2010年12月11日土曜日

裸の金融王子

昨年からNHKはどうして「坂の上の雲」を一気に放送しないのか疑問だったが、どうやっても小説には勝てない間伸びしたドラマよりも、話題の「セカンドバージン」の方に興奮するのは自分だけだろうか。主演の女性も魅力的だが、相手役の若者を「金融王子」とした演出はなかなか興味深い。

彼は将来を嘱望された金融庁の若手エリートでいながら、コモディティーと株を一つの口座で取引出来ない日本の古い縦割り行政に反発。役人を辞めて自分自身でネット証券を立ち上げる。偶々90年代に個人的にも同じ課題に現実問題として直面した。それだけにどんな結末になるのかも含め、いつの間にかドラマに嵌ってしまった。

確かに話題のベッドシーンはこれまでのNHKからすれば挑戦だ。そして男と女のドロドロした葛藤の描き方は、民報のソレを上回る迫力がある。だがそんな中、ドラマの本筋とは無関係ながら全体のストーリーには重要な薬味のようなセリフが突然登場した。まず、違法の可能性を承知で、合併を画策するライバル企業の会長の個人資産管理会社の買収劇を検察に責められた際のやり取り。

「金融庁にいたら偉くなっただろうに、なぜ役所を辞めてネット証券なんか立ち上げようと思ったんだ」と迫る担当検事。それに対し金融王子は「日本経済を活性化するためです」と間髪入れず応える。そして検事は「日本経済を再生させるなら、皆が汗水たらして働く価値を、再認識する事ですよ。金を動かす事で儲けるなんて虚業に過ぎない、そんな事で日本を再生しようなんて考えが間違いなんだよ。」と、最後は役人として侮蔑感をぶつける・・。

そして最終回を控えて、主人公の女性の上司の出版社社長が言う。彼はそれまで金融王子が書き下ろした相場関係の本で儲けさせてもらった立場だ。ところがドラマの終盤、それまでの商売人に徹した軽妙なセリフから、突然部下の主人公の女性に直言をする。「あの男はダメだな、(裁判の)公判を傍聴したけど、地に足が付いていない。君の様な出来る女はああゆうガラスの様な男を守りたくなるんだろう。しかし、国民の金融資産を投資に回せばみんなが豊かになるなんて言う理屈はとんでもないよ。頭の良すぎる人間の机上の空論だ・・」。

中年の男として、メロドラマを楽しんでいる時に、いきなり日頃の自分のコメントに引き戻された妙な感覚に戸惑った。一体このドラマは何だ。NHKは何か意図しているのだろうか。まあなんであれ、NHKが敢えて裸のリスクを取った点は評価したい。

ところでそのNHKは、遂に日米安保を4回シリーズで取り上げた。個人的にはこの効果を見守りたいが、今から思えばこの60年代の日本はエネルギーがあった。そして、近年は本来おとなしい国民性のタイで暴動が頻発している。そんな中、終に英国ではチャールズ皇太子の車が英国の若者の怒りの矛先になった・・。

日本 タイ 英国。戦後この三国は多少政治が混乱する事はあっても、王室の絶対性を堅持することで国家のLEGITIMACY(国家の正当性と統率の序列)が揺らぐような事はなった。その意味では極めてソブリンリスクの少ない国だった。(近年はソブリンとソルベンシーが同じ意味で使われ過ぎ)。だがどうやら世界は少しずつ動き始めた。

ただそんな中で2008年の金融危機は名実ともに終わったとしたい米国。頭の良い米国人はソレが無理な事を本当は知っている。しかし大半の市場参加者は、そんな世界の動静は他人事と思っているはず。

彼等が金融ゲームに没頭するだけで世界を考えるなら、ソレがいかに愚かな事か、それ程遠くない未来に証明されるだろう・・。






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