世の中のバランスにおいて人間があまりにも安易な方向に走るとどうなるか。以前解説したように、困った時は救済してもらえる事が判ってしまった金融市場では、呼応する中央銀行の緩和政策で金融関係者の仕事は常に満たされるが、一方でリスクに晒される危険な方面には人は行かなくなる。その代表が農業だろう。近年は農業の工業化が進み、また仕事にあぶれた若者や都会の生活に疲れた人が癒しを兼ねて農業をかじるようになった。だが農業がそんな甘いものではない事は判っている。そして世界の食料の総需要はまだまだ自然の恵みに頼っている。つまり金融経済のユーフォリア(桃源郷)は常にとんでもないインフレ(多すぎるマネーの自滅)のリスクをはらんでいると言う事だ。
そしてこのリスクを意識した頃から米国ではそんな未来像に警告を与える映画が立て続けて公開された。例えば2009年の「THE ROAD」や2010年の「THE BOOK OF ELI」。この二つの映画の共通は初っ端から「北斗の拳」の世界が展開される事。そして登場する人間はマネーの残骸(道端に散乱する紙幣) には目もくれず、食べモノとしての人肉、(THE ROAD)や水(THE BOOK OF ELI)を求めて暴力の限りを尽くす。そしてそんな世紀末も人間にもう一度希望を齎すモノが「聖書」(BOOK OF ELI)と「親子の愛」(THE ROAD)というオチ。
ハリウッドの役割からしてこれらの映画は「厄除け」である。近未来の惨状をイメージさせ、実際にはならないようにする効果だ。だが昨日、そんな映画や漫画の役割を台無しにする悲しい話を聞いた。それは米国との国境に接するメキシコの町での事。人口8000人のこの町では近年警察官が次々に麻薬マフィアに殺され、ついに今年は警察官が誰もいなくなった。そんな町に現れたのが28歳の勇気ある女性だった。彼女は怖気づく男どもをしり目にたった一人で危険な職務に立ち向かった。だが先週からこの女性警察官も行方不明になってしまったという。
統計では今年の米国内の警察官の殉職数は140人だという。一方アフガン戦争での米兵の死者氏は800人。140人の殉職が多いか少ないかは日本人には想像できない世界か。だがまだこの程度で収まっている間は米国も幸福であるという事は確かである。
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