2010年6月11日金曜日

異質なリスク (顧客向けレターから)

株は終わってみれば今日は上げ調整の日だった。一昨日、重要なチャートポイントを割れなかった事で本来は昨日に20日移動平均を目指して上昇するはずが午後に急落。ただOIL先物が下がらなかった様に全体はリスクオフに便乗したショートのカバーが二日間に渡って起こったと考えるべき。だが今日の薄い出来高が示す通り、米国はリスクオフからオンになったと考えるのは間違い。それそ示す様に、昨日下がらなかったOIL先物は今日はそれ程上がっていない・・。

ところで、リスクオフ/リスクオンなどと業界用語で気取っても、ソレはマネーゲームの話。即ち、本質的な成長に限界が訪れ、マネー中心の経済に変貌した先進国の今の現状である。一方で世界にはまだまだ本当のリスクをとっている人がいる。その一例が中国を目指して国境の川を渡る北朝鮮の人々。そこには以前は北朝鮮の兵士の姿があった。だが今はいないという。では北朝鮮は国境警備を止めたのか。そうではない。今は狙撃手が見えないところから狙っている。その方が川を渡る人々には恐怖心が高まりより効果があるとの判断らしい。

だが、それでも北朝鮮の人々は川を渡る。今日のNYTIMESにはそれまでLIFE SAVINGが平均15ドルだった北朝鮮の人々がデノミで今はそれが3ドルになってしまった惨状が紹介されている。極限の貧しさの中、LIFE SAVING(人生の貯え) が1500円から30円へ下がると言われても、それはマイナス50度とマイナス75度の違いに等しい。つまり普通の人には違いが判らない。だがこの違いはいかに恐怖を与えても彼等が国境を目指す原動力だ。これが本当のリスク。そしてこの様なリスクへの挑戦、つまり豊かさを求め命を掛ける事が国家の成長力に繋がっていく事を歴史は証明している。その最高の舞台がこの米国だった。

コロンブスが大陸を発見してから多くのヨーロッパ人が航海の危険を承知で北米を目指したが、その目的は当時「金のなる木」だった煙草の栽培だった事は有名。そんなヨーロッパの貧しい農民の一人がイギリス人のジョンラルフ。彼はバージニアの到着後、原住民の女性でディズニー映画にもなったポコハンテスと結婚、タバコ栽培で財をなした。だが彼がジェームズタウンに漂着した頃は、飢えのあまり仲間や家族を殺して食べる先人の惨状があったという。

それから10年ほどしてマサチューセッツにはメイフラワー号が到着。彼等も最初の冬を2/3が超えられなかったが、原住民の抗争にイギリスから持ち込んだ武器で加担。ある部族を勝たせると、そのまま共存への道が開けた(サンクスギビングの由来)。この様にして英国から米国大陸を目指した人々は、アパラチア山脈の東を南下していく。これが初期の米国の姿だ。そしてこの地域が東部イシュタブリッシュメントとして現在まで米国の政治経済、更には金融の中心的な役割を果たす事になる。だが人々の豊かさへの願望はアパラチア山脈を越える日が来る。それは意外にも1750年と新しい。探検家のジェームスウォーカーが、テネシー、ケンタッキーそしてバージニアにまたがった山脈の割れ目を見つけたのだ。これが有名なカンバーランド渓谷だ。(CUMBERLAND GAP)

300万年前?に隕石がぶつかって開けた西への道を、米国人はワイルドネスロード(WILDERNESS ROAD)と呼ぶ。そしてこの道を開拓したのは数々のドラマにもなったダニエルブーン。彼は子供をインデイアンの殺されるなどの苦難を乗り越え、後人に西へ続く道を残した。その後、最初にロッキー山脈まで到達した人々は山を越えられず先に死んだ家族を食べるという苦難を重ね、1800年代の前半についに西海岸まで到達した。

この西への野望の背景には「西にはゴールドが埋まっている」という言い伝えがあったという。恐らく原住民の情報を初期の開拓者が欧州に広めたのだろう。だが本当にゴールドが発見されると大変化が起こった。今度は太平洋を越え米国を目指す人々が現れた。その代表が中国人。この様にして世界中から人々が西海岸を目指すゴールドラッシュが起こり、1849年にはサンフランシスコの人口が1年で20倍になったという。(NFLのサンフランシスコ49sはこの1849年に由来)・・・。

つまりここまでの話が語るのは、僅か150年前の米国は命を掛けて豊かさを求めた人でごった返していたという事だ。そして東部に留まらず、西へ西へと命を掛けて開拓にでた人々の子孫が今の中西部の原理主義を構成している。その背景を考えれば、今この国がマネーゲームという本来のこの国の成り立ちとは異質のリスクに振りまわされている現状に彼等が怒るのは理解できる。だがこのまま米国がマネーの力とそのリスクに負けてしまえば、それはそのままこの国が欧州化、或いは日本化への道を歩み始めた証拠となろう・・。





0 件のコメント: