商品を購入したのか気になるところだが、いずれにしても一見名前からは誰が最終債務者なのかよくわからないのが米国にとっての最大のメリットだろう・・。


2010年6月16日水曜日

サムライ リスク

ワールドカップでは、北朝鮮も韓国も、強国に怖気づかずに一対一で立ち向かう。今日の試合でもブラジル相手に堂々勝負を挑んだ北朝鮮には、解説のフリット(オランダの著名選手)も敬意を表していた。それに比べ、カメルーン戦の批評ではないが、 米国人に、個を印象付けられる「顔のある日本人」は少ない。

野球ではイチロー松井がおり、芸術面でもそれなりに個としての日本人の評価は高い。だがビジネス面では、日本企業は一流でも、ビジネスマンとして著名な日本人は殆どいない。

それだけ日本=組織という証明。だが昔は危ない世界では個人で目立った日本人もいた。例えばあのドナルド・トランプが今でも彼との勝負を「この世界のベストゲーム」と評価している伝説のギャンブラー柏木昭男氏などである。

彼は大衆化する前のラスベガスを映画化した「カジノ」にも登場、主演で制作にもかかわったデニーロは、この柏木役を友人だったノブ レストランのオーナーの松久信幸氏に頼んでいる。そして、その柏木氏が惨殺された時、10億以上の借金がラスベガスのホテルにあったというが、今日、こちらのニュースにはその柏木氏を彷彿させる日系アメリカ人の名前があった。

彼の名前はトーレンス渡辺氏。彼は2006年と2007年のHarrah’s カジノの20%の収益を一人で叩きだしたラスベガスでも屈指のハイローラー。だが結果はその2年の負けが112億円になった。そして、その負けは支払ったものの、残りの14億円の負債をカバーするチェックが不渡りになり、同カジノから訴えられていたのである。

ただ結末はまだ判らない。柏木氏とトランプの契約が複雑だったように、今回Harrah’sと渡辺氏の契約も、ホテル側がかなりの枠を用意していたの事実。渡辺氏は酒で判断能力を鈍らされた上、感覚を麻痺させられたまま借金を背負わされたと逆提訴したのである。

そういえば、サッカーの日本代表は「サムライ・」というサブタイトルになっていると聞く。ラスベガスでこの二人の日本人(日系人)にもサムライの称号があった。どうやら欧米でサムライは個人でリスクを取る日本人の意味があるらしい。ならばジャパンも次のオランダ戦はもう少し個々がリスクを取りにく必要があるだろう。

(因みに「カジノ」は全て実話を基にしている。その後マイケルミルケンなどが活躍した80年代のジャンク債ブームが、いかにラスベガスを変貌させたかを知る上でも証券マンには必見の映画。その中で主人公デニーロを追求する検事が、今は上院院内総務として選挙と保身?のために救済法案にあけくれるあのハリー・リードなのが何とも空しい・・)




2010年6月15日火曜日

不良の活かし方

ワールドカップが始まったが、圧倒的なドイツの強さに比べ、韓国が強かったとはいえ、ギリシャのあの戦いぶりはまさに今のEU問題当事国の国民性が出ている思い。そして注目した米英対決にはやはり神様の悪戯があった。そんな中でサッカーにおける日本力はいかほどか。今の経済の勢いがそのまま出るのは避けたいところだったが、どうやら勝利の女神は日本を見捨てなかった様だ。

その日本の試合が終わった直後、米国で中継を独占するESPN(スポーツ専門チャンネル)は THE BIGGEST UPSET SO FAR・・(ここまでの試合で最大の番狂わせ)との表現を遠慮なくしていた。ただサッカーなので当然この結果もある。まあ全盛期のエトーはヨーロッパの最高のレベルでも誰もかなわないチータのスピードと決定力を持っていたが、その足が衰えた事と、そのチータの兄弟にも脚は遅いが粘りが信条のリカオンの群れが纏わりついているような試合だった。

ところで、米国アイスホッケーリーグでシカゴのブラックホークスが優勝を決めた試合で決勝点を入れたのはパトリックケーンという若干21歳の若者だ。彼は高校を卒業して直にプロに転向し、バンクーバー五輪にも選ばれた希少な米国生まれのNHLの有望株である。だがこれまでは素行が悪いという一面もあった。昨年はタクシー料金を踏み倒した不祥事を起こしたが、その際上半身が裸だった事で、満21歳に満たないまま泥酔したのではないかという疑惑までついてしまった。(米国での飲酒は殆どの州で21歳から)。だが今年はレギュラーシーズンに続いてプレーオフでも活躍。なによりも自分がゴールを取る。と言うややスタンドプレー気味の勢いがあった。

あのルーニーもロナウドも生意気だったと記憶しているが、勝負事では真面目さだけの組織では勝てない事もある。本田の技術はまだその域ではないにせよ、今日のジャパンには生意気な彼の良さを活かす巡り合わせの妙を感じた。

ところで先週こちらでは20世紀を代表する米国人の一人が99歳の生涯を終えた。米国のスポーツ界は広い。ただその人ほどプロ/アマ、また種目を超えて尊敬された人は他に知らない。彼の名はジョンウッデン(John wooden)。当時から頂点として強豪がひしめいた大学バスケットボールリーグで12年で10回UCLAを全米チャンピオンに導いた伝説の指導者だ。そして彼を有名にしたのは、その実績もさる事ながら日頃から人間としてのあり方を学生に説く姿勢である。これまで彼の残した格言はスポーツの分野を超えて米国では親しまれきたという。だが今の金融界では彼の教えを知る人は少なくなったのではないか。

実は数年前も一度紹介したが、そこで相場に使える彼の格言の一部を改めて紹介する。

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Failing to prepare is preparing to fail. (準備を怠る事は、失敗への準備をしている事だ)

Flexibility is the key to stability. (柔軟性は安定性への最も重要な条件である)

Be quick, but don't hurry (ゆっくりいそげ)                    

Wikipediaから




2010年6月12日土曜日

ミラクル オン グラス(芝生の上の奇跡)

一昨日、シカゴのブラックホークスがフィラデルフィアを破り、ざっと50年ぶりに米国アイスホッケーリーグの王者になった。そもそもシカゴのスポーツチームと言えば、マイケルジョーダンが活躍した時代のブルズを除けば、全国的な知名度と人気は野球のカブスとアメフトのベアーズが双璧。それにホワイトソックスが続く。

そんな中でブラックホークスは地味な存在だった。それはそのままこの国におけるアイスホッケーというスポーツの位置づけでもあった。だが今日のパレードに集まったシカゴのファンはなんと200万。これは90年代に2度の3連覇を達成したブルズや、2005年に井口も加わってワールドシリーズを勝ったホワイトソックスのパレードの狂乱を上回る。

米国アイスホッケーリーグの発足時の6チームの一つでありながら、最も長い間優勝から遠ざかっていたホークスの優勝の意味の大きさを実感した。

ところで、実際にワールドカップが始まると、この国でもそれなりに盛り上がりをみせている。ただファンドマネージャーのザッカリーカラベラは、以前米国はサッカーが強くなってほしくないといった。彼の事は以前ここで紹介した。彼はCNBCでFAST MONEYの分析もすれば、歴史番組では米国の大統領史の考察を述べる男だ。そして今は中国の専門家として政府の諮問委員会のメンバーでもある。

ハーバードとオックスフォードで学んだ彼がサッカーを嫌う理由は、ブラジルを除くFIFAランキングの上位国は皆が覇権国家から滑り落ちた国々だからだ(スペイン イタリア オランダ 英国など)。

そういえば1950年のワールドカップで米国が英国に1/0で勝った事をこちらではミラクル オン グラスという(芝生の上の奇跡)。これは80年の冬季五輪で米国のアイスホッケーチームが最強のソ連を破ったミラクル オン アイスになぞってのモノ。だがもし明日米国がワールドカップで英国に勝てば、それは最早ミラクルではない。

最後に金融市場に話を戻すと、米国がソレを意識するのは恐らく地方債の崩壊からだろう。カリフォルニアに代表される州債は、欧州のギリシャ債と同じ意味。いまのところ米国債には中国や日本などの買い手がいる。だがそんなアジア勢も地方債までは手が回らない。一方、このままではカリフォルニアはギリシャと同じ運命。もし米国が国として州を救済する事になれば、それはそのままEUが抱えた弱点を今度は米国が世界に晒す事になる。その時が、ソノ時だろう・・。 









2010年6月11日金曜日

異質なリスク (顧客向けレターから)

株は終わってみれば今日は上げ調整の日だった。一昨日、重要なチャートポイントを割れなかった事で本来は昨日に20日移動平均を目指して上昇するはずが午後に急落。ただOIL先物が下がらなかった様に全体はリスクオフに便乗したショートのカバーが二日間に渡って起こったと考えるべき。だが今日の薄い出来高が示す通り、米国はリスクオフからオンになったと考えるのは間違い。それそ示す様に、昨日下がらなかったOIL先物は今日はそれ程上がっていない・・。

ところで、リスクオフ/リスクオンなどと業界用語で気取っても、ソレはマネーゲームの話。即ち、本質的な成長に限界が訪れ、マネー中心の経済に変貌した先進国の今の現状である。一方で世界にはまだまだ本当のリスクをとっている人がいる。その一例が中国を目指して国境の川を渡る北朝鮮の人々。そこには以前は北朝鮮の兵士の姿があった。だが今はいないという。では北朝鮮は国境警備を止めたのか。そうではない。今は狙撃手が見えないところから狙っている。その方が川を渡る人々には恐怖心が高まりより効果があるとの判断らしい。

だが、それでも北朝鮮の人々は川を渡る。今日のNYTIMESにはそれまでLIFE SAVINGが平均15ドルだった北朝鮮の人々がデノミで今はそれが3ドルになってしまった惨状が紹介されている。極限の貧しさの中、LIFE SAVING(人生の貯え) が1500円から30円へ下がると言われても、それはマイナス50度とマイナス75度の違いに等しい。つまり普通の人には違いが判らない。だがこの違いはいかに恐怖を与えても彼等が国境を目指す原動力だ。これが本当のリスク。そしてこの様なリスクへの挑戦、つまり豊かさを求め命を掛ける事が国家の成長力に繋がっていく事を歴史は証明している。その最高の舞台がこの米国だった。

コロンブスが大陸を発見してから多くのヨーロッパ人が航海の危険を承知で北米を目指したが、その目的は当時「金のなる木」だった煙草の栽培だった事は有名。そんなヨーロッパの貧しい農民の一人がイギリス人のジョンラルフ。彼はバージニアの到着後、原住民の女性でディズニー映画にもなったポコハンテスと結婚、タバコ栽培で財をなした。だが彼がジェームズタウンに漂着した頃は、飢えのあまり仲間や家族を殺して食べる先人の惨状があったという。

それから10年ほどしてマサチューセッツにはメイフラワー号が到着。彼等も最初の冬を2/3が超えられなかったが、原住民の抗争にイギリスから持ち込んだ武器で加担。ある部族を勝たせると、そのまま共存への道が開けた(サンクスギビングの由来)。この様にして英国から米国大陸を目指した人々は、アパラチア山脈の東を南下していく。これが初期の米国の姿だ。そしてこの地域が東部イシュタブリッシュメントとして現在まで米国の政治経済、更には金融の中心的な役割を果たす事になる。だが人々の豊かさへの願望はアパラチア山脈を越える日が来る。それは意外にも1750年と新しい。探検家のジェームスウォーカーが、テネシー、ケンタッキーそしてバージニアにまたがった山脈の割れ目を見つけたのだ。これが有名なカンバーランド渓谷だ。(CUMBERLAND GAP)

300万年前?に隕石がぶつかって開けた西への道を、米国人はワイルドネスロード(WILDERNESS ROAD)と呼ぶ。そしてこの道を開拓したのは数々のドラマにもなったダニエルブーン。彼は子供をインデイアンの殺されるなどの苦難を乗り越え、後人に西へ続く道を残した。その後、最初にロッキー山脈まで到達した人々は山を越えられず先に死んだ家族を食べるという苦難を重ね、1800年代の前半についに西海岸まで到達した。

この西への野望の背景には「西にはゴールドが埋まっている」という言い伝えがあったという。恐らく原住民の情報を初期の開拓者が欧州に広めたのだろう。だが本当にゴールドが発見されると大変化が起こった。今度は太平洋を越え米国を目指す人々が現れた。その代表が中国人。この様にして世界中から人々が西海岸を目指すゴールドラッシュが起こり、1849年にはサンフランシスコの人口が1年で20倍になったという。(NFLのサンフランシスコ49sはこの1849年に由来)・・・。

つまりここまでの話が語るのは、僅か150年前の米国は命を掛けて豊かさを求めた人でごった返していたという事だ。そして東部に留まらず、西へ西へと命を掛けて開拓にでた人々の子孫が今の中西部の原理主義を構成している。その背景を考えれば、今この国がマネーゲームという本来のこの国の成り立ちとは異質のリスクに振りまわされている現状に彼等が怒るのは理解できる。だがこのまま米国がマネーの力とそのリスクに負けてしまえば、それはそのままこの国が欧州化、或いは日本化への道を歩み始めた証拠となろう・・。





2010年6月10日木曜日

マードフからの手紙 (顧客向けレターから)

株は後になってみるとこのパターンも然るべしか。ただここまで脆弱な展開は久しぶり。そしてある意味今日のバーナンケの一言はこの相場の本質を代弁している。彼の景況感の発言は予定通り退屈だった。だが、TARP(金融危機での救済基金)について聞かれると、大手は既にTARPを金利を付けて返済した事を触れた上で、最大の懸念、AIGについは「時間を掛ければ大丈夫だろう」とバーナンケFRB議長は発言した。

元々大手の返済も裏でFEDの救済があって実現したわけだが、PIMCOに転籍にしたTARPのの担当者本人がその完済に悲観的な見通しを持つ中、AIGやGMもさることながら、マスコミが取り上げないだけで中小の金融機関に入れたTARPの欠損が確定するケースが出ている。その中でこのバーナンケの発言は何だ。彼の立場からすればコレしか言えないのは同情する。だがこれではFED議長は最早ヘッジファンドの運用担当者かあるいは証券会社のアナリストと同じ。言い換えればFEDが自身でリスクアセットを抱え、市場にプレーヤーとして参加し、また国庫(財務省)への民間の返済の裏方を務めているという事態では彼等は最早「バイブル」ではない。

そういえばあのマードフが獄中から被害者を「自業自得」との暴言はいたらしいが、ここでは以前からFEDの救済を国家ポンジーと呼んできた。そしていつのまにか中央銀行や国が救済を続ける事を、ギリシャ問題を切欠に市場は「ソブリンリスク」と呼ぶようになった。ここが神の仕業としか思えない所以。なぜならタイムの表紙にもなったバーナンナンケの救済を含め、市場があれ程評価した政府の救済を、今市場は逆に無意識のうちに「ポンジーリスク」を内包すると認めた事を意味する。米国でさえこのポンジーが使えなくなるかもしれない事態。それが今の本質である。

こうなると後は時間の問題。壊れるべきモノは壊れる。そして皮肉にもその引導は、バイブルが存在しない今の金融市場でバーナンケ本人が率先してまき散らした流動性がリスクオフに動く事で自滅へと突き進む構図がみえる。私は悲観論者のつもりはないが、今日の株の引けはその宿命を感じるに十分な引け方だった。そして今この宿命を米国人で最も認識しているのは、恐らく獄中にいるマードフであろう・・。



2010年6月9日水曜日

天罰の規模

現在BPは出漁できないルイジアナの漁師に一日当たり1200ドルの補償金を払っているらしいが、ロンドンのタブロイド紙であろうロンドンデイリーメールは、その漁師のコメントとして、本来この時期は出漁してもせいぜい月に1000ドル稼ぐのやっと、だから1200ドルの日銭はありがたい。との漁師の声を載せている。一方でワシントンポストは今日の主力記事で、BPが会社として長年安全面の努力を怠り、また数々の米国内の事故でも隠蔽体質が蔓延し、隠ぺいをしたスタッフが一番出世したという旧従業員のコメントを持ちいて全面的にBP批判を始めた。

鳩山前首相への工作に触れるまでもなく、WSJとNYTIMESと比べても退屈なこの新聞は最もワシントンの意向を語っている。そして今日の記事が語るのはワシントン、特にオバマはBPの追及に本気だという事。ただロンドンのタブロイド誌が反撃した様に、イギリスとて黙ってBPがボコボコにされるのを見過ごすとも思えない。そんな中で米国民の関心がいつのまにか金融機関の批判から景気の2番底のリスクに移った。次のテーマを探し始めた中間選挙との絡みが注目される。

そして証券会社の最新の見積もりではBPが背負う負担は4兆円になるという(経費+保証)。さすがにこの金額は払えない可能性もあり、BPは支払いを逃れる為に戦略的チャプター11(破産法の適用)の選択もありうるとの見方も浮上した。その後の身売り先の候補として既にエクソンやシェルの名前が挙がっている。だが商法の理論で彼らの責任が簡単に片づけられてはならない・・。


2010年6月8日火曜日

米国対英国

土曜日、ワールドカップの米国代表は南アに入る前の最終調整としてオーストラリア代表との親善試合を敵地でこなした。結果は3:1で米国の勝ちだった。

そもそも現在プロリーグのバスケットボールとアイスホッケーの決勝が行われている米国では、ワールドカップの話題は少ない。また前回のロナウジーニョの様な米国人も知っていて尚且つナイキが力を入れる選手がいない事から3大ネットワークでのコマーシャルは少ない。一方で日本が負けたオーストラリアも同国でサッカーは3番目のスポーツ。よって清貧でも真面目で実力がある選手が集まったこの試合は本番直前に関わらずガチンコゲームで迫力があった。そしてそのゲームを偵察していたのがあのベッカムだ。彼はイングランド代表からは漏れた。だが彼を映したESPNでは、母国の為に米国チームを偵察しているとの判断だった。

一方米国内では野球が本番を迎え、NBAの決勝はレイカース対ボストンの因縁の対決。またホッケーはカブスと違い実力がありながら50年も優勝から遠ざかっているシカゴの名門ブラックホークスが大手を掛けた。スポーツニュースがこの雰囲気の中、極論すれば殆ど注目されない米国の代表チームにイングランドが負けたらどうなるだろうか興味深い。はっきり言って米国は強い。オーストラリア戦の直前にはトルコにも快勝している。個人的には米国がイングランドに勝っても全く驚かないが、ワールドカップが始まれば仕事が手に付かない英国人サポーターにとっては、サッカーに興味が無い米国に英国が負けるシナリオは許されないはず。だがBPの事故という懸案を抱え、20世紀以降は珍しい微妙な今の米英関係の中で、そんなシナリオは十分ありえるのではないか。

ところでそのBPのおかげで米国民の「憎まれ役NO1」を逃れていたのがGS(ゴールドマンサックス)。だがそのGSに対して今度は中国がマスコミを(CHINA YOUTH DAILY) 使って鉄槌を下した。同紙はGSは中国企業に対し「slurping gold and sucking silver・・」とのきつい表現。GSの様な証券会社には「儲ける=騙す」のイメージが定着する中、彼らにはどんなビジネスモデルが残るのか。市場(上場)で儲けろと言う事かもしれないが、そもそもそのゲームにかかわる人間が多すぎた事でリスクオフに走るとこれだけの下落が起こっている。そして株が下げ止まらない背景の一つは、政府がこれ以上の救済処置をすると、救済をした国からソブリンリスクを言われるという新しいジレンマの環境がある。この新環境は米国とて侮る事は出来ない。

またBPの事故が米国にとって厄介なのは、BPと英国の特別な関係が一因。事実関係からいうと、BP株は英国の年金ポートフォリオ全体の1.5%を構成し、その単体の配当は年金の全体の配当のなんと14%を占めている。それだけBPの配当が英国社会に与える影響は大きいという事だ。だが今米国では、BPが未来の米国民への保証をよそに英国民へ配当を出し続ける事への不満が高まっている。

これは厄介だ。米国政府は処理のコストを絶対に米国民の税金からは出さないと明言している。そんな事をしたらこの政権は持たない。だがBPが傾くと英国経済が大打撃を受けるかもしれない。クラブメド諸国に続き英国が傾くと最早ドイツ一国ではどうにもならない。するとその影響は米国に襲いかかる・・。


振り返ると今回の市場環境の悪化は非常に神がかり的である。そもそもギリシャが発端。また歴史的にあれほどオフショアドリルに反対した民主党と政権が賛成に回った途端にこの事故。これはまるで愚かな人間に対する「神の意志」の様な顛末だ。ここでは旧約聖書の「創世記」を現状解説に用いたが、どうやらその様相は益々濃くなっている・・。














2010年6月4日金曜日

モラトリアム住宅

今日のNYTIMESには清々しい顔をした私と同世代の男性が写真付きで載っている。彼には子供が二人、奥さんと4人暮らしだ。だが私と彼が決定的に違うのは、彼は1年前から住宅ローンを払っていない事。そしてこちらが清貧の満足感に浸る中で、彼はフォークロジャーを受け入れた事で、これからは昔の様にアウトバックステーキに行けるし、また久しぶりに週末はしまってあるヨットで海に出かけ、その晩はカジノでも遊ぶという・・。(NYTIMES)

彼の様に、米国には支払いが止まってもまだフォークロジャーの追い出しを受けないままのモラトリアム住宅が160万戸あり、更にこれから予備軍になろうとしている住宅はどのくらいあるか全く判らない状態だ。そんな中で本日公聴会に呼び出されたバフェットは、2008年の金融危機の考察を問われ、「誰も住宅価格が下がる事は想定していなかったと」発言した。だがこれはマインドの話であって私が観てきた現象面は、住宅市場のコモディティー化だった。

そもそも相場を生業にしてきた者の常識として、どんな相場でもそれが商品化してしまった後の底値の恐ろしさは堅気の人には理解できないと断言する。その鉄則からすれば2008年以降の米国の住宅市場の調整などは全く調整の域に達していない。だがこの市場原理が機能するとこの国は死ぬ。だから政府が様々な手段でここまでは住宅市場を救済をしてきた。しかしその救済政策も先月で一旦は終了した。ならば昨日発表された住宅の販売契約件数(PENDINGセールス)が専門家から評価されないのは当然だ。なぜならその多くがクロージング(物件の受け渡し)まで到達できない思われるからだ。具体的に説明すると、売り手と買い手の間で契約までこぎ着けても、近隣にフォークロジャーがあり類似批准価格が下がっていると、住宅の評価が低くなり、ローンが組めないどころか売り手も売れない事態が起こる。専門家はこれからはこのケースが多発すると予想している。

まあそれはそれとして、冒頭の男性のマインドが今この国の消費回復を支えているのも事実。それを持って証券会社のエコノミストは経済が回復したと評価している。だがこの様な話は最早中西部の原理原則を重視する堅実な米国人には受け入れらない。ならば米国も国内に緊縮財政に耐えても堅実な国家を目指すドイツ派と、とにかく消費する事で人生を楽しみたいクラブメド派を抱えている事になる。つまり、米国も欧州連合同様の形態の危うさを内包していることだ。言い換えると、米国は最早U.S.A.ではなくD.S.A. (Divided States of America)である。にもかかわらず、まだ相対的にドルが買われ、米債が堅調なのはなぜか。

まずはこの国の政権は何が最大のリスクであるかが判っている。だから事態が収拾不可能になる前に常に先手を打っている。ここは流石というしかない。だがその政策にも資金には限度がある。米系の格付け会社は国債の債務残高が対GDPでどの水準にあるかを重要視するが、もしこれからも住宅市場を政府が救済し、その結果として民間の消費を促進するという政策を取るなら、民間の債務と国家の債務を一緒に考える必要がある。この数値は対GDPで360%となる。

いずれにしても米国にはオバマの様な優秀な演出家が大統領である強みがある。彼が強調政策を打ち出し、相対的な評価を維持するのは生命線だ。だが一方でオバマの存在は国内では州の対立を助長するという皮肉な結果を生んでいる。万が一にも中間選挙以降にこの国がブッシュの時代へ逆戻りしたらどうなるのか。またそこまではならずとも、救済主義に怒った原理原則派が反乱を起こす時、コントロールが可能がどうかが市場の命運を握る・・。

2010年6月3日木曜日

ヘッジ機能の回復

今日こちらの株が上がったのは感覚的に良く判る。なぜなら米国にとってアジアの懸案だった日本の鳩山首相が辞任した。勿論今日の証券会社のマーケットリポートには表向きそんな理由は書かれていないだろう。だが知っている人は知っている。米国は無関心を装っているが、(それがこの政権の特徴)いろいろな意味で米国にとって最も大切な「ヘッジ」である日本が、小沢や鳩山が目指す方向に行く事は絶対に避けなければならないシナリオだった。

その証拠として本日のワシントンポストが鳩山首相の辞任を伝えた記事が興味深い。まず当然ながらこれは記者が書いた記事である。同紙はこれまでコラムで首相を辱め、ソレを受けた日本のマスコミが鳩山批判を展開する事を誘導していた。だが最早そんな姑息な手法は必要なくなった。そして中身のポイントは二つ。まず辞任の背景を国民に対する矛盾とした上で、彼は「米国を喜ばす」決断をしたと堂々と述べている。更に北朝鮮や中国の状態を踏まえ、次の首相は対米国で「同じ過ち」はしないだろうとまで書かれている・・。

(参考)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/01/AR2010060100426_2.html?wpisrc=nl_headline


ただ自業自得とは言え、米国の思惑を肌で感じる米国在住の日本人からすれば、鳩山首相にはせめてロシアとのパイプをつなげ、太平洋という世界の主戦場での苦手なポーカーゲームに臨む日本のカードを増やしておいてほしかった・・。



2010年6月2日水曜日

8月15日の不思議

米国ではメモリアルデイ(戦没者記念日:毎年5月の最終月曜日)の連休から公式に夏が始まる。そして今年のシカゴのメモリアルデイは、夏の始まりにふさわしい日となった。そんな中、真夏日となった日曜日は汗だくになり、去年は全滅してしまった日本のトマトの苗床の整備をした。だがあまりの日差しの強さに近所迷惑も考えずに沖縄の音楽をかけた。すると意外な反応が隣人から返ってきた。隣人は60代、ヨーロッパのクラシックの雰囲気とは似ても似つかぬ「涙そうそう」や「森山良子」の優しい美声は隣人にも受け入れられたのである。

ところで、メモリアルデイの始まりは1850年代と言われている。その趣旨は「独立」という初期の激動期に命を落とした米国人を追悼したものだ。だが近代になり、対象は世界大戦やイラク・アフガンという対テロの新しい戦争の戦没者へという拡大した。そして街中をにぎわした記念のパレードを観ながら改めて感じたのは、米国で重要な祝日のこの日は日本では休日になっていない事だ。

そもそも米国の祝祭日は年間10日しかない。一方日本は振り替えなしで15日もある。だが日本は国家としてこんな基本的な日を、15日もある祝祭日に入れていないのだ。これも米国の日本統治の一環かもしれないが、今の日本人はこの事に違和感がないのだろうか。

そこで参考までに米国の対外戦争の戦没者(兵士)をざっと紹介する。多い順に第二次世界大戦が30万、第一世界大戦が5.5万、ベトナムの4.7万、朝鮮戦争の3.3万と続く。問題はこの数が多いのか少ないのかだ。数値は日露戦争と太平洋戦争だけで200万人以上の兵隊が死んだ日本の1/4である。

つまり日本は歴史的に米国の4倍の戦死者を出しながら、戦死者を国家の休日として追悼する事は無く、一方米国は国威高揚、或いは国民の責務としてこの日を大事にしている。敗戦国の日本では反戦、嫌戦のムードが強いのは自然だ。だがここまで来ると、日本人は歴史を直視する事から逃げていたと思わざるをえない。日本がこの国家の基本を無視している間は沖縄問題が解決する事はないだろう。いずれにしてもあまりにも悠長な名前のついた祝祭日の一つを削り、8月15日ぐらいは記念日として休日にすべきではないか。


注。(米国最大の戦争被害は南北戦争。兵士は北軍11万 南軍7万が死亡。また民間人も36万人が死亡している)