2010年6月4日金曜日

モラトリアム住宅

今日のNYTIMESには清々しい顔をした私と同世代の男性が写真付きで載っている。彼には子供が二人、奥さんと4人暮らしだ。だが私と彼が決定的に違うのは、彼は1年前から住宅ローンを払っていない事。そしてこちらが清貧の満足感に浸る中で、彼はフォークロジャーを受け入れた事で、これからは昔の様にアウトバックステーキに行けるし、また久しぶりに週末はしまってあるヨットで海に出かけ、その晩はカジノでも遊ぶという・・。(NYTIMES)

彼の様に、米国には支払いが止まってもまだフォークロジャーの追い出しを受けないままのモラトリアム住宅が160万戸あり、更にこれから予備軍になろうとしている住宅はどのくらいあるか全く判らない状態だ。そんな中で本日公聴会に呼び出されたバフェットは、2008年の金融危機の考察を問われ、「誰も住宅価格が下がる事は想定していなかったと」発言した。だがこれはマインドの話であって私が観てきた現象面は、住宅市場のコモディティー化だった。

そもそも相場を生業にしてきた者の常識として、どんな相場でもそれが商品化してしまった後の底値の恐ろしさは堅気の人には理解できないと断言する。その鉄則からすれば2008年以降の米国の住宅市場の調整などは全く調整の域に達していない。だがこの市場原理が機能するとこの国は死ぬ。だから政府が様々な手段でここまでは住宅市場を救済をしてきた。しかしその救済政策も先月で一旦は終了した。ならば昨日発表された住宅の販売契約件数(PENDINGセールス)が専門家から評価されないのは当然だ。なぜならその多くがクロージング(物件の受け渡し)まで到達できない思われるからだ。具体的に説明すると、売り手と買い手の間で契約までこぎ着けても、近隣にフォークロジャーがあり類似批准価格が下がっていると、住宅の評価が低くなり、ローンが組めないどころか売り手も売れない事態が起こる。専門家はこれからはこのケースが多発すると予想している。

まあそれはそれとして、冒頭の男性のマインドが今この国の消費回復を支えているのも事実。それを持って証券会社のエコノミストは経済が回復したと評価している。だがこの様な話は最早中西部の原理原則を重視する堅実な米国人には受け入れらない。ならば米国も国内に緊縮財政に耐えても堅実な国家を目指すドイツ派と、とにかく消費する事で人生を楽しみたいクラブメド派を抱えている事になる。つまり、米国も欧州連合同様の形態の危うさを内包していることだ。言い換えると、米国は最早U.S.A.ではなくD.S.A. (Divided States of America)である。にもかかわらず、まだ相対的にドルが買われ、米債が堅調なのはなぜか。

まずはこの国の政権は何が最大のリスクであるかが判っている。だから事態が収拾不可能になる前に常に先手を打っている。ここは流石というしかない。だがその政策にも資金には限度がある。米系の格付け会社は国債の債務残高が対GDPでどの水準にあるかを重要視するが、もしこれからも住宅市場を政府が救済し、その結果として民間の消費を促進するという政策を取るなら、民間の債務と国家の債務を一緒に考える必要がある。この数値は対GDPで360%となる。

いずれにしても米国にはオバマの様な優秀な演出家が大統領である強みがある。彼が強調政策を打ち出し、相対的な評価を維持するのは生命線だ。だが一方でオバマの存在は国内では州の対立を助長するという皮肉な結果を生んでいる。万が一にも中間選挙以降にこの国がブッシュの時代へ逆戻りしたらどうなるのか。またそこまではならずとも、救済主義に怒った原理原則派が反乱を起こす時、コントロールが可能がどうかが市場の命運を握る・・。

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