2010年6月29日火曜日

メタボリックGDP

あの金融危機後を「恐慌」と呼ぶにふさわしいかどうか疑問だが、クルグマン(ノーベル賞経済学者)が「3度目の恐慌が近づいている」との悲観的なコメントをしたせいもあり、本日の債券市場は堅調だった。

一方株では「中国」が米株を買い始めた話がWSジャーナルに載っている。そして最新のフォーチュン誌には「中国」が誰も手を出さない「ギリシャ」への投資を始めたと紹介している。ただこの二つの記事を注意深く読むと、同じ「中国」でも、前者と後者は「買い手」違う事が判る。前者は米系大手などに運用が一部解禁となった中国人投資家の資金。そして後者は政府の意向を受けたソブリンファンドである。つまり、前者は自国の株で損失を出した個人投資家という素人の行動。そして後者はいよいよ米国を射程圏に入れた中国政府のグローバル戦略の一環である。

ところで、前回ボルカーの話で彼がFED議長だった際の米国のGDPがわずか4兆ドルだった事を触れた。違和感があったのでもう一度確認したが、数値は正しかった。だとすると、現在14兆ドルに膨張したこの国のGDPと比較し、先週FT誌で紹介された米国のGOODS OUTPUT(物作り経済)が$1700bnという数字はあまりにも小さい。それだけGDPの7割を占める消費と金融等のサービスに依存してしまったわけだが、その歴史であるこの国のGDPのチャートをみると、戦前からボルカーまでの時代と、グリーンスパンからベーナンケの時代とではその上昇カーブ傾斜は別モノだ。

恐らく後半の急激な上昇カーブは住宅の値上がりも同じはず。ただGDPの7割になるまでこの国の消費を膨張させたグリーンスパンとバーナンケの時代は一体何だったのだろうか。今話題の本、「FAULT LINE」のランジャン氏はその恩恵を受けた世界経済と日本 ドイツ 中国などの輸出大国の構造転換の遅れを非難している。だがそもそも購買力の無い人にモノは売れない。私からすれば、始まりは米国のベービーブーマーの存在の方が先だ。

先日大恐慌の原因には二つの意見がある事を紹介したが、生活が厳しくなる中でも理念を優先し、更に金融を縛るためにグラスステイーガルを成立させた当時の米国には若さがあった。一方先の危機では「100年に一度」などと大げさな事を言い、ベービーブーマーの悲鳴に呼応しただけの政権とバーナンケをみると、この国に嘗ての若さはないと言える。それにもかかわらずこの国のアナリストは米国の成長は不変だと叫ぶ。救済を受けながら自分の老化が判らない愚か者たち。本来市場原理という「若さのルール」が健在なら、彼らこそ真っ先に死に絶えて教訓を次の時代に残すべき存在である。

結局オバマ政権はこのベービーブーマーの代弁をしている政権にすぎない。そして「消費が全て」と言っても過言ではない構造下、新法案では消費者を守る巨大な権力はFEDの中に入った。これとレギュレーションの統括者としてFEDの権限が強化された事を踏まえると、それまであったFEDへの批判とは逆にFEDの権限はこれまで以上に強化された事になる。この可能性を指摘した1996 年制作のDVDを以前顧客に配った事があるが、バブルと危機を煽り、結局間違いを犯した本人に更に権力を集中させるという金融の国家支配の体制が遂にこの国でも完成した。

そういえば、本日医薬品関連でCNBCが流していたの米国の糖尿病と肥満の増加率は、GDPの上昇カーブにそっくりだ。消費と、ソレを支えた金融サービスで水膨れしたこの国のGDPの推移からすれば当然か。そんな中で中国のGDPはまだ日本と同等。だが中国がいずれ米国を抜くというより、水膨れだった米国のGDPの水準維持の方が世界にとってはより現実的な課題である・・。




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