2010年12月24日金曜日

願い事と環境

年末になるとテレビは特集を組むが、40半ばになってもテレビで育った本性は変わらず、この時期はチャートよりPCで録画したテレビ番組を観る事が多い。だがそれでもそれなりの発見がある。今年の発見は、年末の米国は、クリスマスと重なるためか、特番は重苦しいモノはない。その殆どは来年はどんな年になるかの未来志向の観点である。一方日本は来年よりもまず今年を振り返る。反省すべきを反省し新年を迎えたいという区切りを大事にする。そんな中、今年は日本のテレビ界で際立った存在がいた。俳優の香川照之。彼は今年は「龍馬伝」で難役岩崎弥太郎を演じ、また「坂の上で雲」では正岡子規を演じるという大車輪の活躍だった。そして、彼は年末にもう一ついい仕事をした。それは松田優作のラストデイズを追うNHKの特番だ。

我々の世代に松田優作の解説はいらない。バカげた話だが、大手米系を辞めた時、もし将来自分だけのオフィスを持つ事があったら、三船敏郎と松田優作のポスターを壁に飾りたいと考えた。理由は当時この二人がハリウッドで唯一認められた「個の日本人」だったからだ。大昔米国入国の際に税関で「スピリッツ(酒)は?」と聞かれ「YAMATO魂なら持っている」と答えたという三船。彼は黒沢とのコンビでサムライを米国に植え付けた。そして、役を取るか、命を取るかの決断で、あのリドリースコットとマイケルダグラスを唸らせた松田。この二人は「米国のポチ」としてしか生き残ろうとしない日本への自分の挑戦の象徴だった。

松田優作は香川に「タイプは違うがお前は俺のようになれる」と言い残して死んだと言う。そしてそのラストを追う香川。判ったのは「東大卒の俳優」という肩書だけではなく、香川は実に深い男だった。もしかしたら役以上に深い。彼はずっと父親を知らず、25歳の時に初めて父親に逢いに行ったら、「あんたは僕の子供じゃないから。あんたを捨てた時から僕の人生は始まっている、だからもう来ないで」と、実父の三代目市川猿之助に言われたという。

結局香川は松田がなぜ自分にそんな事を言ったの結論は出せなかったが、彼が感じたのは「環境が人を創る」という点。ただそこで生まれる人間の個として巨大なエネルギーは、時に悪い方へも振れるという。香川は自分の中にも感じるそのエネルギーを、歌舞伎の血でありながら歌舞伎ができない己への怒りがコントロールしている。そして在日として下関の遊郭で生まれ、父親が判らないまま育った松田優作の強大で強烈な個を導いたのは、彼の「父性」へのあこがれだったのではないかという。これを凡人の自分にあてはめるなら、今の自分の環境に甘んじたままでは来年へのどんな願いもかなう可能性は少ないと言う事だろう・・。



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