2008年12月31日水曜日

<今日の視点>ある遺稿

南九州の制空権
すでに敵の手中にあり
我らが祖国
まさに崩壊せんとす

生をこの国にうけし者
なんぞ 生命を惜しまん

愚劣なりし日本よ
優柔不断なる日本よ

汝 いかに愚かなりとも 
我ら この国の人たる以上
その防衛に 奮起せざるをえず

オプティミズム(楽観)をやめよ
眼をひらけ

日本の人々よ
日本は必ず負ける

そして我ら日本人は 
なんとしてもこの国に
新たなる生命を吹き込み 
新たなる再建の道を
切り開かなければならぬ

若きジェネレーション (世代)
君たちは
あまりにも苦しい運命と
闘わなければならない
だが 頑張ってくれ

盲目になって生きること
それほど正しいモラル(道徳)はない
死ではない
生なのだ
モラルのめざすものは

そして我らのごとく死を求むる者を
インモラリスト(不道徳)とは人は言わん。

<林尹夫 遺稿、文藝春秋09年1月号より引用>

尚、林尹夫氏は京都大学文学部西洋史科在学中に学徒出陣。
昭和20年7月28日、夜間索敵哨戒飛行中に敵の迎撃を受けて死亡。

2008年12月30日火曜日

年末、市況模様


12月に入った直後から年末年始からの世界情勢の変化を危惧する話が聞かれるようになった。時勢がらオバマ就任に合わせてのテロをイメージしていたが、まずは中東の古典的材料が復活した。ただ考えてみれば停戦協定が切れる期日を考慮すれば、今の閉塞感を打開する上でも再び中東が材料になる事は必然だったのかもしれない。

それにしても1日の攻撃としてはガザ地区の死者数はおびただしい。この死者の数だけで今後の展開をイメージすると空恐ろしいのも事実だ。だがその前に中東問題の基本をお浚いすると、まずパレスチナと一口にいってもガザはハマス、一方西岸地区はファタの勢力下である。過去10年はガザ地区が騒がしいく、最近はパレスチナ問題=ガザ地区と勘違いしている人が多いらしい。だがパレスチナの穏健中道はファタの下西岸地区でイスラエルと共存している。よって個人的判断基準はこの古典が70年代までのような世界の災いになってしまうかどうかは実はガザではなく、西岸地区の今後次第である。逆にいえば、戦闘が西岸地区まで波及しないかぎりこの問題は恐らくは誰かが意図している策略の範疇に収まる。そして相場もその連中の意図している方向に動くだろう。ただこれは危険なゲームの始まりである事は間違い。リスクは事態がそのコントロール下を逸脱していくことである。

そんな中で今の市場はホリデーシーズンと相まってまだトランス状態(薬の効果でぼうっとしている状態)である。この麻酔が覚めてまずどちらにブレるのか、今のところ明確なシグナルは出ていない。だがシナリオ通りだとすると世界情勢は悪化の様相になるだろう。下手をするとガザ(ハマス)からそのままイラン、更にはオバマ政権が一気にパキスタン/アフガニスタンの魔境地帯にまで巻き込まれるかもしれない。するとしばらくはドルと商品は下がり切らず、株はリ(イン)フレ期待からの援護射撃と企業と消費の悪材料が交錯する展開になるだろう。一方金利はFF(政策金利)の限界が近い以上は市場として主役になりにくいはずだ。せいぜい為替の受け皿程度の役割ではないか。

その今後の相場の主戦場となるべき為替市場が行き過ぎの反動で固定?に戻るような事態になれば、本当に金融機関によるマネーゲームの時代は一旦終わってしまうだろう。この市況の読者にとってはその時が実は本当の恐怖である・・。

2008年12月27日土曜日

年末特集<今日の視点>文系人材の欠乏

今オバマ次期大統領はハワイで休暇中である、その彼の見事な裸体(上半身)をいわゆるパパラッチが盗み撮りした。一方私自身はクリスマス休暇中に怠惰にもネットでTVドラマを探していた。そしてネットに掲載されたオバマの上半身を偶然見てしまった。ショックだった。私もそれなりに運動はしている。だが引き締まった彼の体は4歳年下の自分を蔑むに十分だった。

オバマは忙しい立場でも6キロのジョギングを欠かさないという。だが48歳にしてあのカッコよさは黒人というDNAを差し引いても、彼自身の努力の程が窺われる。実はオバマは幼少時代どちらかというと小太り気味だった。以前オバマ伝を書いた時、彼の母は小学生のオバマに出勤前の朝4時から3時間勉強をさせたという話を紹介したが、勉学同様今の彼の無駄のない体躯は恐らくその後の努力の賜物だろう。一方で永田町を牛耳る日本の政治家は赤坂界隈で身に纏った脂の量が貫録を現す時代がまだ続いている。

言うまでもなく日米は今歴史的苦境の真只中。経済の復活は政治家の英断の範疇にある。そんな中無論オバマはこちらでも特別な存在である。だから皆が期待している。一方の日本はこの局面にあってもこれまで同様の「脂的政局」を見せられているだけで新しい英雄による新しい国づくりの躍動には程遠い現状である。そしてこの差を考える上で幾つかの逸話を思いだした。それは幕末に咸臨丸で米国に渡った二人の英傑が初めて目の当たりにした米国について奇しくもその本質を突いた言葉を残した事だ。

勝海舟は日米のシステムの違いを端的に「我が国とは逆で、米国では上に立つ人はそれ相応に優秀である」との言葉を残し、また福沢諭吉は初代大統領ワシントンの子孫の行方を米国民が知らず、興味さえ持っていない事に米国躍進の本質を掴み取っているのである。即ち「政治家に本当の実力が備わっている事」そして「優れた政治家を選ぶ力が結果的に国家のシステムに存在する事」という現代に通じる二つの要素をこの二人は見抜いているのである。相場の世界にも通じるが、物事の本質を瞬時に掴み取る事と、改善を目指して一流を模倣する事は別の才能だと考える。この二人の英雄はまさに前者かもしれない。そして日本の戦後はこの二人のような資質が徐々に欠乏していった時代ではなかったか。

この疑問にスッキリとした意見を提供してくれたのが「国家の品格」の著者の藤原正彦氏だ。彼は最近雑誌の対談で面白い分析を披露した。戦後の名著の一つ、かの「きけ、わだつみの声」を紹介する過程で、彼は特攻で死んでいった学生には東大や慶応の高学歴者が多く、その遺書群の中に漢詩から西欧文学、また哲学やマルクス等の幅広い教養の跡を感じるというのである。そしてここからが藤原氏の分析だが、当時の特攻隊は文系学生が主体で理系の学生は即戦力として温存された為に戦後まで生き残った人が多く、それが日本の産業力復活の原動力になったとしていた。(文芸春秋より)なるほど。私の義理の父も戦後の日本の技術力を支えたエンジニアだが、以前に同様の話を聞いた覚えがある。だがこの話からも日本の文系学生のレベルの絶頂は実は戦前だったのではないかという疑念がよぎる。

そう言えば中曽根元総理は自身が徳富蘇峰で日本史の外郭を確立した事と、小泉元総理が司馬遼太郎の小説をよく持ち出した事を皮肉っていた。そして最近は麻生総理お気に入りの「ゴルゴ13」を読んで「麻生君は馬鹿だね」と雑誌で語っていた(週刊誌の新聞広告から)。この判断はやや老人の偏見の可能性も残しながら日本人として笑えない部分もある。

いずれにしても急速に景気が悪化した直後に日本政府が出した初案は総額2兆円のばら撒きだった。ただ米国からみるとこの策はこちらで殆ど効果がなかった春先の還付金の二番煎じにしか見えない。だとするとなぜ2兆円も出して効果がなかった還付金をマネをするのか。日本の技術はノーベル賞や昨日の宇宙ロケット技術の話題からも独自の力は維持されている様子。だがその技術力を活かすための総合力としての政治力、そしてその根幹となるべき文化(系)の力はいつのまにか偏差値上の案記力や米国のモノマネのスピードが尺度になってしまったと感じるのは私だけだろうか。

ところで金融の世界でも相場を理系の人に任せる事が流行りだして久しい。ただそれが100点満点の回答ではなかった事は既に証明された。やはり総合力では文系と理系の両方の資質が不可欠という事だろう。ただ一人の人間が二つの資質を身につけるのはやはり難しい。現実的には双方を兼ね備えた人を探し育てるより、マネジメント上は双方の人材を適度に整備する方が簡単である。ただこれまでの常識に反して日本の社会(実業)に欠乏しているのは実は文系の人材ではないだろうか。標準化された「文系」は溢れている中で本物の文系の人材が実はいない。そうだ。あの特攻で散っていった学生のような・・。そんな事を感じる年の瀬である。

2008年12月24日水曜日

<今日の視点> アメフト(力)

年末になり、こちらではアメリカンフットボールのシーズンも佳境を迎えている。昨日は摂氏-25度という極寒の中、伝統のシカゴベアーズ対グリーンベイパッカーズの試合が行われた。勿論6万人が入るソルジャースタジアムは満員である。中には裸になって盛り上げようする馬鹿な若者達もいた。

そもそも米国人のアメフトに対する熱狂は日本からでは絶対に解らない。ただこのエネルギーは凄いの一言だ。昨日あのスタジアムで一体どれだけの熱量(科学でいうところの)が生まれ、そして消費されただろうか。個人的にも過去幾度もシカゴベアースのゲームには誘われた。だがシカゴの寒さの中でゲームを見る気には一度もならなかった。そして今年は天候だけでなく皆の懐も極寒のはず、そんな中どのくらいの観客が入るか興味深かった。結果はTV画面に映し出された観客の数に圧倒された。

元々格式や常識を重んじ儒教に基本的価値を置く日本人は相撲や駅伝が好きだ。だが、天候も寒く、確実に懐も寒い今の米国人があれだけの熱量を生み出せるとしたら、それは「アメフト力」とでも呼ぶしかない。そしてこの「アメフト力」が持つ「無謀な力」は世界を支配しながらもどここかで政治や貧しさを感じさせる「サッカー力」とも異質である。強いて言うなら、私があの裸の若者達に感じたモノは、その昔甲板の米兵が突っ込んでくる神風特攻隊に感じた恐ろしさではないか。

そして「相撲力」や「駅伝力」からの常識で米国を分析する事はもしかしたら間違っているかもしれないと感じだ。なぜなら米国は指導者に「マジック力」があればこの「アメフト力」を最大に引き出す事が可能だからだ。そしてその熱量は測り知れない事が昨日の熱気が証明している。

いずれにしても、これまで私自身はアメフトに狂う米国人の無知と無謀さを覚めた感覚で観てきた。しかし実はこの熱量の創造力を本当は見習うべきかもしれない。

2008年12月23日火曜日

<今日の視点>マネーシャーマニズム

朝から面白い話だ。最近、水をえた魚の様にバーナンケ(中央銀行議長) の顔が活き活きしている。その理由は明らかである。まだ市場が市場の原理で動いていた時代、FED(中央銀行)は絶対的だったとはいえ、市場での1プレーヤーとして自己を抑制していた。従ってFEDがその絶対性を堅持するためには市場の動きに精通した人間、或いはそれが出来ると周りから信じられる人間がFEDを支配する事が不可欠だった。それが絶頂期のグリーンスパン前議長である。

その意味でバーナンケは市場のプレーヤーとしてのカリスマ性は前任者よりも最初から劣っていた。従って彼は就任以来どこかでその自信の無さを引きずり、その言動が激動の過程にあった市場の他の参加者による非難(捌け口)の対象になっていった。しかし時代は変わった。表面はともかく、一時的かもしれないが本質では市場の時代は終焉し、デフレ下の統制の時代が始まった。そうだ。彼の時代が始まったのである。だから世の苦境とは裏腹に水を得た魚のように彼は生き生きし始めたのであろう。

そしてデフレの専門家である彼はドルをばら撒きはじめた。ただここからが面白い話だ。朝のCNBCでは誰かがこの現実を皮肉り、それならいっその事米国民全てに10億円ずつ配ったらどうかというのである。真に本質を言い当てた話。そして計算したところ、3億の米国人に10億円ずつ配った場合、ドル換算で3「QUADRILLION」日本円にして「30京円」が必要になるという。(QUADRILLIONは1兆ドルの1000倍の位)

そう言えば以前視点では世界で蠢くデリバテイブの全額は1万円札を月まで積み重ねた金額でも追いつかないと表現した。38万キロの月までは3.8京円を積み重ねれば到達するが、記事を書いた9月の段階でデリバテイブ(派生金融商品)の総額は6京円に迫っていたのである。その時この「京の時代」の到来に興味をもった雑誌社から原稿執筆の依頼があった。そしてその記事は韓国の有力月刊誌にも転載されたとの連絡があった。一体これは何を意味するのか。

まず麻薬の重症患者が禁断の治療を諦め、痛みを止めるために更に麻薬を求めたとする。そしてその麻薬は単一機関の専売特許だった場合どうなるか。別の誰かがこの権利を共有しようとするか、或いは奪い取ろうとすると、歴史はその誰かを犯罪者にするか、または抹殺してきた。今のバーナンケはこのマネーシャーマニズムの崇拝の対象となった。夏までの批判が崇拝の対象に代わったのである。CNBCで自分の番組を持つジム クレーマーはその代表だ。そして英国や日本軍(関東軍)が中国や満州以南を支配した方法と同じ終末の麻薬政策、中央銀行によるマネーシャーマニズムを巷では量的緩和と呼ぶ。そしてその政策には新しい規模の金の位が必要になる。それが「京」や「QUADRILLION」である。

昔なら天文学の入口でみただけの「京」や「QUADRILLION」という位がマネーの世界では必要になり始めた事を世界も感じ始めた。ただ多くがそれをどう受け止めるべきかまだ分からない。「未来のインフレ」などと教科書的な話をしてみても代替価値としてのGOLDの値動きもいまいちだ。当然だろう。激痛に耐えかねてモルヒネ(麻薬)を打ち始めた体は最早覚醒しない。痛みの除去と引き換えにぼんやりとした感覚の中で生命体はその最後を迎えるだけだ。それを通常シャーマニズムでは「トランス状態」という。そうだ。今世界はトランス状態に入ったのだ。だが未来志向で言うなら、世界は一旦死に、今度は新しい体で再び生き返る過程に入ったとも言える。しかしその過程においても麻薬だけでは大した有効需要は生まれなかった事実も歴史は証明している。

今オバマ政権が真似始めたあのルーズベルトのニューデイール政策だけでは米国は復活しなかった。そう、マーシャルプランだ。そして、ヨーロッパの復興を舞台にした有効需要がマーシャルプランだったとするなら、新政権の黒幕は次はアジアを舞台にした新マーシャルプランを既に練りはじめている気配を感じるのは私だけだろうか。



2008年12月20日土曜日

<今日の視点>コロンブスの卵

20年前、中京圏で証券営業の仕事をしていた時の話だ。取り引き先の何人かの中堅企業の社長が同じ逸話を紹介してくれた。トヨタが無借金会社に変貌できたのは、その昔まだトヨタが資金繰りに苦労した時代、銀行に冷たくされた事がきっかけだったという。臥薪嘗胆、それ以降トヨタは銀行に頼らない会社経営を目指すことになった・・。

その意味では今起こっている金融危機からの困窮は変革へのチャンスでもある。ただ勿論全員が生き残れるわけではない。恐らくは早く自己否定を敢行した者。また早くコロンブスの卵(卵は潰してたてる)に気がついた者からその切符を手にする事になるだろう。しかし本日はそのトヨタでさえも71年ぶりに赤字になるかもしれないという話が米国の朝のニュースでも大々的に報道されていた。今はそういう時代だ。サバイバルの時代、中途半端な感覚(の人や会社)はいらないという事であろう。

2008年12月17日水曜日

<国家の焦点>プット/コール レシオ

今日のFOMC(中央銀行の金利操作)が何を意味しているかは言うまでもない。既に始まっているが、これからは痛んだ民間のバランスシート(資産)を一時的にせよ国家(FED)が引き受けるというメッセージである。

民間で発生したリスクを国家のバランスシートで引き受ける行為は、判断の失敗の責任を問われない場合、憂いを残しながらの新型社会主義政策である。そして米国はあくまでも国家とそのバランスシートを市場参加者の一人としてカウントする事で「市場原理の旗」は降ろさないという茶番を演じている。

まあそんな経済のイデオロギーなど本当はどうでもよい。どの時代も経済は政治判断の結果であり、イデオロギーなどは一種のトレンドであって絶対性などない。その時代の国民が幸せならいいのだ。その意味もあり「視点」ではフリードマンが亡くなった数年前から彼の原理が支柱となった市場原理は冷戦以降に流行ったトレンドにすぎず、米国でもケインズが主流だった時の方が長いと主張してきた。そう、これからはその主流に戻るのである。

そして官僚統治が続く日本では困難である事を承知で言うと、今こそ日本が米国に見習うべきはこの政治判断の迅速性である。考えてみるとこのブッシュ政権は小泉/竹中ラインに市場原理の徹底をあそこまで迫った政権である。ところが一旦システムが崩壊すると、そこからの転換は早かった。大統領選挙という変節もあり、国家が最大の利益を得るためにどう動くべきかの政治的判断は迅速だった。一方で属国の日本はあまりの米国の変節の速さについていけてない様子である。

ところで米国では「コロンブスの卵」の話は聞かない。だが今回の金融機危はFED(中央銀行)の機能を一気に拡大させた効果を持つ。これだけのFEDの権限の拡大は慣例やルールの枠組みが支配する平時ではなかなか進まなかっただろう。そうだ。今回の金融危機は実はFED機能拡大の為のショック療法に使われたのだ。そしてその発想の根源はあのコロンブスの卵である。

一方で悲観的な現象面の解説と常識にとらわれた中で改善策が見つからず無駄に時間が過ぎているが日本である。言い換えると日本は潰さないで卵を立てる方法をまだみんなで探っているような認識の甘さを感じさせる。いずれにしても重要な事はこの金融危機は経済問題ではなく政治判断の問題だとの認識である。しかし日本からのNEWSを見る限り、政治家は事態をまだ経済の問題と勘違いしているか、あるいは判っていても政治判断する責務から逃避している様に見える。

ところでそんな統治の立場としての日米の違いもさることながら、国民の価値観からの救済の本質の違いも大きい。昨日NHKでは派遣労働者の苦境をセーフティーネットの不備を説く議論で代弁していた。ただこの議論は全く無意味だ。なぜなら日本はシステムを完全に米国に同化したまま救済案の向かうベクトルが定まっていない状態である。その事例はプット/コールのオプションで簡単に説明できる。

まず「コール」とは、商品が値上がりした場合、その商品を実際には買っていなくとも値上がりした分を受け取れる権利である。一方「プット」とは、商品が値下がりした場合、その商品を売り損ねても値下がりした分を補填してもらえる権利である。そしてそのオプションとは、それぞれの権利を得るため保険と考えればよい。

そして米国はこれまでコールオプションの国だった。その代表が金融機関の報酬。ヘッジファンドも銀行のトレーダーも結果に応じて報酬が天井なしに延び、一方で結果に関係なくファンドは入口で2%の手数料を徴収し、また銀行のトレーダーも失敗しても給料から引かれる事はなかった。要するに成功した場合の報酬には上限がなく、失敗した時の損失は保険料の損失だけに限定されるコールオプションの原則がこの国の成長を支えたのだ。

一方日本人の本質は元々プットオプションを持つ事であった。この保険を持つ事で成功した時に浮かれ過ぎるより困った時の社会保障の確保を重視してきたのである。ところが日本のシステムは小泉/竹中コンビが推し進めたコールオプション型社会への変革が途中で止まり、今は静止状態である。このまま進むのか戻るのか。静止状態から転換ができていない。

これは相場と同じだ。間違えたと思うなら直ちに転換が必要。一方このまま進むならそれも良し。後は天運である。問題は脳死状態が長く続く事。米国はオバマ政権がコールオプション主義を変えるだろう。そしてそのスピードも速い。一方日本は現象面の悲観とその解説に留まっている。今のサバイバルの時代にぐずぐずしている暇はない。この時間の使い方に対する政治的決断力の欠如が日本の致命傷にならない事を心から願う。そうだ。今日本の政治に必要なのはあのパフォーマンス力だ。邪道だがここは小泉元総理にもう一度登場を願おう。そして彼は叫ぶ。「みんな、俺は間違えた。急いで引き返そう・・」と。


2008年12月16日火曜日

フリードマンからケインズ回帰、そしてマルクスへ

そう言えば数年前に出版されたプレストウィッツ氏の「東西逆転」では、苦境に落ちた米国が国境を接するカナダとメキシコ、更には太平洋を挟んだ日本を巻き込んで新しい経済同盟圏の枠組みを模索するシナリオがあった。先週、一部で言われたカナダがBIG3救済に協力するような話はこのプレストウィッツの政策を彷彿させる。 ところで、元々共和党政権は「カナダの資源」と「メキシコの労働力」と「日本の金」と「中国の市場」を必要としていた。4カ国は当然その事を承知していたはずだが、政権が民主党になった以上今後はまずは米国の出方を探らざるを得ない。そんな中では今日のWSJには米国債バブルの記事がある(米国債は実力以上に買われすぎ)。 これまでも米国債のバブルは言われてきた。だが実際にはここまで金利が低下した。そうだ。世界の逃避資金が米国債の他に行き場がなかったからだ。ただ世界各国は自国の政策においてケインズに回帰し始めた。結果金利水準が低すぎる米国債に投資する余裕がなくなってくるのは自明だろう。 いずれにしても、世界はフリードマンから再びケインズに戻ろうとしている。しかしそのケインズが働かないと、今度はいよいよマルクスが登場する番だろう。

2008年12月13日土曜日

折れた背骨

日本のニュースで世界経済は「複雑骨折」という表示があった。なる程、ただ世界経済が複雑骨折なら、実は米国はこれまで米国を支えてきた背骨が折れた状態である。今日はその話をしよう。まず。昨日自動車メーカー救済法案が上院でが不成立になった後、民主党上院を率いるリード氏は「明日の証券市場を考えると恐ろしい」と発言した。実はこの発言は背骨が折れた今の米国の本質をを表している。

その発言は正しい。そしてリード氏の議員として国家を憂う発言には違和感を覚えない。しかし昔の米国なら順番が違ったはずだ。順番とは本来市場は経済や国家運営の結果を表す場である以上、その上下運動は当然であり、たとえ下落してもそれで新陳代謝を促進する事が市場の機能だった。しかし民主主義=多数決の原則の中で過半数が市場の負け組になると、そのプリンシパル(背骨、原理、原則)に従順な共和党は今や変人使いされ、非難の対象である。

そしてその金融に支配された米国でこれまで名門と思われてきたファンドで5兆円規模の詐欺事件が起きた。NASDAQの会長まで勤めたマードフ氏が率いたファンドは5兆のうち1.7兆円は紛失状態。マードフ氏はファンドが元々不可能な利回りを提示し、そして運用の損は新たな投資家の資金で穴埋めする事を何十年に渡り続けてきたという。

これほどの規模のファンドでいかに情報開示とその精査がいい加減だったか。このファンドは1960年に設立されたファンドで既に認知度が高かった事が逆に盲点となったのだろう。いずれにしても「これは氷山の一角にすぎない」とあのデニスガートマン氏は言うが、この状況からは益々ファンドビジネスからは資金が流出、結果としての株式市場のダメージは大きいだろう。個人的にはGMの破産よりこの事件の方が来年に向けての悪材料である。

このような話は米国がマネーという魔物によって建国以来のプリンシパル(背骨)を失った事を象徴する。そして一見正しいようで実は場当たり的になってしまった民主党の政策を代弁するリード上院院内総務の発言は背骨が折れた外今の米国そのものを象徴している。




2008年12月12日金曜日

<今日の視点>ゾンビ国家

メリルリンチ証券の看板アナリストのが朝からCNBCで妙な事を言っている。論理は正しい。だが、米国が日本の不況の後追いをしている可能性をお恐れる出演者に対して、彼は「日本程ではないが米国のバブル崩壊も日本と同じ・・・」だから我慢が必要と言っていた。

メリルを代表する彼の「米国のバブルが日本程ではない・・・」という表現を聴いては笑うしかない。全く逆だ。だからメリルは最早単独で存在していないのだ。また同席の別のファンドマネージャーは、日本は倒産すべき金融機関を存続させたとして当時の日本の銀行をゾンビ銀行と呼んでいる。この発言に対しても笑うしかない。なぜなら今の米国はゾンビ国家以外の何物でもない。

そしてそのゾンビ国家米国では、ゾンビ化政策に対する期待が驚く程だ。それは皮肉にも昨日発表されたオバマへの支持率が全てにおいて7割近い事でも証明されている。そう言えばゾンビ映画のパターンはどれも同じだ。増殖するゾンビ群から逃げ惑う人間。まともな人間が一人また一人とゾンビ化する恐怖をゾンビ映画は追っている。

私も米国できちんと借金を払いまじめに生きようとすると、最近はゾンビ映画と同じ恐怖を感じる。そしてオバマに熱狂するゾンビ化した米国人は自分が既にゾンビである事を知らないし、また認めてもいない。これでは早く自分もゾンビなった方がいいかもしれない・・。

2008年12月11日木曜日

栄光の(Big)3から、お荷物(Burden)3へ

嘗て米国が物づくりをしていた時代、GM フォード クライスラーの自動車メーカーは米国の繁栄の象徴だった。そして人々はこの3社を尊敬の念をこめてBig3と呼んだ。しかし時代は変わった。英語で「お荷物」や「負担」の事をBurdenという。今の米国にとってBig3はBurden3となった。

そんな「お荷物」を共和党保守派は絶対に救いたくない様子である。オバマも承認し、ブッシュ政権も成立止む無しと妥協したBIG3救済法案をこの期に及んでまでその凍結を目論んでいる。当然だ。彼らはプリンシパルの男達だ。たとえBIG3 が過去の英雄でも、市場として役割が終われば消え去るべし、常に新陳代謝の中に米国の発展があると信じている。そして先の金融法案では下院の共和党保守派が救済法案成立阻止で意地を見せた。そして今回、この自動車救済法案では今度は上院の共和党保守派が成立を阻止するために頑張っている。

ところで上院は下院にない特権がある。それは最終的な法案採決は議員の多数決によるが、上院は質疑にかける時間に制限がない。よって下院では議長のナンシーペローシがその裁量で強引に採決に持ち込む事ができるが、上院では議員全員に所謂「牛歩」に持ち込む特権がある。

牛歩を阻止するためには100人の上院で60人の合意が必要となる。ただそれは先の選挙で民主党が圧勝した来年の上院でも一人かける状態。よってBIG3救済法案はいずれは成立するとしても、今上院で牛歩が起これば成立が大幅に遅れる可能性が出てきた。GMは来年の話をする余裕はない。今月の資金繰りが苦しいのだ。この共和党の抵抗によって場合によっては目先の資金に苦しいGMは倒産の可能性が出てきた。

さて以前より米国はデフレは誰も助からないが、インフレは誰かが儲かると言ってきた。今はインフレが何よりも恋しい。そのためには春先に150ドルまで暴騰した原油先物に様々な規制をかけて強引に壊した時の逆をすればよい。元々も原油先物市場は小さい。そしてその原油先物を最後まで抱えてしまったヘッジファンドの多くは10月にギブアップした。よって今原油先物に売りを出す邪魔者はいない。

そう、春とは真逆の政策をすればよい。多少のガソリン高は犠牲だ。最早庶民の消費力はガソリンが下がっても回復しない。それより原油先物等の商品をもう一度復活させ、それに株を連動させた方が資産価格の戻しは早い。今米国の株式が戻り始めたには実はその連動が始まったからである。その意味ではBIG3の救済は関係ない。その点では新陳代謝が既に始まっていると言える。

2008年12月10日水曜日

強面から宦官へ

今年は何かとシカゴが注目されていると感じていた。今は過ぎ去ったとはいえあの商品市場ブームからオバマフィーバーまで、確かにシカゴには追い風が吹いていた。そして昨日、シカゴは予想通りCITY OF THE YEAR(今年最も注目された都市)に選ばれた。

選出理由にはシカゴで撮影されて大ヒットした映画のバットマンの影響もあるという。そしてデイリー市長はこの勢いをオリンピック誘致までつなげたいはずだ。しかし本日はシカゴ抱えるイリノイ州でとんでもない事件が起きてしまった。なんとオバマが抜けた後の上院の議席を埋める人選の権限を憲法で一任されているイリノイ州知事が権限を乱用、裏で議席を競売にかけるという前代未聞の行為で逮捕されてしまったのである。

そもそもイリノイ州知事が逮捕されるのは前任者に続いてである。それどころかこの州では現職を含めて過去5人の州知事のうち3人が汚職で逮捕されたという。これだけ聞くと、さすが暗黒の時代にあのカポネを擁して汚職の街の汚名を維持しただけの事はある。ではそんなイリノイの今はどんな州なのか。

実は今のイリノイ州は民主党色の大都市シカゴを中西部特有の保守色が残る郊外の白人層が包み込む2色性を持っている。この点が郊外も比較的リベラル色が強いNYやLAとは異なる。よってここでは長らく民主党のシカゴ市長と共和党の州知事が仲良くバランスをとってきた。ところがそれが前回の州知事選挙から知事までも民主党になっていたのである。

そしてオバマ政権にはこのシカゴとイリノイ出身者(勿論大半が民主党員)が大勢名を連ねる。有名どころではヒラリー国務長官とマニュエル首席補佐官だが、それ以外にもオバマは側近をシカゴ人脈で固めている。率直に言って、オバマ政権は皆が期待する程のクリーンな政権になるだろうか。

そもそも政治にクリーンなどを期待してはいけないが、軍事産業を中心に権勢を誇った共和党のロビーイストが次々に失業する中で、今ワシントンのロビイスト専門派遣会社は民主党の有力者確保にやっきになっているという(NYTIMESより)。そういえば中国では豪傑が国を造り変えてもやがては内部崩壊を起こし、末期は宦官に支配された歴史が繰り返された。そんな中、強面の共和党の人脈に対して、民主党人脈にはどこかで宦官のような陰を感じるのは私だけだろうか。

そのあたりは次政権の鍵を握るであろうマニュエル首席補佐官の考察で触れたいが、それとは別に今日の知事逮捕に前後してのシカゴトリビューンの倒産はシカゴの凋落の予兆ではないか。いや、もしかしたらレギュラーシーズンを圧勝したカブスがプレーオフでずっこけた辺りから実はシカゴのピークも過ぎていたのかもしれない。だがここは一つオバマに期待したい。東京には申し訳ないが、オリンピックはシカゴであって欲しい。なぜならロンドンの後で東京になるパターンは歴史的にあまりにも不吉である。

2008年12月5日金曜日

FED(中央銀行)の絶対性再臨

BIG3の公聴会が始まった。GMのワゴナー会長はデトロイトからワシントンまで恐らく10時間以上ドライブした旅の疲れで顔には焦燥感が漂っている。彼の疲れきった顔を初めて見た。これまで彼は困窮の際も頼んでいるといるよりも要求しているといった、こちらのMBA経営者の特徴を備えていた。しかし今は憐れみが必要だ。また労働組合を代表したゲトルシャフトUAW会長は、「CITIを初め金融機関には白紙手形を渡した貴方達(議員)が我々BIG3 を救わないのは道理が通らない」とはっきり主張していた。そしてそれを応援する新聞広告。そこには「私たちは金満家の金融機関ではない」と意見広告がついた労働者たちの浅黒い顔写真があった。

いずれにしても国民のレベルが昔より脆弱になった今、米国議会の役割はその国民が納得する劇を演出することである。それで国民の過半数が満足すればそれでよし。そんなカオス(混沌)の真っ最中実体経済のかじ取りはカオスを引き起こした主犯の一人である中央銀行の手中にある。そしてその中央銀行は救済の番人として今は絶対的な権威を取り戻している。要するにこれが共和党保守派のロンポールなどが主張してきた愚かな民衆を手玉に足る「世紀の詐欺者、中央銀行」の面目躍如であろう。

それにしても今の米国からは嘗ての米国の時代が終わった事を実感する。その理由はFED(中央銀行)の軍門に下った今の米国社会から窺える。「中央銀行の軍門に下る」という言い方をすると普通の日本人は違和感を覚えるだろう。なぜなら日本では日銀は明治維新以来国家の中枢機関であったからだ。だが米国史では違った。

米国は建国して10年足らずでNYに株式市場を作った。しかし現在のFED(米国中央銀行)ができたのは1913年、明治維新直後の1882に設立された日銀よりも時代が新しいのである。そしてそれは偶然ではない。そもそもベンジャミンフランクリン等の「建国の父」達は米国が独立した当時に欧州を支配していた金融カルテル(例えばロスチャイルド等)の影響を嫌った。そして新大陸の米国では中央銀行は設立せずにドル紙幣の発行は国家、即ち財務省が管轄したのである。

この建国の精神が米国の直接金融の発展を支えた。だが皮肉な事にその証券化商品はサブプライムというモンスターまで産み出してしまった。そして今、混乱の中で米国の救済政策の舵取りは完全にFEDの手中に落ちた。これは米国建国の精神の崩壊に他ならなず、ここが私が米国社会がFED(中央銀行)の軍門に下ったと表現した背景である。

いずれにしても米国自動車業界の救済にもFEDは中心的な役割を発揮するだろう。そして救済の連鎖はますますFEDの支配を加速する。今のバーナンケ議長が黒幕とは言わないが、FEDによる米国支配は私たちが知っている古き良き米国の時代の終焉である事は間違いないだろう。

2008年12月4日木曜日

ミシガンからワシントンへの旅

先月GM,フォードなどBIG3の経営者達は税金による救済を求めて自家用ジェット機でワシントンに乗り付けた。そしてそこで議員に提示された改善案があまりにも生温い事て議会の顰蹙をかい、結局は救済の確約をもらえないまま帰った。そこで今回はGMのワゴナー会長は来年の給料を返上することを表明し、フォードの社長は本社があるミシガン州から自社のハイブリット車でワシントンに向かっているという。おそらく12時間はかかるだろう。まるで喜劇の様な話である。

最早BIG3の救済は誰も疑わない。だが赤字続きでもGMのワゴナー会長はここ数年の年収は5億円は下らなかったはず。そういえばかつて山一證券が倒産した時、泣いてしまった社長を多くの人は馬鹿にした。しかし有名大学の大学院で経営学を学んだ米国の大企業の経営者達、彼らは人間としてのモラルを学んでは来なかったのだろう。日本はこんな国の経営学を模倣していていいのだろうか。

さて株を見る限り救済に対する株式の反応はCITI以降確実に変化した。なぜならGSEとAIGまでは株主責任がとわれたが、CITI救済からはそれさえもなくなった。よってBIG3の救済にも株は警戒していない。それが今日の相場の特徴である。米国がBAILOUT(救済)のための資金調達をつづけられる限りは株は不安定ながらも底割れは回避される状態が続くという事だろう。

2008年12月2日火曜日

<国家の焦点>ソマリハは語る。

先日のNHKの「その時歴史が動いた」で幕末の激動の60日の特集をやっていた。偶然にも先週の今日の視点で西郷隆盛を引き合いに出した事もあり興味深く見た。そこで今日の題材にしたいのは「大政奉還から王政復古」までのドラマである。その前に徳川幕府は264年続き、米国は建国以来今年で230年が経過した事を触れておく。無論関連はない。だが徳川幕府も米国も誰かに打ち負かされた訳でなく、その終局は寿命からの改革のうねり、即ち「チェンジ」が主役だった事が共通しているとみている。

そして米国の建国からの年表を徳川の年表に入れ込むと、今年の米国は福沢諭吉が生まれた天保5年あたりである。従って本当の変化はまだ先かもしれないが、大政奉還から王政復古の間に興味深い事があった。それは人材不足の露呈である。薩長を中心に倒幕は完了したものの(大政奉還)、西欧列強が植民地の利権を窺う国難に際し、徳川に代わり政権を担う人材は天皇の周りは皆無だった。よって天皇が薩長に並ぶ勢力の土佐などの有力大名に呼び掛け、新体制に向けての御前会議を開いた。ところがその会議には薩長以外には殆ど集まらなかったという。そして土佐藩も新政権が徳川抜きで発足する事には、徳川に対する義理とまた260年徳川が仕切ってきた実力を考慮して反対だったという。(NHKから)

其れは竜馬も同じだったが現代の日本人の感覚からもこの土佐藩の考えは至極もっともではないか。しかし西郷隆盛は違った。彼は天寿が尽きた徳川ではこの国難を乗り切れないと確信していた。そして彼は自然のサイクルの中から次の新しい力が生まれ、その構図の中では己の自身も去る(死ぬる)時が来るとの原則を守っていた。即ち、それが本当の変化だという事を彼は貫いたのである。人材不足の危機の中、当時の日本に西郷がいた事は本当にラッキーだったと思う。それはチェンジを叫んだオバマの新政権が、現実の困窮に対応するという理由で実際は第三次クリントン政権になってしまったの陣容をみると尚更である。この陣容は徳川慶喜が明治新政権の総理大臣に座った姿を想像するとよい。機能したかどうかはこれからの米国が教えてくれるだろう。

さて、米国一国支配がもたらした悲劇はその一国支配の事実上の限界の露呈と同時に何を語るのだろうか。私はにはソマリアの海賊は世界の混沌の予兆にしか見えない。そもそもソマリアは冷戦時代はまだまともな国だった。それがソ連崩壊の煽りで内乱になり、飢饉が重なるとアフリカで最悪の無政府地帯になってしまった。そして冷戦が終わり、余裕の生まれたはずの国連は貧弱なパキスタン軍でゲリラに対処しようとしたが全く役に立たなかった。そこで遂に人類史上初の単独超大国になったばかりの米国が乗り出した。しかしその米国はクリントン政権に代わったばかり。そしてあの「ブラックホークダウン」で衝撃を受けると単独超大国の責務を投げ出しソマリアを見捨てたのである。

個人的にはこの決断は親父ブッシュが再選されていれば違ったと考える。いずれにしてもベトナムを回避した連中で組閣されたクリントン軟弱政権は以後単独超大国米国の影響力を金融市場を中心にシフトし、高成長を達成した。そしてその反動からブッシュ政権が生まれ、またその反動で今度はオバマ政権が誕生した。しかし、今の米国は再び自身の責任を投げ出したかのようだ。ただ今回は判断ミスではない。徳川政権の末期と同じく天命が来たのだ。そして米国を中心とする金融市場はかつての原則(プリンシパル)が消え去り、痛みを無くする事が正しい政策であるが如くである。そして周りの世界も全く代替案を出せない。ただ米国の行動は自らが導いた市場原理を率先して見捨てているに他ならず、その顛末は近い将来金融市場にうごめく海賊が支配する無法地帯として世界は知る事になるだろう。その時日本は既に餌食になっている予感がする。

2008年11月26日水曜日

末期治療

緒方拳の遺作となったこともあり、フジTVの開局50周年ドラマ「風のガーデン」が話題だという。早速便利なVEOH(パソコンテレビ番組)でダウンロードして観てみた。そこでは中井貴一演じる主人公の麻酔医が自身の末期のすい臓がんに究極の「痛み止め」を打ちながら失われた家族との時間をとり戻そうとする姿が描かれている。まあこれはドラマなのでいい。だが現実の米国では末期症状の痛みに耐えられず最終的なモルヒネをあちこちに打ってしまった。こちらでは痛みを無くす事と病気の根源を治す事を錯覚したキリギリスの終末はいかなるものかが興味深い。ただその結果には自分も世界も巻き込まれる。だがせめて最後の?クリスマスまでの時間はそっとしておくのがいいだろう。今日の株の終わり方にはそんな冷めた憐れみが漂っている。。。

2008年11月25日火曜日

<今日の視点>米国に必要なモノ

NHKの大河ドラマ、篤姫が佳境である。女性の情念を描く宮尾登美子という存在には毎回感心するが、やはり女性が主人公のドラマは女性が描く方が面白い。ただ中高年の男性歴史ファンには日本史が一番輝いた時代の男性ヒーローの描き方において、やや物足りなさを覚えた人もいるだろう。

その大河ドラマは米国でも日曜の夜に放送する。昨日は西郷隆盛にむけて篤姫が手紙を書く一番のシーンをやっていた。 ところで米国で暮らす自分にも日本史との接点がある。まず私はシカゴの先物取引所のメンバーとして日本人の見学者を取引所に案内した経験数では一番多いだろう。そして見学者を案内する時必ず話す逸話がある。それは記録に残る最初にシカゴの取引所を訪れた日本人の話しである。それは誰か。答えは岩倉使節団である。

篤姫では「片岡鶴太郎」が演じている岩倉具視は中高年には二つの写真が印象的だ。一つは使節団のメンバーと一緒に映ったちょん髷姿の岩倉。大久保や木戸が既に洋服姿であるのに対し、主賓の岩倉のちょん髷は異様である。そしても一つ昔の五百円札に写ったあの岩倉である。その姿にはちょん髷はない。

実は岩倉が髷を切ったのはこのシカゴであると言われている。米国に留学していた息子にここシカゴで再開し、その時に近代化を急ぐ「日本国の代表がちょん髷ではおかしい」と息子に説得されて彼は髷を切ったと言われている。そしてこの岩倉使節団にはあの西郷隆盛が入っていない。

日米の歴史や経済の転換点を見る上で最近感じるのは、西郷が岩倉使節団に加わらなかった意味である。視察から得た知識をもとに富国強兵を推し進めた大久保や伊東と次第に意見を違えた西郷。当然だった。グローバルな知識という観点では視察団に加わらなかった西郷の時代ではなかった。

自分の役割を知った西郷は郷里に帰る(一般的には征韓論での対立)。ただ司馬遼太郎流に言うなら彼にはもう一つ役割が残っていた。それは前の時代を完全に終わらせる為、即ち自分が死ぬ事だった。

篤姫では本来温情家の西郷が前の時代を完全に終わらせるためには徳川慶喜をどうしても討つ必要があると迫るシーンがある。理由はともかく史実では勝海舟との会見後に西郷は慶喜を助けた。しかし、程なくして慶喜と同じ宿命が自分に回ってきた時、西郷は甘んじてその運命を受け入れた。

私にはここが西郷の真骨頂である。そして視察から近代化へのスピードが日本の運命を左右する事を知っている大久保は西郷を助けない。これはこれでやはりさすがである。そしてその大久保も伊藤も後に暗殺される事は誰でも知っている。

いずれにしても今の日本人の生活水準はこの時グローバルな歴史のうねりの中で散った英雄の活躍があってのものだ。そして今の米国。初めての敗北といっても過言ではない困窮の米国。この米国の期待を集めるオバマ大統領の取り巻きの顔ぶれをみると、皆知識や経験(失敗も含めて)は豊富である事は確かだ。しかしどこかで空しい。CITIの救済案を見ても然り。既に終わったモノを歴史としてきちっと葬り去れない甘さ。また巨額な報酬を稼いだ人間達の織りなすこの不釣り合いなこの小粒さは何だ。

その昔勝海舟が西郷と初めて会った時の感想が勝から坂本竜馬にあてた手紙の中に残されている。その中で勝は「知識や見識、あるいは議論では自分の方が上である。だが今のような国難において、国に必要な男とはまさにあのような者(西郷を指して)ではないか」と結んでいる。そして、今米国に必要なモノが何かやっと分かった気がする。金ではない。ドル札は刷ればよい。必要なものは人、人材である。目先の変化はともかく、この国はオバマだけでは何も変わらないだろう。

2008年11月22日土曜日

市場原理は国家への反逆

今日の株の市場はCITI(日興シテイーの米国本社)の会議の結果を待ちながら上下のリズムを繰り替えしてた。そして突然オバマが新財務長官を発表すると株価は急上昇した。そのため株を空売りしていたヘッジファンドはあわてて買い戻す羽目になった。

細かな話をすればオバマがノミネートしただけでガイトナー氏本人が財務長官職を受託したかどうかはまだ分からない(普通なら受諾)。ただ市場関係者はガイトナー氏を最後の希望として待ち望んでいた。だがガイトナー氏に何かできるら、クリントン時代から今に至るまで彼はずっとその立場にいた。その点ではグリーンスパンと同じである。その現実をどう説明するのか。新大統領としてのオバマへの期待が大きすぎる事と合わせてガイトナー氏への期待感も私には後の悲劇の材料にしかおもえない。

さてCITIの会議の結果がどうなろうと市場関係者が意識しなければならない事が一つある。それは前回の金融救済法案の結果すでにCITIには25B(2兆5千億円)の税金が投下されている事だ。それにもかかわらず今日の終値でCITI株の時価総額は20B(2兆円)である。政府の救済資金は優先株として投下されたとはいえ、本日市場はその25Bを下回るところまでCITI株を売り崩した。(CITI株の終値は3ドル台)

今は新政権への移行の最中でいわば権力の隙間である。その中で国家は既に税金を金融機関にを投下した。必要があればこれからも大金を投下するだろう。そしてこの隙間を狙ったようにヘッジファンドは銀行株を売った。彼らはルール違反はしていない。だが国民の血税さえも食い物にしている事実だ。これは米国の国是だった市場原理を今後も野放しにする事は、国家経営そのものに重大な危機をもたらす転換点を迎えたということだ。

そもそもヘッジファンドは余裕のある富裕層の資金を元手にしている。ただ今回の金融危機ではその富裕層の資金も傷ついた。今ファンドマネージャーはその損を取り戻すために必至だ。したがって市場のルールの中では何でもする。今回のCITI株の急落の本質を解りやすく分解すると、CITIに投下された国民の血税がそのままヘッジファンドの収益につながっている。


今金融機関はどこも脆弱である。その中でもCITIは負け組だった。原因はCITIの経営にある。しかし仮にこのままCITIが倒産に追い込まれると衝撃は甚大だ。リーマンショックの3倍は覚悟しなければならないだろう。国益上CITIは絶対につぶせない。 米国はついに腹をくくる時が来た。


ルールとは国家利益のもとで変化する。それが国家経営だ。しかしヘッジファンドは損失の取り返しに必死になるあまり、現状のルールの中で暴れまわりすぎた感がある。江戸時代、栄華を誇った淀屋は幕府によって追放された。当時のルールでは淀屋に非はなかった。米国でもヘッジファンドの行動はいよいよ国家利益への反逆になりつつある。国家には誰も逆らえない。それは歴史が証明している。大転換点が近づいている。

2008年11月21日金曜日

天罰

2005年のドキュメンタリー映画「WHY WE FIGHT(なぜ我々は戦うのか)」の中で、イラクで地元の民間人が米軍の誤爆で大勢死に、それでもフセイン後の世界に一旦は希望を持っていた老人がしみじみと語るシーンが最後に用意されている。「俺には難しい政治の事はよくわからねえ、でも、米国がどんな大国であっても、こんな酷い事をする国がこのままで済むはずがない、必ず天罰が下る。。。」と彼は警告していた。米国に天罰が下るのはこれからが本番だろう。そしてその米国の暴走を止められなかった世界もその禍に巻き込まれる事を覚悟しなけれならない。今日の株式相場はそれを示唆している。

2008年11月19日水曜日

ビジネススクールの限界

BIG3救済の反対派の意見は、トヨタがハイブリットの開発に時間をかけていた時BIG3は間違った経営をしていた。だから潰れても仕方がない。むしろ潰すべきだとの意見に纏まっている。ただ議会が救済を承認するかどうかの判断基準は最早その会社の経営者の能力云々ではなく労働者である。これはオバマも選挙中に約束した。よって救済は不可避である。

しかし救済しても現経営陣の説明からは復活の見込を感じない。なぜならワゴナー氏(GMのCEO)はGMがトヨタに敗北したのは基本的な技術力の差ではなく、国が健康保険を負担する日本のトヨタと、労働組合による巨額な負のレガシーを抱えたGMとのコストの差であると言っているが、個人的な意見ではこれは完全に間違っている。

そしてワゴナー氏は本日の議会証言でも同様の証言をしていた。しかし一方でGMは本業の業績に関係なく、この10年間に年間10M(10億円)のロビー活動費を予算に計上している。当然今議会に救済を働きかけているロビイストへの支払も今年の予算に含まれているわけだが、私にはこの現実がGMはメーカーとしての品質競争を既に放棄していたとしか思えない。

10年で100M(100億円)をロビイストに払うなら、なぜ良い車を作る為にその金を使わなかったのか。やはり米国はマネーゲーム大国になってしまい、報酬を超えてモノづくりに情熱を感じる人は少ないのだろう。この事にはここ数年ビルゲイツがいつも警鐘を発していた。

MBAに行っていない自分には分からないが、恐らくこういう常識は米国の一流大学のMBAでは教えないのだろう。ただこの疑問がある限り個人的にGM車は買わない。いずれにしても、今の米国の課題は金融システムの再構築だけでなく、これまで世界の経営の模範とされたビジネススクールに代表されるマネジメントのあり方にも改善の余地はありそうである。

2008年11月18日火曜日

NYダウ6000台への足音

巨額の財政出動という現実に反して米国の債券市場は堅調である(金利が上がらない)。今の米債市場には需給や指標を前提にしたファンダメンタルからの常識と、乱世における国家間の駆け引きを前提とした相場感が混在する。個人的には今回の金融危機が起こるまでは前者だった。しかし2月にあるレポートを読んでからは後者の考え方も考慮した。そして今の債券市場は完全に後者の支配するところとなった。

そのレポートはNYダウが8000になるという内容だった。そもそも株の国の米国でダウが8000になるという事はシステムの崩壊を示唆する事と同じである。市場原理が終わり、国家による新しい枠組みが必要なる事は必然だった。そしてそれは起こった。ただ自分にもその予感があり、驚きではなかった。そんな中でそのレポートが斬新だったのはそれまでの米国の金融市場の常識を覆し、米国で一番重要な市場、即ち主役が株から債券に変わるという示唆さだった。

オバマ時代には一連の救済や新しい枠組み構築に5兆ドル(500兆円)以上の資金が必要になるという。その資金を誰が払うにせよ、調達のための債券市場は生命線である。株が主役だった時は企業はどんどん時価発行増資をして自分で景気の活力を維持した。しかし今民間は死んでいる。国家だけが頼りだ。これがこの米国でも主役が株式から債券市場に変わる具体例だ。この結果株は一次的に見捨てられるだろう。その時NYダウは6000台へ入る可能性が高い 。

そして、米国自身は金欠である以上別の誰かが払った資金はオバマ政権によってばら撒かれる。国の枠組みが崩壊し、パニックを起こしながら国家の資金がばらまかれる時は実は一攫千金のチャンスである。明治維新、戦後の復興、そしてソ連の崩壊のどのケースでもしたたかに財閥が形成されたではないか。

同じ事が米国で起こる。ただその主役になるのはこれまで主役だった金融機関ではない。また先日議会の前に引きずり出されたソロスに代表される老練な市場の専門家(ヘッジファンド)でもない。あの日のソロスにはその昔、米相場での儲け過ぎを咎められて幕府によって追放された淀屋の逸話を彷彿させる何かを感じた。市場原理の中で荒稼ぎした彼らの命運も実は尽きているのかもしれない。では誰が次に儲けるのだろうか。

今その絵図を描く人々がオバマの周りに集まりはじめた。ブッシュ政権がプラトンの言う「正義とは強者の利権」を実践した政権だったとするなら、オバマ政権で予想される弱者の救済は一体誰の利権に繋がるのか。その答えはそのうちだれの目にも見えるだろう。

この様に米国では更に株が下がる事で国のあり方を作りかえる理由が生まれる。その形態が一次的に社会主義に近くなっても国益に叶えばこだわる必要はない。国民の悲鳴はその為の条件である。そう考えると今回の危機は金持ち層の入れ替えが伴う試練だが避けては通れない運命である。運命は早く受け入れた者が勝つ。それが戦略である。一方でそこまでの国家戦略があるかどうか不安なのが日本だ。

本来「債券の国」であるはずの日本の弱点は株である。日本の金融機関が米国に同調する日本株の下落で体力を失う様は欧米とは異質の光景だ。そんな中でダウが6000までなった時、一番窮地に陥るのは日本であるのは言うまでもない。日本は早く戦略を持て。

2008年11月15日土曜日

日本人とポーカー

今週のこちらのニュースでいちばん印象に残ったのは、ラスベガスで開催されたポーカーの国際大会でデンマークからの19歳の大学生が優勝し、翌日の新聞に掲載された9憶円の札束に埋もれながらガッツポーズをしているその青年の顔である。まだあどけなさを残した彼は今後の予定を質問されると、大学に戻るだろうが、自分は「もっと賢い人間」になれるだろうし、そのための努力をしたいと答えていた。

そのポーカーゲームは日本人にとって馴染みのあるの娯楽とはいえない。私自身もこのゲームに精通していない。恐らくポーカーは嘘や虚を前提にしない性善説の国ではその本質が理解されにくいのだろう。一方性悪説が常識である欧米社会ではポーカーゲームは重要だ。なぜなら手持ちのカードの善し悪しと別に、心理戦を制する事で交渉やゲームを有利に進める事ができる。そのためにまず体得する習慣は手の内を晒さない事。そして今の混乱期の世界ではこのポーカーゲームでの才能がより必要とされているのである。

さて、米国からすれば地球儀上で大西洋を挟んで大陸を見据える役割の英国。英国のゴードンブラウン首相はブレア時代には財務大臣として米国と歩調を合わせた。しかし今回の金融サミットでは、同類ではないが、仏などの大陸諸国と歩調を合わせている。ブラウン首相の決断の結果の善し悪しは別として、彼の変身は世界情勢の変化の状況をかんがみ、首相として英国の国益考えた結果だろう。

一方、米国から太平洋を挟んで大陸を見据える日本の麻生首相はどうか。彼は相変わらず日本の国益は米国の言いなりになる事だと考えている様子である。金融サミットに臨むあたり、NHK特集で米国に唆された「日本の役割を示す時が来た」という馬鹿げた妄想で今回は主導権をもたない米国の援護にやっきである。

英国と日本。昔も今もそしてこれからも米国にとって最重要国家である。ただ英国は時に駆け引きを用いながら米国との関係を堅持するだろう。一方の日本。いくら米債を買い込み過ぎたとはいえ、日本は相変わらず人質国家のままだ。同じに米債を買い過ぎた中国がどんな対応に出るか、日本は中国から学ぶ姿勢を示せ。それだけで米国はびびるだろう。

なぜなら日本がより米国を必要とした時代が終り、今は米国がより日本を必要とする時代が始まった。そして米国はこの本質を必死で日本(人)に隠している。先のNHK特集もその為である。そもそも日本が米国との友好関係を維持する方法は米国の言いなりになることだけではないはずだ。英国とは米国に対する歴史が違うのは承知の上で、敢えて今は勇気をもって駆け引きの世界に飛び込む時が来た。

そう、ポーカーゲームの世界だ。この欧米流のポーカーゲームに対応できなければ日本において国益は結果論だけのモラトリアムが続く。

2008年11月14日金曜日

シカゴの暗雲、市況から

本来オヘア空港(シカゴの国際空港)から高速道路でダウンタウンへ下る途中に見えてくるシカゴの摩天楼にはスッキリとした美しさがある。其れはロングアイランドから眺めたマンハッタンの雑多な景色とも違う「建築の街」としてのシカゴ特有のシャープなコントラストである。しかし今日のシカゴのダウンタウン上空には見たこともない暗雲が立ち込めていた。そして心なしか街全体がなんとも言えない雰囲気に澱んでいた。まるで今の株式市場を映し出しているようだった。

ここまで株の雰囲気が澱んだのはなぜか。それは昨日のポールソン財務長官のスピーチが代弁している。彼は米国という国家が世界中を混乱に導いた責任を認めた。そして財務長官個人としても、数々の政策の場当たり的な変更を謝罪した。

もともと米国は単純な国家である。だからあのぺイリン女史が副大統領候補になりえたのだ。よって単純だった人々を束ねるはずの政権を含めた国家機能がブレるとどういう事が起こるか。米国が今のように統制力を失った醜態をさらすのは在米15年で初めての経験である。これでは株は上がらない。最早経済指標などどうでもよく、この澱んだ雰囲気をどう払拭するか。そこが全ての相場に影響するだろう。

2008年11月11日火曜日

理想と現実 過大な期待感の罠

オバマ大統領の誕生。ケニアの血を引き、アジアで暮らした経験を持つ彼が米国の大統領になる。これが世界史にとって画期的な出来事である事は、世界がその誕生を祝福している事からも覗える。ただ、オバマが類稀なる優れた資質の持ち主だったとしても、2004年まで無名だった彼が僅か4年で米国の大統領になるという政治史上の奇跡は一人の立役者がいなければ起こり得なかっただろう。ではその立役者とは誰か。答えは簡単、ブッシュ大統領その人であることは言うまでもない。そんな中ブッシュ大統領は本日オバマとミッシェル夫人をホワイトハウスに招き、引き継ぎの準備に入った。

ニュースは二人がホワイトハウスの廊下を仲良く歩いている姿を映した。不思議な光景だった。そこには選挙中火花を散らした共和党と民主党の新旧の中心人物としての確執の残像はなく、水と油の二人がホワイトハウスの白い回廊に自然に調和していた。オバマはブッシュに敬意を払い、ブッシュも党の困窮を尻目にどこかで肩の荷が下りた安心からか朗らかにオバマを迎えていた。そうだ。結局この二人は米国史において南極と北極のような磁力を放っていたのかもしれない。そして歴史が大転換する節目において、その両極の磁派は反発しているようで実は引き合っていた。だからこの奇跡が起きたのである。

オバマ大統領を誕生させたエネルギーには彼の資質とその運命から発せられた正の力だけではなく、実はこれもまた米国史上類を見ないブッシュ大統領からの反発のエネルギーが加わっていた。言い換えるなら、仮にブッシュ政権が普通の退屈な政権だったらまだオバマ大統領は誕生していないだろう。なぜならこの政権がここまで米国をぶち壊さなければ、若者は大した危機感も持たず政治は退屈に流れたはずだ。そしてその場合民主党の大統領候補者はヒラリーだっただろう。その意味でヒラリーの女性初の大統領への野望はオバマに負けたというより、ブッシュに邪魔されたのである。

さてそのオバマはシカゴで著名人との経済会議を終え、今後の米国経済をどう立て直すかのスピーチをした。とっさに飛ばした冗談は頭の回転の良さを語っていたが、ただ選挙中にみせた自信漲るあのスピーチは影をひそめ終始表情は硬かった。それも仕方がない。これからの彼のスピーチは夢を語る為のものではない。現実の米国に直面し、具体策を国民に伝える為のものだ。

要するに実際に大統領になった後のスピーチには楽しいものは少ないという事だ。そしてそれは彼にとって初めての経験である。選挙中の夢を語る彼は凛凛しく、その雰囲気にサポーターは酔った。しかし今米国が直面する危機は国民に飴を与えることだけでは解決しない。むしろ苦痛を要求する事になるだろう。彼の表情が物語るものは、改めてその現実の厳しさと具体策は夢ではない事を実感した証ではなかったか。

いずれにしても、熱狂の中で実際にオバマに投票した米国人の期待感は外からこの国を分析している人に説明する事は難しい。ただ今のオバマを見る限り、以前から抱いていた「熱狂の中での期待が大きければ大きいほど結果が満足できない場合の失望感は大きい」との不安がより重く感じる。その失望が米国人に広まった場合、市場には何が待っているのだろうか。

2008年11月9日日曜日

メイドインUSA

今日のNYTIEMSの一面は下院議長のナンシーぺローシと対面しているBIG3(GM  フォード クライスラー )のトップたちの写真である。その写真から窺われる雰囲気は和やかで、とてもこの3人が倒産に直面した自動車会社の経営者とは思えない。むしろ営業利益が1兆円減ったとはいえ、真の余剰資金額ではもしかしたら欧米の金融機関が全部集まっても勝てないかもしれないトヨタの副社長の苦渋に満ちた決算発表での姿の方がよほど危機感に満ちていた。それもそうだ。この3人の経営者で生え抜きはGMのワゴナー氏一人。そしてその彼とて財務担当のアナリスト出身。またクライスラーとフォードCEO(経営者)はエンジニアではあるもののそれぞれHOMEDEPOT(住宅材デパート)とボーイングというの畑違いの出身だ。全員が油の匂いがする車作り現場とは程遠い印象である。(たとえば本田総一郎のような)

金融の仕事がらBIG3の凋落は金融市場と同時に常に見守ってきた。そしてこの3人に共通するのは金融市場がBIG3 の倒産の危機を叫んでいる時もどこかで他人事のような覚めた雰囲気を維持している事だった。業績が落ちぶれてからオーナーに請われて就任したフォードとクライスラーのCEOはともかく、なぜGM生え抜きのワゴナー氏からもそんな他人事のような覚めた雰囲気を感じるか。

想像するに、彼らがCEOとして責任を感じるのはビジネスの根幹の車の性能ではなく、株主に配当を払うバランスシートであるとの感覚がその様な冷めた雰囲気を醸し出しているのではないか。ならば国家による救済が必然となった今、彼らから写真のような笑みがこぼれるのも当然かもしれない。ただ個人的には経営者がバランスシートは気にしても自社の製品の性能に対して責任感をもたないメーカーの車は絶対に乗らないだろう。

2008年11月7日金曜日

<今日の視点>歌手の器量

今日のナンシーぺローシ(民主党下院議長)と明日のオバマ。来年以降このBLUE国家(民主党主導の国家)を率いる民衆党の主役があいついで経済政策に取り組んでいる。本日ナンシーはBIG3と会談。明日オバマは大統領になる事が決まった上で初の経済対策を発表する。ただ市場はその方向性については既にに織り込んでいる。それはBIALOUTだ(救済)。

金融機関にあれほどの救済を施した以上は自動車のBIG3も救わざるを得ない。そして最後は個人を救う。そしていったん崩れはじめた原理は途中で止める事は難しい。なぜなら不平不満が起こる。不平不満は更なるモラルの低下を発生させるのだ。

そこでその時代に備え、敢えてモラルをどう無視するかを小声で話したい。ズバリこれからは借金を返してはいけない。なぜなら最後に徳政令が待っているとすると、まじめに借金を返すと馬鹿をみる。現金はどこかに隠しておくべきだ。そんな悪いこと考えながら最近の話題から小室哲哉とあの千昌夫の違いを考えた。

小室哲哉の凋落はこの米国でも類を見ない。ただ借金の金額では千昌夫の足元にも及ばない。小室の借金は数十億、千昌夫が抱えた借金は数千億の世界だった。一説よると千昌夫の借金はピークで3000億に達したという。そしてその債権を抱えた金融機関はBAILOUTされ、国民の税金が投入された後外資の手を経て立ち直った。未確認情報であるが、この過程で千昌夫の借金は1000億に減額されたという。借金が1000億になってもその金額を歌手業で返済するのは無理だろう。それでも彼は破産宣告を選ばないという。

今多くの日本人は小室の凋落に驚き、様々な感情でこの事件を受けとめているはずだ。ピーク時、小室の派手さに嫌悪感じた世代もあるだろう。そんな中でその世代からは千昌夫の批判はあまり聞かない。むしろ私の家族には今でも彼の熱烈なファンがいる。小室はたかだか数十億の借金のために詐欺を働き、犯罪者となった。一方で数千億の借金を棒引きにした千昌夫はまだ1000億の借金が残っている事で私の家族からは侮蔑というよ同情されながら時より「北国の春」を歌っている。ある意味で男の器量の話かもしれないが、ただ日本国民に迷惑をかけたのは本当はどちらだろうか。これも世の中の原理である。BAILOUT(救済)の時代とは一体どんな時代になるのだろう。

2008年11月5日水曜日

小さな変化と大きな変化

まだ米系に在籍してた頃に米国の市場原理の終焉を感じ「視点」を書き始めた。そしてそのイメージが確信に至ったのは余りの流動性に自分自身が慄いた2004年である。そして崩壊が実際に起きた過程のスピードとエネルギーは自分の想像を遥かに超えていた。一方、いつか米国に非白人の大統領が生まれる事を想定はしていたが、オバマの事を初めて其の候補者として紹介したが2004年だった。そこから僅か4年だ。本当にそんな事が実現してしまった。これも想像を超えたスピードだった。

世の中が変わる際のこのマグニチュードとスピードをどうマネッジするか。「先を読む」という事はそう言う事だ。しかし今回その難しさ改めて認識した。そして、昨日はオバマを応援してきた世界中のオバマファンには夢がかなった事になるが、喜びの時間は短い。今日からはこのスピードでこれから起こる事に準備しなければならない。まず株は上がってもあと500ポイント前後。そこからは長く苦しい道のりが待っている。

昨日勝ったのはオバマと民主党だが、その意味は本当の勝者は「資本家から弱者へ」という国是の変化である。実は世界は米国のこの変化に接するのは歴史的に初めてだ。そして過去の民主党政権がどうのこうのと持ち出すのは全く意味はない。なぜならバフェットが言う「右に行き過ぎた修正は左に行き過ぎる事で修正される。」は他でも同じ現象をもたらすだろう。「上がりすぎた価格は下がりすぎる事で修正される。」「喜びすぎた人は悲観のどん底にたたき落とされて修正される。」そして、仮に地球上の人口が増えすぎたなら、それはどういう形にせよ減ることで修正される。

世の中にはこの極端なエネルギーがする。だからこそ昨日の結果となったのだ。我々はこれからその大きな変化の現実に対処しなければならない。オバマの言う変化とは、実はその小さな一部である。

2008年11月4日火曜日

生殺与奪の権限

実質大半が脳死状態に落ちた米国金融機関に対する救済策。どの銀行に資金を入れ、どこには入れないか。その判断は財務省が任命した救済策の担当者にゆだねられる。即ちこの担当者にはその「生殺与奪の権限」が与えあられた事になる。本日のNYTIMESには中心となる5人のメンバーのプロファイルが載っていた。ただ先週彼らが行った第一弾の資金注入は議会の間で評判が悪い。例えばバーニーフランク。彼は紛糾した法案設立の過程で政府と議会の間を奔走、ポールソンを助けた。しかし不良債権の買い取り案が突然資金注入案に変更した際、財務省は金融機関のボナースパッケージに手をつけなかったことに憤慨して今は救済案の第二弾には反対票を投じる事を示唆している。要するに米国は金融危機に落ちた過程での脆弱さもさることながら、この危機から立ち直るプロセスにおいてもかつて我々の世代ががハリウッド映画を通して信じてきた「正義の味方、不死身のヒーロー」といった米国の象徴は何処にも感じられないのである。

その失望感を前提に先日報道されたNHK特集の日本とアメリカの第二弾をみると、NHKの報道の意図は全く理解不能である。ワシントンの日本大使館のスタッフが次の政権に備えてオバマ/マケインのアジア(日本担当スタッフ)から情報を得るために奔走する。そこで次々にぶつけられるのが日本の役割に対する未来の政権スタッフによる脅しにも近い強要である。特に共和党政権下のスタッフは中国の台頭を引き合いに出して日本は国際社会から忘れ去られると何度も強調していた。一方民主党の未来のスタッフは、オバマが世界に対する米国の態度を改める事を示唆している事に合わせ、米国の力の低下を素直に認めて日米関係強化を紳士的にアプローチしている。

そこで気になったのはNHKの報道がオバマ・マケインどちらの政権になっても日本は米国に強調しないと大変な事になると圧力をかけるような内容になっている点だ。ただ冒頭の金融機関の救済案の顛末からも、今の米国は日本が盲目的に追随しなければならない絶対性は既に無いという見地を日本は持っているだろうか。持っているのは米国である。だから彼は必至なのだ。共和党はこれまで通り単純なアプローチで直言し民主党は柔らかいが老獪である。いずれにしても今の米国は日本が戦争で負けたあの米国ではない。今の米国は日本に対して「生殺与奪の権限」の剛腕はもっていない。ただ現状の国際政治の相対性からも日米関係が軸である事にだれも異論はない。しかし米国に脅される時代は明らかに終わった。幸いNHKの報道の仕方とは裏腹に、大使館の外務省スタッフの発言には冷静に日本の国益と米国との距離を測る意図が十分感じられた。

2008年10月28日火曜日

201Kプラン

そもそもヘッジファンドが隆盛となり、それに呼応するようにサブプライムを含めた様々な高利回り?の新商品がここまで世界を席巻した背景は金融のシステムの問題ではない。一言でいえば人類が豊かになり、先進国では戦争を経験していない世代、また資産価格の上昇の恩恵を一番受けたベービーブーマーという人々が、引き続き豊かな老後に向けて過剰な流動性が醸し出した空想のリターンの水準に疑問を持たなかった事が本質である。

そして言わば人間としての防衛本能が退化した結果、本来世の中の主役になってはいけない「ヘッジファンド」という存在がここまで大きくなり、彼らと商売をするために銀行機能がSTEWARDSHIP(執事)からSALESMANSHIP(セールスマン)になった。頂点にあったグリーンスパンFEDはこの変化を見逃したのである。(一部では誘導したとの説もあるが)

その意味ではヘッジファンドはベービーブーマーの期待に応えようとしただけかもしれない。そして歴史はそれほど不公平ではなかった。ベービーブーマーが構築してきた資産は今崩壊している。ただこれは歴史的観点でみると実は「調整機能」の範疇なのかもしれない。

そういえばこちらで代表的企業年金を401kプランと呼ぶ。全く無関係だが米国のベービーブーマーが豊かな老後を迎える為の平均的必要資金も概ねこの金額である。($401000として、利回り8%で年間3万ドル前後)しかし今後は401Kは難しい。せいぜい「201Kプラン」がふさわしい時代となった。恐らく、皆がそれを観念するまで、ヘッジファンドによる解約売りは終わらないだろう。

2008年10月22日水曜日

ファイナンシャル パンデミック(金融感染爆傷)

たちの悪い風邪に気を付ける季節となった。興味本位で調べてみると、1918年~19年、地球の人口が12億だった時に5000万人が死んだ驚異的インフルエンザのスペイン風邪は、スペインではなく実は米国で発症したとの事だった。そして諸説あるが最も信頼できそうな研究者の本では発祥地はこのシカゴだったとの話には驚いた。(ボストン説もある)

第一次世界大戦で派遣された米兵からの感染で欧州で一気に拡大。スペイン王室の被害も大きくスペイン風邪となったとの説もある。いずれにしても、スペインが直因でないのに人類史上最悪のインフルエンザに自国の名前をつけられてもあまり騒がないところはいかにもスペイン人らしい。そういえば米国発のサブプライムで欧州で最初に経済が崩れたのがスペインだった印象だが、今回の金融危機は増殖したウイルスのようなマネーが世界中に影響を及ぼした点で後にはファイナンシャル パンデミック(金融感染爆傷)として伝えられるだろう。

そして、スペイン風邪が世界人口の4%を殺戮した事を踏まえると、このパンデミック(感染爆傷)の恐ろしさを侮ってはならない・・。

2008年10月18日土曜日

日本人の幸せ



米国では犬はドックフードで育つ。しかしそれはアメリカの犬にとって不幸である。なぜなら。NHKの番組によると、人間を含めた動物の味覚は、直接味を感じる舌と、匂いを感じる神経が脳内で融合して「美味さ」を感じるというからだ。

犬は人間の数千倍の嗅覚をもっている。せっかくその力を持ちながら、ドックフードしか知らないで一生を終えるとしたらそれは不幸だ。

その点で我が家の犬は幸せである。なぜなら飼い主が躾に失敗したため、彼はテーブル上の様々な食べ物の味を既に知っている・・。

そもそもラーメンや蕎麦を、音を立てながら啜る事を無作法とするナイフ/フォークの国で、舌の感覚と匂いとの微妙な調和を楽しむ日本食のテイストが本当に理解されているか疑問。

今世界中で日本食ブームが起きているとはいえ、実際に欧米人で日本食の本質を理解している人は少ないのではないか。

以前も紹介したが、著名な和食の本によれば、日本食が他国の料理と決定的に違うのは日本食の味覚は「足し算・掛け算」以外にも「引き算・割り算」で構成される事がある点だという。

確かに中華もフレンチもソースが基本。従ってナイフフォークで優雅に食べる為にふさわしい。その点日本食は素材の味を活かすために様々な「引き算・割り算」の手法がある。

旨い蕎麦の決め手は匂いだという。そしてその美味さを感じる為には豪快に啜る事が肝要であるらしい・・。(NHK)

そう言えば、世界一の金持ちのバフェットはビックマックが好物だという。NYやシカゴの金持ちには日本食も含めた美食家が多い。しかしオマハの田舎では日本食は無理。彼が自宅にビルゲイツを招待してカードを楽しむ時は、必ず共通の大好物のビックマックを用意する逸話は有名である。

世界の富の支配者の大好物が結果的に5ドルのビックマックだとの話を聞いた時、自分は幸福感を感じた。なぜなら庶民の自分でも、ビルゲイツやバフェットに優越感を感じる事が出来ると知ったからだ。

彼らへの優越感?それは自分は、彼らよりも美味しいものをより多く知っているとの確信である。

人間の一生を80年とすると、普通の人が一生に食事をする回数は6万回程度だ。この6万回の機会をどう楽しむか、実は重要である。

バフェットの様に有り余るお金はなくても、自然の中から美味しいものを日々発見しながら一生を過ごす事がどんなに幸福か。これは「知らない人」にはわからない話だ。

ところで、評論家は未だに90年代を失われた10年という表現をする。ただ失われたモノとは何だったのか。今になって考えると、それは欧米が期待した成長力ではなく、日本人の自分たちの幸福のスタンダードだったのではないか。

いずれにしても、瓦解していく金融資産の時価を見ながらこれ以上暗くなるのは健康に悪い。6万回しかない食事の機会。美味しいもを見つけきちっと楽しんで食べよう。それが自信回復への第一歩と考える・・。

2008年10月16日木曜日

<今日の視点>不思議の国アンクルサム

ヘッジファンドからの資金引き出しが話題だ。ただそれはピークに近い。一方ミューチャルファンド(投資信託)では先週の1週間だけで前代未聞の65B(6兆円)が流出した。CNBCに登場する多くのゲストはこれらの現象を受けて、「巨額の資金がサイドラインにあるという・・。」しかしこれは真っ赤なウソだ。サイドラインには金はなく、現金化した資金は次から次へと消えていく。これが金融資産6000兆円、デリバテイブの総額が5京3000兆円という新次元の世界で起きているマネーの収縮現象の現実である。

そもそもこの現実は大恐慌どころか、おそらく300年の近代経済史上で初めて起こっている大バブルの崩壊である。ひとつのヒントは1930年の大恐慌は米国民の一人一人にまだ健全性が残存していた頃の話。それはSAVINGレート(普通預金残高)で判る。SAVINGレートが大暴落の結果マイナスになった大恐慌当時と、2004年の頂点の手前でSAVINGレートがマイナスになった事を全く気にしなかった「不思議の国のアンクルサム」では全く同じ米国人でも異質な人々である。

そして、世界もまだ未来の超大国への位置づけだった1930年代の米国と、世界全体が米国化してしまった後の今の米国の挫折を同じ次元でみる事はできない。その一例は日本株。日本株はレバレッジが30倍以上だった米国と同じ比率で下落している。日本企業の低レベレッジからすれば、最初に買い直されなければならないのは日本株だ。しかし日本人が米国化してしまった事で、同じレベルで震撼しているとそのチャンスをすくってくるのは米国のプライベートEという事になろう。

日本の金融機関はサブプライムで傷が少なかった。だがその政策的持ち株は金融機関としては世界で突出している。そしてヘッジとしての巨大債券ポートフォリオ・・。これは経済が困難な時期には債券ポートが利益を出す事で効果があったかもしれない。だがキャッシュクランチに落ちた世界の狼たちがこれから円債に眠る巨大資金をめぐり動き出す。すると、どんな形にせよ円債市場から資金が流出、円金利の上昇は避けられないだろう。

その際金融当局からまだ銀行勘定では「債券先物の買い」が出来ないなどという世界的にも信じられない足かせを嵌められた日本の金融機関は実は一番苦しい事になってしまうのではないか。そして、それが日本国民の不幸として襲いかかる・・。

いずれにしても一人一人が相対評価で慣らされてしまった時代はサバイバルの時代の意味がそもそも理解されているかどうか疑問。個々の健闘をお祈りします・・。

2008年10月14日火曜日

<今日の視点>初めての冬

最近までのフリードマン(サッチャーやレーガンの経済政策を導いたノーベル経済学賞受賞者)全盛時代に異端児扱いされたクルーグマン氏がノーベル経済学賞を取った事と、金融救済案が当初ポールソンが主張した不良債権買い取りから一気に180度転換して公的資金投入へと突き進んだ背景には関連があるのか個人的には分からない。ただ、救済案が議会で可決されてから更に下げ足を速めた株を見てブッシュ政権が遂にギブアップした姿は、米国が初めて何かに敗北した象徴であった事に間違いない。よって、今の株高は未来への光ではなく、昭和20年の8月、東京大空襲から沖縄戦、更に広島、長崎に落ちた原爆を見て日本国民が味わった震撼が敗戦の事実を受け入れた事でとりあえず緩和されたあの局面である・・。

さて、そのクルーグマン氏と久しぶりにCNBCで元気な姿を見たジュリアンロバートソン(90年代にソロスと並び称されたヘッジファンドの重鎮)が同じ事を言っている。それは「問題はこれから」という事だ。そしてジュリアンロバートソンは90年代の日本の苦境を引き合いに出す愚かな米国人アナリストがこれまで誰も言わなかった事を言った。それは、当時日本には巨大なSAVING(普通預金)があったという事。よって彼は明確な表現は避けたものの、日本の90年代に比べ、米国の今後の方が厳しいとの見方をしていた。私の記憶では彼は90年代に日本の巨大円債市場に売り向かい、そして敗れた。だから彼はこの本質に最初に気づいたのかもしれない。そして巨大なSAVINGではなく、巨大なレバレッジを築いてしまった米国人は大半がその事にまだ気づいていない・・。

まだ住宅バブル真っただ中の2004年から米国の貯蓄率はマイナスとなった。これは大恐慌結果として貯蓄率がマイナスとなった30年代の当時の米国と比較しても、今の米国人の抱える根本的問題を代弁する。それは何年も異常気象が続き、生まれてから全く冬を知らないまま大人になったキリギリスが初めて冬に直面する様なものだ・・。

いずれにしても敗戦後の占領政策は苦い。今ポールソンが発表している公的資本注入に伴う銀行管理への大筋は日本の模倣。これは太平洋戦争の敗北と、そして90年代の金融自由化戦争では負け組みと言われた日本と立場が入れ替わった瞬間に今我々は直面しているという事だ。ただその事実をどう使うか。残念ながら日本でその使い方を知っている政治家や経済人の存在を私自身は知らない。むしろイソップ童話の蟻とキリギリスが日本だけ最後の終わり方が違うという現実がここで不気味な予感を呼び起こす・・。

2008年10月9日木曜日

<今日の視点>マグロの集団自殺

日本円で100万の札束の幅を仮に1CMとする。そしてそれを延々と積み上げていく。月まで到達するの必要な札束はいくらになるか。月までの距離が38万キロMらしいので、計算上は3.8京円という正に天文学規模の札束がいる。そんな中、本日のNYTIMESには興味深い記事があった。そこでは世界のデリバテイブの総額が$531Tとの解説がある。(日本円にして5.31京)内訳は$464Tが金利通貨スワップで圧倒しており、それに比べ株式関連のスワップの$11T、話題のCDSは$54Tとまだ大したことはない。そしてこのデリバテイブの総額は2002年の$100Tから2008年までのわずか6年間に5倍まで膨らんだ。恐らくこの事実は10万年の人類史上で最大のバブルではないか。

そして一旦この市場が機能しなくなると裏付けのために各国の中央銀行は一気に資金を供給しなければならない。すべての通貨で一体どれだけの札がプリントされるのか。日本円で月まで届く程の札束を印刷するのは現実的ではない。従って金融市場はルールを大幅に変えるしかない。まずは金融機関を国有化する事で市場に心理的安定を与える。ただそれでは資本ルール上金融機関はこれまでの様なリスクを取る事は出来ない。即ち民間による成長への自転エネルギーは大幅に縮小される。

金融法案を巡って揺れ動いた先週、ポールソンは金融機関への資本注入案を頑なに否定し続けた。しかし昨日その可能性を発表せざるをえない程に彼は追い込まれた。個人的にはその背景には大手の銀行があると読んでいるが、何んにせよ、米国は常に成長を前提に走り続ける事で成り立ってきた株の国。言わばマグロの大群の国である。(天然マグロは常に高速で泳いでいなければ死んでしまう)。

それで株が買えるのか。米株市場にはいずれ短期金融市場が落着く事とは全く違う次元の難問が待ち構えている。

<今日の視点>ノーベル生活学賞

そもそも米国による一極支配の終焉が他国に及ぼす影響は様々な症状を持つが、今回の金融危機で米国の権威は失墜、またドルはユーロ通貨が自滅した為通貨としての相対価値は維持されているものの、単なる消費財としての商品群からは一線を画して乖離を始めたゴールドに対しては価値を失い始めている。その本質を一口で言うならスタンダードの崩壊。即ち世界が目指したはずの権威と価値の消滅である。ただそんな中で現在もその権威と価値の存在を証明したのがノーベル賞だ。

そして今回は日本人が一挙に4人受賞するという快挙。そこで私はスエーデンに提案したい。独自の人間学からすれば、所詮は「流行り、廃り」だったかもしれないノーベル経済学賞を廃止して(そもそも経済学賞はノーベル賞の原型になかった)これからは新たにノーベル生活学賞を設けるべきである。ただ生活学賞とは何だ。ヒントは平和賞。世界平和に貢献した人にノーベル平和賞がある様に、宗教で人を殺さず、他人に迷惑をかけず、友好を貴しとして己の消費のみに固執することなく世界平和と地球環境に則した生活を実践した人や国家に送る賞である。そしてそれは市場原理に替わる価値だ。 この価値観は性悪説の国々には理解不可能だろう。しかしスエーデン人には理解されるのではないかと個人的には考える。

さて昨日の討論ではマケインは、私が大統領になれば、財務省に強制退去の危機に瀕した国民のモーゲージを買い取らせ、利率を再考し、国民が支払いの継続が出来る様にモーゲージのリセット命令を出すと言明した。本来共和党保守派のマケインも先の金融法案あたりから自分を見失なっていたが、ここまで来ると最早見苦しさを超えて頭がおかしくなったレベルである。ただ追い込まれた米国はFEDにせよ、財務省にせよ、またSECにせよ、次々にモラルという表現を超え気が触れた様な話ばかり持ち出す。SECは時価評価を辞めてMARK TO MODELなど訳のわからない事を言い出した。以前「中国の輸出食品」と「米国の金融商品」は世界に中毒症状をばらまいた点で同類だとしたが、ここにきて改善に本気の中国に比べ米国はまだごまかしの姿勢が見える。

直接金融が齎した功罪の罪の部分であるCP市場の機能停止というシステム問題はともかくとして、今回の最大の問題は、市場原理の恩恵を受けた米国が己(国家と国民)が失敗した時点でその原理によって本来は退場しなければならないにもかかわらず自己否定が出来ない点だ。そして周りもその矛盾を解決できない。また暗黙のうちに始まった社会主義への流れを公式には認めようとしない。従ってこれまで米国を模倣してきた国家群にも混乱が生じている。ただ昨日緊急救済案を発表した英国ブラウン首相が直接金融機関に資本を注入する点を強調して何度も「米国とは違う」と言っていた事はこれからの米英関係も含めて注目されるのではないか。

いずれにしても協調利下げに参加者しなかった日本は今回の危機を「回周遅れ」で免れただけではないかもしれない。本来日本はイソップが云うところの蟻だ。これまで蝉の米国に(本来イソップ童話の原型は蝉と蟻だったが、蝉がキリギリスに変わった)散々バカにされ続けたが、自ら冬を受け入れた点を評価されるべき時がきたのかもしれない。そしてその延長線にノーベル生活学賞があってもいいのではないか・・。

2008年10月8日水曜日

<今日の視点>荒涼とした空虚

レギュラーシリーズンが終わり、102年ぶりにカブスとホワイトソックスが揃ってプレーオフに出る事が決まった時のシカゴの沸き立ちを想像してほしい。金融不安は誰にも明らかだったが最早そんな暗い話はどうでもよく、シカゴ人の期待はカブスとソックスの夢のワールドシリーズ。そしてあまりの激戦で欧州サッカーの様な観客の暴動の危機?などと全くいらぬ心配をしたのは私だけではなかったはずだ。しかし早々とその夢から覚めてみると、現実の世界は荒涼とした灰色の金融不安の真っただ中。これが今日のシカゴの雰囲気である。

そういえば、カブスもソックスもバブルで貰い過ぎていたベテラン勢は全くダメだった。その点岩村率いるデビルレイズの活きの良かったこと。若い選手が多いデビルレイズには高給取りはいない。逆に、恐らく株がここまで下がると今までバブルの恩恵を受けたスポーツ選手達にもさすがに自己資産の目減りが肌で感じられるのだろう。金満のシカゴの選手は元気がなかった。元気がないというよりどこか空虚感が漂っていた。負けても空虚。そこが500ドル下がっても空虚な今日の株式市場と似ていた。

さてバブル崩壊の意味は人それぞれだが、私にとっては90年代前半に起こったNIKKEI先物に対する米系の裁定売り(途中から野村)とどう対処するかだった。その意味ではこの下落を続ける米株も比較的冷静にみているつもりだ。しかし今日のダウの下げ方と下げ幅、そしてチャートポイントで攻防の様をすべて総合して次のシナリオを描こうとしても、この状況は今までにない全く新しいパターンである。

相場には先物によるリズム感はある。だが空売り規制のためか実弾がない。よって参加者は値動きが予想できても実際の売り買いでは掴めない。その間ダウの水準は淡々と下がる。恐らくこれが流動性の収縮過程での下げ相場なのだろう。こうなると空売りの代わりにこの2週間で20%増加したミニS&Pの縦玉増加のペースで反転のタイミングを計るしかない。ただ これも過去のデータがない。あるのは荒涼とした空虚感である・・。

2008年10月2日木曜日

願望の罠、市況から

以前市況で米株のインデックスプレイは個別では「3G」だけ見ていればよいと書いた事がある。3GとはダウのGE(ジェネラルエレクトリック)、 S&P500のGS(ゴールドマンサックス)、そしてナスダックのGOOGLE(グーグル) である事は言うまでもない。その意味では本日GSに続いてGEへの投資を発表したバフェットはやはり非常に単純なPLAYに徹している。ただ彼はNET系は嫌いなはずなので、仮にGOOGLEが傾いても同じ事は起こらないだろう。

ところで、今の米国市場はこの80歳目前のバフェットに頼り切りの印象だ。これは、これまで己の経験だけで強気を継続してきたベービーブーマー以降の米国人が、グリーンスパンの言う100年に一回の事態にぶち当り困惑している。そこでバフェットの様な「神に近い存在」の初動に頼って自身の行動を正当化しようとする心理的状況に追い込まれている現象である。しかし言ってしまえばこれこそ神頼みに近い。あと何年バフェットが生きるというのだ。

相場のプロならお気づきだろう。これは勝負事としては典型的な負けパターンである。ここまで負けのパターンに陥った米国をみるのは初めての事だ。また、パニックの中の焦りから急いで答えを出そうとして今回の法案は国家としてこれも典型的な「高値買い/安値売り」の結果になる可能性が高い。

これまで日本史の観点からは、元寇と日露戦争と同じ奇蹟の再来の願望の罠に落ちた日本が米国という新時代の壁にぶち当たって敗北したのは摂理と考えてきた。だが今その時代の壁が同じ願望の罠で自壊の危機にある。

2008年10月1日水曜日

<今日の視点>プリンスパルとフーバーダムの崩壊

そういえば数年前から人気となった白洲次郎氏の事を巷では「プリンスパルの男」というらしいが、共和党の保守派にはこのプリンスパル(原理原則)を守るという気骨がまだ存在する事を証明したのが下院による救済法案の否決である。ただ否決の背景にはナンシーペローシ下院議長の声明文の内容が共和党を怒らしたと同時に、民主党下院議員の造反も予想以上に多かった事実もある。

そんな中で今日のNYタイムズには反対した下院議員の地元と米国全体の地図が対比で紹介されていた。そこで明らかだった事は、賛成に回った議員の地元はNYやシカゴといった金融都市を抱える大都会に集中し、そして地図の上では反対票を投じた議員の地元は圧倒的に全米全土に渡っていたのである。

そもそも米国の議会制は州で二人しかいない上院の名誉性と、人口毎に議席が配分される下院とでは使命が違う。そしてこの下院の反対票は議員本人の考えというより、地元の声を冷静に分析した結果である。因みにオバマの地元シカゴの民主党議員は反対票を投じたが、彼は共和党の様なプリンシパルに沿った訳でなく、寧ろ貧困黒人層の怒りを代表していたと考えるべきだろう。

さて、議会が妥協できるかどうかはともかく、現状の政策からは既に米国は市場原理を捨て、社会主義に移行する過程に移った事は最早否定できない。そして70兆円という税金が新たに金融機関に投入されようとしているが、この金額がポールソン原案のように民間の金融機関からの不良資産買い取りに使われた場合どの様な効果があるか。専門家の目を紹介しよう。

ドーバーアセットマネッジメント社によれば、現在米国の金融機関は金融資産を全体では60T(6000兆円)抱えているという。そこでこの天文学的数字をイメージするためにここからは円で表示する。仮に6000兆円という全体資産の1割がサブプライムを含めた劣化資産と仮定するとそれだけで600兆円である。70兆を全部使ったところでその1割にしか満たないではないか。

そして不良資産の割合が1割という査定はあまりにも夢物語。仮に3割とすると不良資産の金額は1800兆円。また残りの7割の優良資産も米国の家計の貯蓄率がマイナスである現実を踏まえると(ここが日本のバブル崩壊後と決定的に違う)今はまだ家や車のローンをきちんと返している律儀な米国人も、住宅の値下がりや失業の悪循環が続くといずれは米国の伝統的である安易な破産法にもほだされて一気に新サブプライムへと劣化しかねないのである。

この本質を普通の日本人にも解り易く言うなら、米国議会が喧々諤々としその成り行きを世界が見守るこの救済案は、仮に通過したとしても実はそれはフーバーダムの亀裂をガムテープで補修する様な 効果である。因みにフーバーダムの貯水量はウィキぺデイアによると400億トン。日本全国に2500あるダム全体の貯水量が250億トンである事と琵琶湖の貯水量が280億トンである事からフーバーダムの規模を想像してほしい。この事実からもこれまでの時代は終わったのである。そしてその終焉における米国の激痛を残りの世界が米国との距離に応じてシェアを強いられる。それがこれからの時代である。

ただ多くの国にとってこの痛みは市場原理のまま受け入れる事は最早不可能だ。本日全ての預金保護を発表したアイルランド然り、これから日本を含めて多くの国が非市場原理と導かれていくだろう。より社会主義に近い時代、その意味では真逆的に彼の時代に預金保護が撤廃された日本での市場原理の推進役を演じた小泉前総理はその止め時においても天才的なカンの持ち主であった事を証明したと言えよう・・。

2008年9月27日土曜日

<今日の視点>糖尿病の死体に群がる輩

共和党保守派を語る前に、ポールソン財務長官の一連の歴史的処置で著名な市場参加者がどのように関わったを触れておく。まずPIMCOファンドのBグロス氏は先のGSE救済法案の必要性をCNBCにて主張。呼応するかのように翌日財務省は救済案を発表してGSE債は急騰した。NY TIMESによれば、PIMCOがこの処置で得た値上がり益は発表当日のGSE債だけで1.7Bに達したとの事(NYTIMES)・・。

またバフェット氏は政府が救済案を出す事を前提にGSへの大型投資を発表。翌日の上院公聴会ではバーナンケを含めた救済案を推進する政府関係者が「あのバフェット氏でさえ救済案を前提に投資をしている・・」と法案推進の材料にバフェットの投資行動を用いた。ただよく考えるとこの論理は中立のはず政府とバフェットが互いに握り合って公的資金の出し手としての納税者を後から市場に参加させている事になる。そしてビルグロスはポールソン案が実行される場合において、PIMCOと自分自身が無給のアドバイザーとして政府に協力する事を申し出た。(NYTIMESは実現の可能性に否定的である)

そしてポールソンはGSEと今回の法案に外部のモルガンスタンレーにその原案設立に関与をさせたが(CNBCゲスパリーノ氏 )要するに、共和党保守派が法案に反対する背景には、Bグロスやバフェットといった著名な投資家の投資行動と、ブッシュ政権の政策とのINTEREST CONFLICT(利益競合)への怒りがあるである。よって今回彼らが唐突に持ち出した代替案は著名な大学の学者が考えた物がベースにあるという。

ところで、どの案が出たとしても個人的に米国は未だ問題の本質を理解していないと感じる。本質は簡単、糖尿病である。そして糖尿病は難病である。遺伝を除けば代表例は飽食が正常な神経機能をマヒさせ、結果今度は必要な栄養が末端にいかなくなるという飽食が原因の飢餓。難病の理由はそのジレンマである。

そしてこの栄養を資金の流動性に置き換えれば今の金融市場の状況がもっとも解り易い。そもそもは中央銀行による過剰な流動性(栄養)が原因でバブルが起き、逆流(神経系の不調)が始まると一気に資金が流動しなくなる。(適切な栄養が細胞に到達せず尿にとして出る))結果、中央銀行は緊急処置を連発(インシュリン投与)。ただし根本的な解決にはならない・・。

いずれにしても、この難病になると食事制限とインシュリンで時間を稼ぐ。ただ一番大事な事は、米国自身が体質を変えるための苦痛を受け入れる事。しかし選挙を前にして誰も国民に苦痛を我慢しろとは言わない。よってこの米国ではこの難病が治る可能性は低い。そして「死」という敗北を迎える時、全てを失うのは弱者である。

なぜなら国家が敗北して仕組みが変わる時が最大のチャンスである事を少数の勝ち組の強者は知っているからだ。共産主義が敗北した直後のソ連にオルガリッチが生まれた様に市場原理が敗北した米国にも触手が伸びるはず。その意味ではこの米国の敗北はビルグロスやバフェット、またソロスにもチャンスである。ただ政府案にロングのバフェットに対して、ソロスはショートで臨む様子がコメントからは窺われるのが興味深い・・

2008年9月24日水曜日

<今日の視点>米国の懺悔。誰が懺悔すべきか

財務省が提示した救済法案の議会審議において、何人かの上院議員は国民の税金から700Bを投資する前提に、この事態を引き起こした責任と、救済法案の実務責任の所在を明確にする必要を強調している。その前に、普通の米国人で今の財務長官が誰であるかを答えられるのは米国全体ではせいぜい6~7割だと考えている。その中でポールソン財務長官がGSという証券会社の会長だった事を認知している国民は全体の4割程度ではないか。まずこの程度の構造の中で公聴会が進んでいる事を認識しなければならない。

そして議員はこの救済案によって救済される金融機関が懺悔も無しに救済を超えて再び大きな利益を得てしまう事のリスクを感じている。特にこの救済案の提案がGS出身のポールソンから出された事にどうしても懐疑的にならざるをえない様子である。

確かにCNBCのゲスパリーノ氏によれば、前回のGSE法案とこの法案には財務省内の職員というより、ポールソンが指名した外部のモルガンスタンレーのTASK-FORCE(特別チーム)が深くかかわっているという。その噂も議員に多少は影響しているかもしれない。ただ結論からすると議員に勝ち目はない。なぜなら同じ論理上ではまず懺悔しなければならないのは上院議員だからである。

そもそもポールソンは望んで財務長官になってはいない。ブッシュに請われてなったまでだ。その際にポールソンはGSが上場してから有していたGS株の売却益900M(1000億円)の内600Mを寄付している。

そして上院議員が懺悔しなければならない理由は、上院がその義務を果たさなかった事である。まず下院にはなく、上院にある権限(責任)は国家公務員の承認権だ。ブッシュがWSからではなく、それもGS出身のポールソンではなく、清廉潔白でクリーンな印象の財務長官を選んでいればこの審議も簡単だったかもしれない。ただ暗黙にポールソンの出身が問題になるなら、彼の就任を問題視しなかった上院は当時の自身の機能停止を認めるべきだろう。そして全員が過去の失敗を水に流しこの危機に対峙する覚悟があるなら、WSの懺悔を要求する前に議会が国民に懺悔するのが先だ。

ところで、今日の審議ではポールソン財務長官の隣にいたバーナンケFED議長が非常に面白かった。 彼は終始苦渋の表情だったポールソンの隣でどこか他人事の様な表情でいつもの淡々とした学者の様な解説をしていた。面白かったと表現したのはバーナンケの表情が退任した福田前首相に類似していたからだ。

実はこの二人には共通点がある。それは自分に役が回ってきた時点であふれ出した難問はその大半が前任者以前の時代に起因している事だ。そしてある程度その困難が自分に降りかかる事を覚悟して大役を引き受けた点だ。その意味では今の事態の責任を一方的に押し付けらるのはアンフェアーかもしれない。特に民間の証券会社の会長として1000億も貰ったポールソンと同じ土俵で批判されるのは大学の学者だったバーナンケには納得がいかないはず。

いずれにしても、人はこの様な状況に追い込まれた時、直面する困難を他人事のような表現をする事で自分の宿命をごまかすのかもしれない。福田前首相とバーナンケはどこか似ていた・・。

2008年9月23日火曜日

<今日の視点>米国のパラリンピック

先週、株の安値は混乱の乱高下の中では生まれず、寧ろ規制が強化された後の静かなマーケットで付けるだろうと予想した。ところでFED(中央銀行)の発表を額面通り受け取れば、本日は長いWSの歴史が終わった日である。FEDが本気で規制を強化するなら、ゴールドマンとモルガンスタンレーが銀行になるという事は両者を支えた優秀な人材は恐らくはプライベートエクイテイーなどに流れ、残った会社にはこれまでの利益水準を稼げる人はいなくなるという事に等しい。

それはポールソン財務長官の救済案についても同様だ。民主党の重鎮とマケインは政府が税金で不良債権を買い取るにあたって対象となる金融機関のトップの給料に上限を設けるべきという点を頑固に主張している。マケインは選挙対策もあり40万ドルという具体的な数字を出している。ただこれまで40M(億)を取っていたCEOが40万ドル(4千万円)ではプログラムへのインセンテイブ(参加意欲)が薄れるとポールソンは反対している・・。

いずれにしても、米国は暫くは「見えざる手」を失う事になるだろう。そんな中での注目はロシアと中国。そして別の意味で日本が評価されてもいい。理由は北京オリンピックとその後に続いたパラリンピックを見れば一目瞭然だ。まずパラリンピック競技を米国は殆ど報道しなかった。オリンピックであれ程マイケルフェルプス一辺倒だっただったNBCは、いくら金にならないとはいえ、MEDIAとしての品格が疑われる様な温度差である。そしてきちんと報道していたNHKでは、前回との対比で閑散とした4年前のアテネのオリンピックスタジアムが映し出されていた。そもそも米国がパラリンピックの報道に興味がないのは判る。ただ日頃は人権や人道を叫んでも、それぞれが勝手に動きだしたユーロ圏の求心力のなさの本質がこんなところでも覗えた・・。

その点中国は違った。オリンピックに続きパラリンピックにも満杯の観客が入っていた。それが政府主導の結果かどうかはわからない。ただその求心力と日本の報道の姿勢はそれぞれの観点で次の時代への光明を感じた。また旧ソ連の流れをくむロシア圏の国々は、競技の結果に対して覚悟を決めていた。禁止薬品に対しても他の先進国の躊躇とは対照的なしつこさだ。彼らにはモラルという言葉は通じない、ただそれはそれで限界で戦っている証拠だろう・・。

ところで嘗ての米国には健全な体に健全な魂が宿っていたはずだ。ただその時代が終わり、皆が金と消費の世界観にどっぷりと漬かってしまった。そして金融もスポーツもステロイドが蔓延、ついに米国は転でしまった。ステロイドの時代の継続が不可能になった今、米国は暫く彷徨うのではないか。なぜなら今の米国は、転んで起き上がってみるとこれまでの成長を支えた欲望への「見えざる手」が意図せずに折れてしまった危険を感じる。この姿が私には米国自身のパラリンピックがこれから始まろうとしている様にも見える・・。

2008年9月19日金曜日

<今日の視点>アンクルサムとは誰だ

アンクルサムとは誰だ。最近はこの疑問がよぎる。通常「アンクルサム」は、米国人が米国自体を擬人的に指す時に使うが、昨日のABC NEWSのインターネット版には「それでは一体誰がアンクルサムをBAILOUT(救済)するのか?」という論文があった。真にその通り。サブプライム危機の表面化以来、昨日時点でFED(中央銀行)は900B(90兆円)を市場に供給した。そして一方財務省は どういう状況にあるかというと、1997年/5.95T(兆ドル) 2002年/6.4T 2003年/7.38T 2004年/8.18T 2006年/8.97T 2007年/9.81Tと、ブッシュ政権は1941年に法制化された国債総発行額の上限額を毎年の様に引き上げてきた。そして下のWEBサイトクリックすると、今時点の発行額がライブで見れる(9.64T)。http://www.concordcoalition.org/learn/debt/national-debt

現行法の上限が9.81Tなので、財務省はこの上限を超える歳出を本来救済策に盛り込む事は出来ない。そこで前回の住宅ローン救済法案を通す前、政府は事前に今年度の上限を10.06Tまで引き上げる事を打診。議会の内諾を得て救済法案をぎりぎりの予算で叩き出した。だからGSE(政府系住宅ローン会社)に200Bをつぎ込んだ後は2010年からはGSEのバランスシートを毎年20%落とすという実現性が疑われる内容でお茶を濁したのである。

そして誰が見てもアナウンス効果を狙っただけとしか思えないGSE救済案に加え、今回は新RTC機構の構築に追われている。この新RTCは前回の模倣ではなく、大恐慌後に発令されたHome Owners Loan Corporation型になるとも言われるが、いずれにしても現在の発行額と、議会が内諾した新上限までの余力は960Bしかない。ここからGSEに200B出て行くとして、残った余力で一体なにが出来るのか。何も出来ない。だから再び上限が上がるはずだ。今は誰も止められない。要するに破産しているのはベアでもリーマンでもGSEでもなく、本当は米国である。

ただそんな米国に対して最大のインチキ会社である格付け機関は米国債の格下げを行わない。そして最大の本質は、米国は「アンクルサム」とは都合が悪くなると自分の事ではなく、別の分身のように扱う事である。借金を背負って破産寸前なのはアンクルサムであって、彼はその状況でも困った自分を助けに来ててくれる。アンクルサムとはそういう存在である。そしてそのアンクルサムを周りの世界は信じてこれまで助けてきた。ただアンクルサムが今回は本当に危ないとして、その彼をBAILOUT(救済)するのは誰になるのだろうか・・。

<右肩下がりの救済>

1年程前、視点で「田舎で暮らそう」を書いた頃、東大生などの日本のエリートの卵たちがゴールドマンサックスやモルガンスタンレーといった外資系証券を目指す現象が重なった。相場のベテランなら誰でもその時が転換点である事は感じたはずだ。そのモルガンスタンレーとゴールドマンの会長は共同でSEC(証券取引監視機構)に違法な空売りのコントロールを願い出た。ただ市場は冷徹。完全に次の次のシナリオまで織り込みつつある。

ところで、政府の救済についての基準で思い出すのはクライスラーである。当事あれほどの大事件となり、その後も近年に至るまで政府による民間企業救済の代名詞だったクライスラーの救済において、政府が注入した優先株はわずか1.2B(1200億円)だった事が本日のNY TIMESで知った(社債は除く)。有名なアイアコッカの活躍や、そして何よりもまだ時代が右肩上がりだった事で政府のこの直接投資は十分なリターンだった事が改めて確認された。

では今の時代の救済はどうか。個人的にはまず米国自身が右肩上がりとは考えられない。よってAIGが2年で収益を回復するとは全く思えない。その場合は政府発表とは違い、税金に欠損が発生する。そこで「右肩下がり」の中、常識に沿って救済の基準を考えると、クライスラーは車の性能はともかく、物を作り、人を雇い、経済を裾野で支えたのは事実だ。では救済されなかった証券会社のリーマンはどうか。そしてモルガンやゴールドマンはどうなる。金融は世の中を豊かにする為には必要だ。しかし、どこまでが必要な金融でどこからが博打になるのか。米系の大手5証券会社の1年間のボーナスが2兆円だったのは昨年の事。この数字は何を語るだろうか・・。

2008年9月17日水曜日

<今日の視点>米国の一番長い日

少し前にNHKではポツダム宣言受諾を昭和天皇が国民に向けてラジオ放送した8月15日の「終戦記念日」から、実際にポツダム宣言にサインをした9月2日の「敗戦記念日」にかけての日本の混乱を特集していた。今週の米国の姿からはその昔、岡本喜八監督の「日本の一番長い日」を見た時の記憶が蘇る。

今の米国は敗北しているにもかかわらず、それをどう国民に判らせるかをめぐって当事者たちが混乱している。終戦の際の日本も敗北を認めない者や、敗北を知った際の兵隊や国民の動揺がどんな更なる混乱を齎すか判らない恐怖に慄く指導者達がいた。「日本の一番長い日」は最後三船演じる阿南陸相の壮絶な切腹シーンで終わる。今のこの国には切腹する人はいない。よって混乱は収まらないだろう・・。

さて今日はモルスタが材料だという。最早何でもよい。FEAR(恐怖)に混じって「火事場泥棒」がこんなにいるとは今更ながら驚きだ。今人類は増えすぎたMONEYの怖さをまざまざと味わっている。やはりグリーンスパンの責任は重いかもしれない。彼には「あの映画」を見せてやりたい・・。

米国市場と原爆投下。本日の市況から 

傍から見る分には勝負事は面白い。直近、世界情勢の緊張とペイリン効果で共和党は盛り返したが、今回の金融危機は明らかに民主党に追い風となった。そして昨日の二人の大統領候補の声明を聞くと、ここにきて政権がWストリートを救済をしないと言明している理由の一端が明らかだった。まず昨日はCNBCにナンシーペローシ下院議長が登場。そもそも彼女が経済専門のCNBCに出るのは珍しい。

彼女はそこで今回の金融危機を招いた共和党の失政を批判した。一方マケインは今回の危機の原因はWSの非常識な強欲の結果であると反発。そしてオバマはブッシュ政権が金持ちの強欲の実現の為にその他一般が犠牲になり、ここにきてその救済にまた弱者が犠牲になろうとしているとの声明を発表した。個人的にはマケインに同意。ただ今は共和党に分が悪い・・。

政府はGSE(政府系住宅ローン買取会社)を救済した以上、民間の個々の危機には出動しないと発表。その一貫性を強調している。しかしベアとリーマンとは状況が違う(ともに消滅した証券会社)という説明はまやかしだ。ソレはリーマンが亡くなり、その処理に追われている金融関係者が一番知っている。

ただ選挙戦が深まる上で、この後誰が助けてもらえて誰が助けてもらえないないか。その予想は選挙の観点で考えるのが一番いいだろう。個人的には「市場」は保護されない一方で、地銀ではない規模の巨大な商業銀行の場合は預金者保護は優先されるとみる。その場合、話題のはワコービアはどちらに入るのか微妙である。尚、AIGは救済に$400B(40兆円)かかるという。


ところで仮に選挙が悪影響となり、「市場を救わないで預金を救う」という行為がこの後も起こり続けるとしたらどうなるか。元々米国の金持ちはSAVING(普通預金口座)には最低金額を預け、大半は資産運用をしている。そしてSAVINGにしかお金がない庶民と、SAVINGにも金がない大多数の庶民は仮に救われても米国の富における比率は微々たるモノである。だとすると市場を救わず預金を救う行為は自殺行為に等しい。急落しているGSの株価。そして渦中のAIG社の中興の祖で大株主のグリーンバーグ氏個人はこの2週間で6B(6千億円)を失ったというスピードとそのマグニーチュードは当に金融市場に原爆が投下された様なものである・・。

2008年9月16日火曜日

<今日の視点>敗戦の法則の宿命

今月の文芸春秋には面面と終戦時の指導者たちの失敗の分析がのっている。所変わって米国。ここもWS 経営者の失敗の分析で忙しい。ともに今更何を言っても遅いのだが、各論終始の専門家の分析を超え、私には歴史の磁力がそれぞれの結末を導いたようにしか思えない。いずれにしてもこの金融崩壊は私の知る限り米国の近代史で初めての敗北である。米国はベトナム戦争というイデオロギーでの局地戦は勝てなかったが、最終的にソ連を崩壊させた事で米国の大義は勝利した。よってニクソンによるドルショックを基点にレーガン以降米国が標榜した市場原理がここに敗北したのは米国史にとっての敗北である。

ところでグリーンスパンは週末の番組で今回の金融危機を「100年に一回あるかないか」と表現した。だが直後に景気についての質問で「リッセション」への可能性は5割以上との不可思議なコメントもしている。これはグリーンスパンがおかしいのではなく、国民の代表としての聞き手が「100年に一回」の出来事の最中に未だに「リセッションか否」かの質問をしなければならない程に米国人の感覚は退化してしまった事を表す。これではグリーンスパンに答えの選択はない。その点日本人はバブル崩壊の苦しみを十分経験した。従って冬への準備は米国より出来ている。しかし我々にも退化してしまった部分がある。ソレは昨今のNEWSを見る限り国民の政治を見る眼力が退化した様に思える。ただこれもしかたない。日本は経済では苦難をを経験したが、日本の戦後政治は本当の苦難を経験しただろうか。そんな中で文言春秋の分析とWSの失敗をみて個人的に発見した法則がある。WSに関しては以前サブプライムに関してAIGとメリルそしてCITIの失敗の共通点を述べた。(5/18 老人の遺産参照)では日本がこれからするであろう失敗の法則は何だろうか。


明治維新は世界史上の奇跡である事は世界が認めている。そしてあの敗戦は軍部台頭を止められなかった事実を含め、明治維新の主役の2世並びに3世が昭和天皇の周りで殆ど意味を成さなかった事も一因ではないか。そして戦後の復興も世界ではまた奇跡と言われた。しかし今新聞を賑わしている日本の政治家の大半はその時代のツワモノの2世か3世が大半ではないか。これはまさに同じパターン。「彼ら」が意味をなさなかった事は失敗の後で始めて認識される。日本人の政治への眼力が退化した今、この法則は今回も起こる可能性を感じる。ただこれも日本の宿命だろう・・。

2008年9月13日土曜日

<今日の視点>アイクの鉄槌

ハリケーンアイクについて一言。以前メールとDVDで「WHY WE  FIGHT(2005年 ドキュメンタリー映画、我々はなぜ戦うか)」を紹介した。あのドキュメンタリーの冒頭に登場するのはアイゼンハワーだ。

WWⅡ でマッカーサーがアジア太平洋の連合軍司令長官だったのに対し、彼はヨーロッパ戦線の司令長官だった。マッカーサーが大統領への野心を隠さなかったのに対し、政治的に中道だったアイゼンハワーは当時の民主党、共和党の両方から大統領候補としてラブコールを受けたが自分は軍人だとして最初は固辞した。しかし最後は共和党として立候補、圧倒的勝利で大統領になった人物だ。そして大統領としては、冷戦でソ連に押されたものの、戦後の米国が民主主義の象徴として、尊敬と繁栄を収めた立役者として常に大統領の人気投票のベスト5に名を連ねるのが彼だ。彼は8年の任期が満了した最後の演説で、「過去50年、人類はWWⅠⅡと朝鮮戦争という悲惨な経験をした。そして今、表面的にはささやかな平和と繁栄が齎されたが、一方近い将来において、人類は軍産複合体の台頭をどう制御するかという新しい試練に直面するだろう」と警告し大統領執務室を去っていった。

現在米国では「アイク」といえば通常尊敬こめてアイゼンハワー大統領の事を指す。彼の威厳が米国をここまでおかしくした大統領一派と軍産複合体、更にOIL産業の本拠地に鉄槌を加える。それがハリケーン「アイク」である。

ご参考、「WHY WE FIGHT」日本語訳のサイト。(右クリック、新しいウインドウで開くで鑑賞できます)
http://video.google.com/videoplay?docid=-7811849785377576023&hl=en

http://video.google.com/videoplay?docid=109335542947033481&hl=en

http://video.google.com/videoplay?docid=-9019855767735162568&hl=en

http://video.google.com/videoplay?docid=-1634713197237898484&hl=en

2008年9月12日金曜日

テロ記念日の1日

一つだけ確信しているのは昨日からリーマンを材料に株の売りを煽った勢力と、本日の大引けに株を買い戻した勢力は同じだという事。これは長年株のリズムを見ていれば判る。ただリーマンの普通株と優先株の値動きのスプレッドからも、この種の輩もそろそろ潮時と見ているだろう・・。

さて、懸念されたテロ記念日は無事に終わった。専門誌によると、次にテロが起こる可能性が高いのは、オーストラリアやカリフォルニア等の乾燥地帯での放火テロらしい。事実だとすると危ないのは寧ろ大都市郊外の住宅地。ところでNYTIMESの先週末の特集はタリバーン特集だった。そこには現地に入った写真家によるテロリスト達の日常の紹介があった。以前よりタリバーンを含めたアフガン/パキスタンのテロリスト達が一番怖いといっている。その理由は彼らの目である。彼らの目は一点の曇りもなく透き通っている。この目には金や肉体の欲望も通じないだろう。これほど怖い物はない。

一方米国ではオイル市場関係者の酒池肉林があからさまになった(WSJ)。予想された事ではあるが、日本のパターンと酷似している事に人間社会の限界を感じる。日本で大蔵官僚がノーパン喫茶で接待された事が社会的に問題になったのは98年。そこから粛清が始まり、その後金融機関はがんじがらめになった。そして復活は遅れた。バフェットが「右へOBした後、左にOBするのがゴルフ」と言ったのはこの事だ。彼は今回オバマを支持しているが、既に市場の停滞には準備しているはず。

要するにバブルがはじけ、サークルが崩れると綻びが露になる。そこで政治と当局が動く。そして粛清を経て一定期間活動は停滞する。問題は株価が最安値をつけるのはバブル崩壊の結果ではなく、実はその後に待っている停滞の結果である事だ。日本ではバブルが崩壊して5年で悪癖が糾弾され、更にそれから5年かかってやっと株価が底値を確認した。個人的経験から米国ではこのサイクルが日本の1/3の時間程度になると予想する。ただバブルの程度が同じだったとしても、時間を短縮する分だけ崩落の衝撃は3倍になるだろう。よって米国人は1/3しかサバイバルできないと言っているのはこのロジック(論理)である。では米国にとってこの想定を避ける方法はあるのか。歴史的には一つだけある。最早説明する必要もない・・。

2008年9月11日木曜日

<今日の視点>最後?の市況メール

今週の相場で今も全く判らないのがVIX(変動先物指数:市場不安を表す先物指数)。先週まではGSE株が急落した日も無反応だった。そのVIXが昨日から急騰している理由がどうしてもわからない。では何だ。繰り返すが、今金融市場に出回るリーマンと似たような話はずっと継続しており、過去ソレには反応しなかったVIXが今反応する理由を搾り出すと答えは一つしかない。実はそれは金融不安とは無関係の話ではないか。

今年は選挙の年。そして苦戦するはずの共和党がここで盛り返したのはペイリンの口紅だけが要因ではない。年初に立てた「8月のオリンピック前後から世界が政情不安になり、それは11月に向かって激しさを増す」というシナリオは現実味を帯びているが、当然この状況は共和党に有利である。そしてこの予想は特別なものではなく、意識していた人々は世界中にそれなりにいる。

無論何も記念日にテロを計画する必要はない。ただ個人的に以前から今度テロがある場合はNYではなく、金融市場の中心でもあり、昨今は巨悪の象徴にもなった先物市場のメッカ、シカゴは格好のターゲットであると心の何処かで考えていた。万が一に備え、明日は緊急の休業にする事も思案した。しかし不思議な事にVIPの来客が2件も入ってしまった。いつもの様に私がCBOTを案内しなければならないが、VIP来客が2件重なる事は15年の経験で今回が初めてだ。いずれにせよ明日が何もなく過ぎれば、VIXと債券は沈下していくだろう。さもなくばこれが最後のメールとなるかもしれない・・。

2008年9月9日火曜日

<今日の視点>アメフトの魅力と米国の魅力

今週からいよいよNFLが始まった。実は私はアメフトを在米期間の最初の10年では殆ど見なかった。なぜなら93年にシカゴに着任すると、そこはあのマイケルジョーダン率いるブルズの全盛時代。自分自身バスケットボールをやっていた事もあり、弱かったシカゴベアーズに興味が沸かなかった。ただ理由はそれだけではない。ラグビーやサッカーと比べ、アメフトのルールの複雑さや直ぐにプレイが途切る展開がどうしても面白いとは思えなかった。しかし今は違う。

今アメフトをみると、米国はよくここまで面白いスポーツを開発したという素直な気持ちと、混沌とした時代、衰退して行く米国でも、どこかで再び建国の父達が打ち立てた米国人らしさをいつか取り戻すのではないかという期待感をこのスポーツは一番感じさせてくれる。その理由は単純だ。ラグビーやサッカーでは試合結果は多分に審判に左右される。しかしアメフトはその「誤り」を極力無くす事を他のスポーツに先駆けて取り組んできた。同じ米国スポーツでもバスケットや野球が遅れた事に比べNFLは徹底していた。審判の判定に不服なら監督は「チャンレンジ」が許され、VIDEOで確認される問題のシーンは観客やTV視聴者にも平等に視聴できる点も非常に民主的なプロセスだ。

非常に単純だが、あくまでも正しい真実を追いかけようとするこの米国人の文化は最近の日常の中では埋もれている。そして単純が故に昨今は政治経済の舵取りは右や左への大揺れを繰り返している。ただこの姿勢が何処かに反映されている限り、米国の魅力は何処かで生きていると感じる。それが私がアメフトから感じる一番の魅力である。

2008年9月6日土曜日

<今日の視点>ポールソンの白旗

終に米国は市場原理に白旗を揚げる時が来た。これで暫く上がるのは株、下がるのは国債で、そして場合によってはドルも下がる。結果商品も復活するかもしれない。いずれにしても具体的に救済案の内容を見る必要があるが、予定通りなら現在のGSEの株主は責任を問われ、一方リーマンを含めてGSE以外の全ての金融銘柄や住宅関連銘柄は大暴騰となる。ただその株もいずれ下がる時が来よう。その時はダウは8000を割るはずだ。ただソレはオバマによる弱者救済政策の結果か或いはマケイン政権による戦争経済の限界の結果なのか。まあどちらでもよい。まず準備すべきはドル安を避けるために世界中で火の手が上がる事態。ただ最早そんな事に一喜一憂している場合ではない。市場はBUMPY、HANG ONできない人は振り落とされて終わるだけだ・・。

2008年9月4日木曜日

<今日の視点>最大のミステリー、国家元首不在国家

そういえば小泉政権の末期には「劇場型政治」を批判する声があった。しかし米国政治のショービジネスの度合いに比べれば、日本の政治の劇場のレベルはハリウッドと学芸会程の差がある。その意味でも今晩共和党の党大会のステージに立つ主役は、会場にいる観客はもとよりTVを通していかに全米の視聴者を魅了できるか。ハリウッドスターと同じ輝きが必要だ。一方日本の政治は劇場とは程遠い人が総理を勤めてきた。私の人生でも発言を記憶している歴代の総理は田中角栄と中曽根。そして既に米国に住んでいたが小泉だけだ。ただそれでも日本の政治は平和的に回ってきたのだ。

ところで外国からは行政の長の総理大臣がコロコロ変わっても、日本が混乱している様には見えない。考えるとこれも不思議な事だ。ただこの結果外国人にも日本を支配しているのは総理大臣ではない事が判る。別にソレでもよい。では誰が支配しているのだ。政党か官僚か或いは黒幕がいるか。そこで日本の国家元首は誰だろうと改めて考えた。一般常識や他国の要人を迎えた際の慣行から日本の国家元首は天皇陛下だと普通の人は考えているはずだ。私も其の一人だ。しかし本日改めて日本異質性を再認識したのは、現在の日本国憲法には国家元首についての規定がない事実と、その事実への国民の取り組み方だ。憲法に誰が国家元首かの明記がない国に我々は無意識で平和的に生きている。この異質性が恐らく海外から客観的にみて日本最大のミステリーである・・。

では一体この憲法を作ったのは誰だ。憲法第9条を論ずる前に、日本の国家元首が誰なのか、まずはソレを決めるべきではないのか。実はこの部分を明確に定めないで国体が崩壊しないという日本の異質性を一番有効に利用しているは米国である。米国がそこまで意識して憲法の原案を作ったかはわからない。しかしこの日本の民族的安定性は、日本ではなく米国にとって必須。逆にこの本質を議論せず、首相が辞任する度に適当に盛り上がってはガス抜きが終われば忘れてしまう今の日本人の習性をマスコミは取り上げない・・。

この現状から実質的に日本を支配しているのは政治家というより官僚であるという意見には賛成だ。別に政治家や官僚を知っているわけではないが、外国ら見ても日本の政治家のレベルは見える。だとしたら良いも悪いも官僚が重要という事になる。よって日本が悪くなったとしたらソレは官僚のレベルが落ちたからだと私は考える。では本当に官僚のレベルは墜ちたのか。その判断を客観的にする上で話題の一人でもある佐藤優氏を引き合いに出そう。

彼の主張や本の内容を一方的に賛成するつもりはない。だが彼が他と違い、また注目されている最大の理由はモスクワ大学に通った実績だと私は考える。ロシア語の重要性もさることながら、主流の英米大学(特に米国)ではないところで学んだ視野が今の彼の武器になっている。言い換えると米国は日本の実質的支配者層の若い官僚を自国の有名大学で学ばせて日本に返す事で日本人が意識しないまま米国が日本の実質国家元首である状態を作り出してきたと考える事もできる。皆がソレに慣れてしまった時、佐藤氏が登場した。そして米国のシステムの限界を感じ始めた今多くが佐藤氏の意見に新鮮さを感じている。

だとしたら簡単な事である。官僚によって国家を良くする方を今後も模索するなら、官僚の留学先を世界中に広げればよい。レベルの高い政治家の登場を待つより日本人の気質にはその方があっているはずだ。そして日本人が価値観の多様性を真に理解したその時、その時初めて国家元首の制定への必然を我々は感じ始めるだろう・・。、

2008年9月3日水曜日

<今日の視点>新ノア伝説、天候と国力地図。

緊急寄稿 OPEN WATER

さて世界的見地からみて3連休の最大のNEWSはグスタフでも、共和党の副大統領候補の長女が妊娠していた事でも、ましてや福田首相の辞任でもない。恐らくは土曜日にINDEPENDENT紙が報じたブレーメン大学の調査では、先週衛星から撮影された写真から判断して人類史上を超え地球史でも12万5千年ぶりとなる北極点の東西の氷海の溶解「OPEN WATER」が確認されたという話である。早速ドイツの海運会社は調査船を出す事を決めたらしいが、同大学の分析では既に北極圏の氷解は自滅サイクルに入っており、これまでの予想を50年早め2013年ごろからは夏季において北極圏新航路が生まれると予想している。

これが事実になると早急に新しい国際条約が必要になる。北極は誰のものでもないが、両政府はまだ公式には何も認めていないにもかかわらず、ロシアとカナダの間では既に権益についてのつばぜり合いが始まっている。そしてこれは国際政治の表裏を認識する上で象徴的な話だが、話題のペイリン女史も「科学者が警告する地球温暖化は根拠がない」という共和党保守派の立場を継承している様に、共和党政権は年初に「白熊を助ける」と公約するまでは全く温暖化リスクを無視していた。それにもかかわらず、北極圏航路の新しい利権、ビジネスの話になると早速カナダとロシアの主導権には横やりをいれたのである。要するに究極的には災害も温暖化もそして戦争もビジネス即ち利権である。この発想の弱い人と強い人の分かれ道が債券と株の分かれ道だが、国際政治もヘッドラインの把握だけで終わってしまと金融市場での勝者になる事は難しいだろう。

さてこのOPEN WATERを踏まえると、温暖化が100年前でなくて日本は助かった。なぜなら仮に100年前に始まっていたら日本はロシア領になっていたかもしれないからだ。理由は司馬遼太郎に言わせれば明確。当時の大日本帝国海軍とロシア帝国の所有艦船数には2倍の格差があった。そして三井物産のロシア支店による世紀の第一報でバルチック艦隊がインド洋に向けて出向した事を知った日本はまずロシアの別働艦隊である旅順艦隊の撲滅を図った。まずはこれを殲滅し、戦艦数で五分の戦いに持ち込まなければ挟み撃ちにされるのは必定。その為に陸軍が旅順を砲撃できる2百3高地を落とすという大作戦だった。その日本海大戦までの軌跡は最早説明するまでもない。ただバルチック艦隊がインド洋航路ではなく北極回りで日本海に現れたらどうなっていただろう。前述のブレーメンの海運会社の試算では、ドイツがBMWを日本に輸出する際に「未来の新航路」とインド洋航路では4000マイルの違いが出るという。短縮された日数では東郷元帥と秋山真之は万全の体制で敵を迎え撃つ事は出来なかっただろう・・。

さて其の当時のロシア帝国はあの気候にもかかわらず世界最大の穀物輸出国だった事を週末のNYTIMESの特集で知った。しかしその後ロシアは革命を経てソ連の集団農場に転換されていったのはご承知の通り。そしてここからは記事の要約だが、コルホーズ体制はエリツン時代に崩壊して多くの集団農場は郷愁を引きずりながら資源や工業分野と同じく資本の原理の中で人も土地も興廃した。そして資源や工業の分野ではオルガリッチが民営化で譲渡された株券の意味がわからない工場労働者にジャガイモ袋を渡し、ジャガイモと彼らの株を交換する事で巨万の富に換えた事と同様に、崩壊した集団農場では数年前まで1ヘクタール100USドルという値段で農地所有権が売買されていた。これに目をつけたのがロシア系米国人でカーライルのロシア支店代表だった人物。彼は現在オルガリッチやヘッジファンドを巻き込み興廃した旧集団農地跡を買い漁っているという。そして、1ヘクタール100ドルだった農地が2年で1000ドルを超えてきた事実に、100ドルで所有権を手放し、其の金でズボンを買ったという農夫は憤慨しているが、今ではなす術もない・・。(NYTEIMSから)

ところで記事によるとロシアの農地の生産性はまだ低い。米国が1ヘクタール当たり6.8トンの穀物生産力を誇るのに対し、カナダは3.8トン。そして現在のロシアは1.6トンに留まる。ただ前述のカーライル出身の投資家は西側の生産システムを取り入れる事で一部の農場では1へクターの小麦収穫を3トンまで増やす事に成功しており、今後に自信を持っている。そして最大の魅力はロシアの広さである。世界最強といわれる米国のグレートプレーンズでさえ8割が既に農地化された。そして今残された世界全体の耕作可能地の7%がロシアに存在し、其の1/6に当たる3500万へクタールが荒れたままだという。英国全体の農地が600万へクタールである事と比較してもこのロシアの農地の可能性の大きさには驚かされる。だがこの数値には一旦汚れたチェルノブイリ一帯とこれまでは雪に閉ざされた広大なツンドラ地帯は含まれていない。仮にチェルノブイリがクリーンになりまた地球温暖化で耕作可能地が北へ拡大すればどうなるか。ロシアは資源だけ出なく穀物生産でも圧倒的な世界最強になる可能性が出てくる。

この体制をプーチンが目指さないはずがない。資源産業同様に、途中まで市場原理や資本の力を使い、形が出来たら強制的に謙譲させればよい。ある程度の富を残してやれば大概は黙って差し出す。例外はユーコスのコゾロコフスキーだったが、ロシア人の歴史からして彼が生きてシベリアを抜け出せる可能性は低い。そういえば最近一部欧州諸国が彼の救済を求めている。だがプーチンが健在な限り無駄だ。そもそも市場原理もご都合主義だった訳でロシアにとってはコソボ独立を容認しておきながら南オセチアの独立は認めない欧米の矛盾と同じ。ロシアは絶対に譲らないしイランなどの反米国家は益々ロシアの味方につくだろう。そしてあのソ連を瓦解させたアフガン戦争で米国がタリバーンを援助した事をロシア人は今も忘れてはいない。今度はロシアが水面下でタリバーンを応援する番である。

いずれにしても世界が国家利益を求めて策謀の時代に入った事と相反する金融市場のあまりにも単純な値動は一体何だ。ただこれは自然だ。表面的な情報に格差がない今、市場に徘徊する流動性はハリケーンの進路などというギャンブル性の高いBETに支配されている。そしていつしか人間は天候などの自然まで弄ぶようになったらしい。中国が五輪開催中に打ち続けたミサイルと日本の豪雨の関連はしらないが、自然の力や歴史の積み重ねと比べたら現代人の知識や経験などは取るに足らない。にもかかわらず、自然現象まで遊びや金儲けの対象とした人間の軽々しい不遜な態度は旧約聖書でノアの箱舟に乗らなかった愚か者たちを髣髴させる・・。

2008年8月30日土曜日

市況から

さて米国について、日本人が知っている様で実は全く誤解している事の一つが「自由で平等」というこの国の国是の年輪だ。私も含めて戦後生まれの大半の日本人がイメージする米国は実はまだ44年の歴史しかない。昨日米国はオバマの歴史的演説で盛り上がった。しかし64年にジョンソン大統領が公民権法に署名するまでは黒人の政治家どころか多くの州で黒人は投票権すらなかったのだ。それに比べれば、映画「ALWAYS3丁目の夕日」でも紹介された40年前の日本、昭和の30年代がいかに平和で民主的な情緒にあふれていたかが再認識される。

その公民権法施行は63年のマーチンルーサーキングの有名な「I HAVE A DREAM・・」の演説で確定的になったわけだが、民主党はキング牧師が其の演説をした8月28を態々選んで昨日オバマを登場させた。そしてそのオバマの演説は個人的には攻撃的な印象を受けた。これまでのような夢を語る総論ではなく、各論において共和党とマケインを直接攻撃するスタイルに変わっていた。これはこれまでのオバマにない積極的な対決姿勢である。

一方の共和党は本日副大統領候補を正式に発表する。CNBCは昨日まで本命視されていたロムニーなどではなく、アラスカ州知事のサラパリンを選んだと言うNEWSをすっぱ抜いた。彼女は43歳。米国で初めての女性州知事である事と、風貌がどことなく若い頃のヒラリーに似た華やかさを持つ事から、この選択はヒラリーを応援し、失望したままの女性票の取り込みを明らかに狙っていると思われる。

やはり共和党は民主党よりも戦略の切り替えが早い。クリントン夫妻の応援で融和を完成させたい民主党だが実際は簡単ではない。共和党はそこをすかさず突いてきた。ただこれで経済的、特に株式市場は一旦ロムニーへの期待が剥がれるだろう・・。

(本日の午後)

共和党の副大統領候補はサラパリンに決定した事が公式になった。彼女はビューテイーコンテストで優勝した経験を持ち、小さな町の町長からトントン拍子でアラスカ州知事になった女性らしい。その意味ではオバマも「シンデレラ」なら、彼女も「シンデレラ」的な要素を持つ。しかし言うまでもなく副大統領は大統領が不測の事態に墜ちた時には自動的に大統領になる。特に今回の大統領選は常に暗殺のリスクが伴うオバマと高齢のマケインの戦いだ。よって投票者に母国を憂う気持ちがあれば、心の何処かに不測の事態を想定し、其の際に副大統領が大統領にふさわしいかどうかも判断の基準となろう。もしパリン女史の実力がヒラリーと比べて見劣りするなら、共和党のこの選択は失敗となる。

2008年8月28日木曜日

<今日の視点> 不正義の国の始まり

パキスタンの証券市場で決まった「下落禁止」を笑ってはいけない。米国の市場原理なども元々は幻影だったのだ。それはGSEの存在が証明している。そしてそのインチキが間違っていると思う事も歴史的には間違っている。なぜなら世界の経済史は徳政令やデノミなど、市場原理からすればインチキの裏技を繰り返してここまで成長してきた。世論は変えられる。要するに必要なのはそれらの超法規的処置を断行するための環境である。その必然の中で超ハイパーインフレや戦争が起きた。そして今またその環境は整いつつある。そしてソレを裏付ける出来事が昨日この米国でもあった・・。

昨日、LPGAが2009年から施行する予定としている新ルールがリークされた。それは「PASSABLE」の英語を話さないプレーヤー はLPGAの競技に参加できないというとんでもない原案であった。NYTIEMSで指摘されているように、この原案がLPGAに参加できる45人の韓国人(場合によっては日本人も)を対象とした明らかな差別ルールである事を疑う人はいない。

LPGAは現在視聴率の低下で収益が厳しい。PGAですらタイガーの欠場で慌てているというのに、期待されたミッシェル ウィーも不発に終わっている現在、殆どの大会の上位選手に韓国人選手ばかりが居並ぶ状況は耐え難いのは想像できる。そういえば冬季五輪のジャンプで日本がメダルを独占した後にルールが変わった例はあるが、ただこの国の歴史や成り立ち、そしてこれまでの国是からして、この様なあからさまな嫌がらせが起こるのは驚いた。時代と米国の信義も変わったのである・・。

いずれにしてもスポーツ競技は平和の象徴。ただ世情の変化はいつもこんなところから始まる・・。

2008年8月26日火曜日

<今日の視点>新グローバルスタンダード

サブプライムが崩壊した直後からここでは桃源郷と揶揄されたクレジット市場は冷戦終結が齎した平和の産物の一つだと断言してきた。なぜなら、冷戦中までは人々のリターンへの欲望には常識的な限度額があったからだ。しかし平和が当然になると、リターンの常識的限度が消滅した。ゲームの時代が始まったのである。すると、生きるか死ぬかの緊張が金儲けの緊張に代わり、そこにステロイドが加わった。そしてこのスキームで駆動力となったのが米国のGSEと証券化経済における格付け機関だ。人はいつしかこのスキームをグローバルスタンダードと呼ぶようになった。しかし実際には本来人間が持っていたスタンダードが崩壊した時代だったのかもしれない。皮肉なのは米国のファンドには建国の父のベンジャミンフランクリンやリンカーンから名前を頂戴してるファンドが多い事だ。だがベンジャミンフランクリンの13か条をどれだけの人が覚えているのか。皆が覚えていたらサブプライムは防げたのではないか。

ところでサブプライム以降の米国は、転げ落ちる自国の現状認識において、自己反省のアプローチはしない。サブプライムの崩壊は経済学上のスキームの失敗であり、モラルも含めた人間としての根源的なミスであるという認知を極力避けている。そして日本の失われた10年を悲観主義民族の落ちた失政として自らの楽天主義の優位性をどこまでも押し通す意気込みである。ただ超大国だった米国が反省の前に力で事態の打開を図ろうとすればどうなるか。言うまでもない。冷戦が逆戻りし、そしてその後は本当の流動化の時代を再び迎える可能性がある。時代の逆流である。

さて日本でNGOという言葉が認知され始めたのは90年代の中頃と記憶しているが、NGO活動は冷戦が終わり、先進国に余裕が生まれた頃から注目されるようになった。そもそも冷戦が終結しても南北問題は残り、またソマリア等、アフリカでの飢饉や大虐殺を併発した内戦は冷戦が終結した事によって逆に引き起こされた側面もあった。そして冷戦後という新しい枠組みの中で、民間の非営利団体が政府に変わって活動する事は必然だったとも言える。その意味で、NGO活動は桃源郷だったクレジット市場の親戚である。しかし時代は変わった。時代の逆戻りが始まった以上は今必要なのはNGOでなく特殊部隊だ。実は金融市場もゲームから存亡をかけたイクサに変わっている。しかしまだ多くのプレイヤーにはその認識がなくモードはゲームのままだ。彼らは絶対に助からないだろう。ただ所詮金儲けで助からないの自業自得。NGO活動で命を落とすのはソレではすまない。

平和主義は尊い。だが現実を認知する知性も必要だ。最早ソレは新しいグローバルスタンダードである。

2008年8月22日金曜日

<今日の視点>筋書きのあるドラマとないドラマ

歳をとるとオーバーワークからの筋肉痛は時間を置いてからやってくる。だが400球以上を投げても疲労を感じないと言っていた上野選手はまだ20代。やはり彼女は特別な体力の持ち主だ。さて、その末梢神経の伝達力という意味で老体だったのは今週のOIL市場だ。2週間前に起こったグルジアを材料に週明けから反発していたが、ただやはりそれには無理がある。昨日のOILの5ドル高を境に商品のショートカバー劇は一旦は終焉するだろう。

ところで、オバマは副大統領の発表を予定より遅らした。これは明らかに何の修正が行われている証拠である。既に何人かには話したが、オバマ陣営は予定にはなかった「ヒラリーカード」を切らなければならない状況になってきたとみている。理由は以前より浸透していたバカバカしいほど単純な予想が一つ一つ実現しているからだ。

まず「バカバカしい単純な予想」とは何だったか。ソレは元々誰が候補者になっても苦戦が予想された共和党の選挙戦略として、懸念された国内経済の悪化によるドル安と更に苦しくなっている一般消費者の怒りの矛先をかわす為、選挙戦が本番になる8月前後、北京オリンピック前後からブッシュ政権は水面下で態と世界情勢を不安にする様な行動に出るだろうとの予想だった。

今週はブッシュ政権の東欧戦略担当者が、「グルジアのサーカシビリに軽挙は慎むようにと注意していたが、彼は言うことを聞かなかった・・。」などと発言をした。だがそんな話を信じている専門家はまずいないだろう。要するにここまで起こっている事は全て筋書きがあったドラマだ。先を考えてきた人にはそんな単純な展開が実際に起こってしまう今の世の中があまりにもばかばかしいのである。

問題はこの共和党のゲームにはロシアのプーチンにもメリットがあり、実は彼もブッシュに協力している事だ。危ないゲームだが、個人的にはブッシュとプーチンとの間で更にもう一段の緊張悪化、場合によっては通常兵器による直接交戦の程度までは握られている可能性は十分ある。なぜか。ロシアのプーチンが抱える悩みは資源高騰という追い風の中でいかに資本の原理の活用と旧来の特徴である統制力の復活を実現させるか。その意味で一旦は西側世界の温風で溶けてしまったロシア国内の緊張感を戻したいと考えている。要するに北京でも不振のロシアには国威向上への別の誘引が必要なのだ・・。

そしてこの事態はオバマも十分承知している。よってここからの共和党への対抗策の選択も二つ。同じ土俵で勝負するか。しないかである。同じ土俵で勝負する場合、オバマにとって必要なのは2004年の大統領候補でもだったクラーク長官の様な軍事と内政の両面で補完が成立する人。そして同じ土俵の勝負は避け、窮地の労働者に直接的な支援を行うキッチン&シンク或いはブレッド&バターの戦略に出る場合は絶対にヒラリーの存在は欠かせない・・。

さて個人的に今回の北京五輪にのめり込んだ最大の理由は、この2週間のドラマには筋書きがなかったからだ。この仕事を始めてから6年が過ぎたが、この間に没頭したのは国際政治と経済の筋書きの先読みばかり。そして用意された幾つかのパターンの中でも単純で最悪の展開が次々に実現して行く様を目の当たりする事に少々疲れた。ただその意味では自分ではBIG PICTUREと考えていた事は、実は誰もが見ていた目先の小事だったのかもしれない。

いずれにしても策謀渦巻くこの世の中では、考える人とそうでない人。その結果として知る者と知らない者。そして最後に生き残る人と死ぬ人の格差は広がる・・。

<今日の視点>奇跡の裏側

中国の劉翔ほどではないにせよ、ソフトボールで金メダルを逃した米国民の失望はコーチに向かうかもしれない。なぜなら日本との決勝で国民的な人気を誇る絶対的エースのジェニファーフィンチ選手を出さなかったからだ。ジェニファーは前回のアテネから米国のエースになり、アテネで米国の全試合の得失点差が51対1という次元の違う圧倒の原動力となった。

その後はその美貌から多方面で活躍。ESPNの「最も魅力的な女性アスリート」に選ばれると、そのままスポーツイラストレートの水着のモデルとしても登場した。更にプレイボーイ誌が大金を積んでヌード掲載のオファーを出したが断り続け、一昨年にMLBのスター選手結婚して女児をもうけた。そして今回の北京でもエースとして期待され、開会式当日に行われた大統領と米国選手団との会食会ではブッシュの隣に座り華を添えたのである。

しかしその絶対的エースのジェニファーをコーチは決勝で出さなかった。ただそれは前日の試合での日本の非力をみて油断したわけではない。なぜなら仮に日本を侮ったなら、米国民にとってマイケルフェルプスに次ぐ大会の華だったジェニファーを注目の集まる決勝に出さない訳にはいかなかったはず。恐らく左バッターが並ぶ日本にも強気で彼女を登板させただろう。しかしコーチは慎重だった。日本戦には二人の左のエースぶつけてきたのである。

準決勝で先発したアボットは大学でジェニファーの奪三振記録を更新した未来のエース。そして決勝で先発した黒髪のアスターマンはNCAA時代に20回のノーヒットノーランと10回の完全試合を達成した左の第一人者である。二人とも決してジェニファーより格下というわけではない。しかし世紀の番狂わせとはあの80年の「ミラクル」も然り、いろんな人間の判断が様々な形で折り重なって偶然引き起こされるモノである。スターであるジェニファーが金メダルを取る瞬間を見たいという国民の期待を裏切ってまで磐石に磐石を重ね臨んだはずの決勝。その決勝で米国はまさかの敗戦を喫した。敗戦後、詰め寄る記者に対して「ジェニファーは右投手だったので出さなかった」と監督は答えたという。ジェニファーは今どんな思いでいるだろうか・・。

2008年8月21日木曜日

<今日の視点>奇跡の金メダル

正直涙が止まらない。2日で400球を超える玉数を一人で投げぬいた上野選手に「神」が動かされたのだろう。上野を援護する打者に米国から3点も得点する力を与えた試合だった。いずれにしても、次からは正式競技でなくなる1競技のソフトボールの金メダルは、個人的には地球より重い意味を持つ。

大げさでなくこの勝利は日本にとって戦後米国から押し込められた呪縛からの解放にむけた勇気の象徴として、過去の鬱積が晴れる勝利と言っていい。一方米国にとっては表面的には「取りこぼした金メダル」の一つに過ぎないかもしれない。しかし敗戦後に奇しくも米国人解説者が日本の勝利を「奇跡」という言葉で表現したが、日頃は奇跡を前提しない米国が自ら一スポーツイベントに過ぎなかった80年のレークプラシッドでのアイスホッケーの対ソ連勝利を、どん底にあえいでいた国威の向上への奇跡の転換点として今は評価している事をもう一度触れておきたい。そして私には、その絶対性において米国ソフトボールの代表チームは80年のソ連アイスホッケーの代表チームにも匹敵する。80年、奇跡を超したのは米国の若者だ。そして今回、その米国に対して奇跡を起こしたのは日本の女性である。

80年のミラクルの後、米国はレーガン政権を経て頂点を極める。逆にソ連は直前のアフガニスタン侵攻が結果的に国力を弱め、崩壊へと向かって行った。はたして国威と奇跡のスポーツイベントとの因果の歴史は繰り返すだろうか。繰り返すとしたら、やはりこの金メダルの意味は重い。「ウエノ」は米国人の記憶と日本の近代史に残る女性となろう・・。

2008年8月20日水曜日

<今日の視点>資本主義という競技

マイケルジョーダンとタイガーウッズとデビットベッカムとロジャーフェデラーを足した男・・。世界にそんな男がいるのなら、ぜひ会ってみたいものだが、この表現は中国に莫大な投資をした、NIKE, コカコーラ、マクドナルド、VISAというグローバル企業の「劉翔」への「商品評価」である・・。

本日のNYTIMESはスポーツ面とビジネス面の両方で劉翔がレースを棄権した事のインパクトを取り上げた。記事を読むと、まず先日の「今日の視点」で彼を安易に取り上げてしまった自分の認識が恥ずかしい。私の認識は完全に間違っていた。なぜなら、中国選手の金メダルラッシュに加え、開会式への評価等、今のところはこの米国内の視聴率も含めて中国当局が意図した事は大成功と思えた。だが一般の中国国民の感情面では、其の全ての賛美が一瞬にして台無しになるほどのインパクトを持って劉翔の棄権は受け止められている事が記事からは判ったのである。

そこまでのエネルギーの蓄積と中国人12億の劉翔への期待のはどう表現したらよいのか。強いて言えばアテネ五輪直後はまだ40ドル弱だったOIL市場に世界の流動性が殺到し、その後の4年で150ドルまで到達してしまった様なモノだろうか。そして奇しくもOILの200ドル到達が現実的になった瞬間に市場が崩落した時節と呼応し、劉翔も崩落してしまった。ただOILも劉翔も其の価値を決めたのは本人ではない。勝手に周りの人間が盛り上がったのだ。 そしてそれを演出したのはWストリートであり、また前述のグローバル企業である。

しかしこれが資本主義の駆動力の原理だ。従って現時点で批判してもはじまらない。ただこの資本主義のゲームで勝つためにはそのゲームにおいて潮目のタイミングを計る冷静な感覚が必要だ。そして其れはWストリートやグローバル企業は提供してくれない。なぜなら彼らもこのゲームへの参加者だからである・・。

<今日の視点>五輪候補地、東京辞退の勧め。

前回北京五輪はナチスドイツが威信をかけて開催した36年のベルリン大会に時代背景が似ている事を紹介した。ちなみにベルリン後、40年の開催地に決まっていたのはロンドン。そして44年に決定していたのは東京であった。しかしこの2大会がどうなったかはご存知の通りである。(延期)

グルジアのサーカシビリはコロンビアで学位を取得した後、NYの弁護士事務所で働いた男。よってこのタイプの人間が母国で政治家として実権を握った場合、其の国がどういう状態になるかは日本人にも馴染み深いだろう。結論からするとグルジアと米国の関係上、五輪開催日当日にグルジアによるオセチア侵攻を米国が知らされていないはずがない。また其の関係をロシアが意識していないはずはない。よってここまでは想定された劇である。ただ問題はこの後だ。

そんな中でパキスタンのムシャラフがいなくなる。仮にブッシュ政権に時間が残されていれば、米国はムシャラフ退陣を全力で阻止しただろう。日本のNEWSでは米国は国内で人気のないムシャラフを既に見切っていた様な解説もあった。だがそんな事は断じてない。毒には毒もって制するではないが、あんな国を曲がりなりにもコントロールできる毒はムシャラフしかいない。それは米国が一番知っている。ただ現政権には時間がないのだ。

想定されるパターンの続きを言うと、いずれイスラエルとイランで何か起こり、イランと親密な関係を築いているロシアがそれに絡む。するとグルジアからコソボにかけてのバルカンでも何かあるだろう。ただそれでもそこまでは知略戦略のゲームとしてスマートマネーは準備しているはずだ。ただ問題はパキスタンがアフガニスタンのような魔境になってしまう事。其れは影で世の中を動かす悪いやつらでさえも望んでいない。なぜならアフガンの奥地には金も地位も名誉もいらない赤穂浪士のような恐ろしい連中がいる。そんな世界がパキスタンに広がり、五輪後、緊張から流動化へと向かうはずの中国までも足を取られたらどうなるか。 さすがにそんな事態を最早ゲームとは呼べないだろう。

いずれにしても縁起が悪いので、東京の五輪立候補は辞退する事を石原知事には進言したい。なぜなら北京の後、ロンドンから東京への五輪のバトンは不吉だ。この北京を平和な時代の最後のオリンピックにしない為にも・・。

2008年8月19日火曜日

<今日の視点>美しい引退と哀れな引退

CNBCによれば、中国の劉翔選手はこのまま引退する可能性が高いという。既に十分金は得た。金は得たが生活は国家に管理され、恋人も禁止だったという。要するにアテネからの4年間、彼は北京五輪の成功と、飛躍する中国の象徴として国家による国策のロボットだったといってもよい。そして北京での中国の飛躍が確認された今、彼らの役割は終わったのだろう。いずれにしても彼が円谷選手の様な悲劇に陥る必要はない。

さてその意味で日本のマラソン選手の今後はどうなるのか。言うまでもなく、日本人にとってマラソンや駅伝は特別な競技だ。国技のような人気があり、金メダル選手は国民栄誉賞候補になる一方で期待を裏切ると中国ほどではないがマスコミも冷たい。ところで、日本人がマラソンや駅伝を競技として好きな理由は、競技の特徴である「忍耐」と「自己犠牲」が日本の国民性の中でも重要な価値観であるからなのは言うまでもない。そして其の国民性が支えてきたのが日本の戦後の会社組織だ。

先週のエコノミスト誌は其の日本の国民性が市場原理が台頭する中で古臭い時代遅れのような扱いを受け、国民が自信を失った90年代に架空の世界でガス抜きの様な役割で人気を得た漫画の主人公の「島耕作」が終に社長になった事を紹介している。ただ記事の内容は一部報道で紹介された現実の日本の経営者も「島耕作」を見習うべきという内容にはなっていない。弘兼氏が描く「島耕作」が現実の日本ではあり得ない事はエコノミスト誌も十分承知している。

現実の日本では、王や長島が活躍したプロ野球を見ながら、五輪では柔道の結果に一喜一憂していた頃が実は会社組織の生産性では一番活力があったのではないかと最近感じている。そして90年代からはグローバルスタンダードに従って市場原理のシステムを取り入る時代に突入したが、日本人の駅伝やマラソン競技に対する趣向は変わらなかった。其処にある意味での矛盾が存在する。

その意味では日本の社会が世界と競合する上で目指すのは「島耕作」ではなく「北島コウスケ」型ではないか。北島はマイケルフェルプス一色の米国NBCが、100Mの後、星条旗が全く掲げられない表彰式で(銅メダルまで米国人がいない)君が代を伴奏にメダル授与のシーンを最後まで放映した希少な選手だ。そしてその北島は日本人が得意な「美しい泳ぎ」で「速さ」というグローバルスタンダードを制したのである。また、体操ニッポンもその意地と片鱗を見せたが、メダルは筋力だけで争うものではない。実は実業も含めて日本の目指す姿はここにヒントがあるのではないか。

そんな中あの清原の引退表明は物悲しい。彼はグローバルスタンダードを目指して米国に渡米。その後体型が明らかに変わった。その変化はトロントで活躍した頃の痩身マクガイヤーが、サミーソーサとホームラン競争した頃は全く違う体型になっていた変化と全く同じ変化だった。しかし清原の晩年、其の体はボロボロで哀れだった。何が原因だったかは想像に容易い・・。

2008年8月16日土曜日

<今日の視点>五輪CMの正しい見方

五輪報道を独占するNBCは放映権に860M、そして系列のCNBCとMSNBCまで含めた大船団を派遣して番組を中継する制作費に100M、合計1Bの投資をしている。安くはない。ただそのかいあってここまでの視聴率はアトランタ以来で最高である。そしてその中心が言うまでもなくマイケルフェルプスだ。ただ彼も後二日で競技を終える。その後も視聴率を稼げるかどうか、陸上やバスケットなど、米国人が興味を持つ競技での活躍が鍵になるだろう。

さてそのオリンピックが始まってからNBCでは朝夕の看板番組の「TODAY」「NIGHTLY NEWS]のスタッフも全員北京入りし、そこから毎日のレギュラー番組を放映している。また日曜はあの「MEET THE PRESS」でさえも、急死したTラサートの後を受けたトムブロコー氏が北京から国内政治の討論をしている。ここまで来るとさすがGEとでも言うしかない。

NBCの親会社はGEだ。そしてGEは米国企業として中国の根幹に脈々と楔を打ち始めているのは言うまでもない。更にここでNBCが米国内へ中国文化の宣伝を大々的に担当する事で、今後の米政権がだれであっても、また新しい議会がどこまで反中国になっても、GEが米国企業として中国に多大な協力をした事実は残る。個人的に中国はこの種の恩には報いると見ている。従ってNBCの1Bの投資はGEの世界戦略には安い投資だったのかもしれない。

ただそうは言っても今回NBCがチャージするCM枠は高額だ。よってその枠の購入者はコカコーラなどの優良企業が多い。しかし1社だけ格付け機関からサブプライムと同格のジャンクの格付けを承った会社がある。言うまでもないGMだ。そのGMのCMは美しく、演出としては見事。そしてその美しいGMの象徴として演出の中心に据えたモデル車はGMが今年コンセプトカーとして発表したクリーンエネルギー車だ。

このCMを見るとGMは直ぐにもエコ車を大量生産できる最先端のメーカーの様な錯覚に陥る。しかしそれは錯覚。だからGMは今ジャンク扱いである。私自身トヨタのハイブリットにのっているので今の米国のハイブリット車の環境を知っている。その意味ではこのGMのCMは詐欺だ。なぜならGMはBIG3 の中で最もエコ対応が遅れ、CMの演出と事実がかけ離れている。フォードはプライドを捨ててトヨタから重役を引き抜き、エンジンは真似て取り敢えず4車種にのっけて走り出した。しかし評価は惨憺。まず生産が追いつかない。そして、どこのショーウインドにも実際はハイブリット車がない。これも詐欺だ。そして一番の問題は、BIG3はハイブリットに問題が出た場合、それを直すメカニックを十分確保できていないまま走り出してしまった事だろう。

そもそも米国ではハイブリットで先行したトヨタですらまだ専門技術者の養成は不十分。トヨタはハイブリットを直せる技術者をデイーラー間で巡回させている状態である。フォードはトヨタの現地経営陣を何人も高額で引き抜いたが、高度な技術を持ったメカニックまでは手が回っていない。そんな中でトヨタを脅かすのはホンダである。ホンダは先月からカリフォルニアで200台の水素カーのリース販売を開始した。昨日CNBCではその試乗リポートを中継したが、シカゴでBIG3も担当するリポーターは実車してその性能に驚嘆していた。

さてGMはCMの主役の未来カーを2010年からの販売予定と態々CMで流している。しかしホンダが「水素カー」を600ドルで貸し出した今、いつ生産ラインにのるかも判らない「コンセプトカー」をCMの主役にすえなければならない現実がGMの苦境を物語る。ただその一方でGMは中国で結果を残している。またGEと並んでGMも米国の国益を代表する会社である事は間違いない。

いずれにしても優秀な技術者の血脈が生きるトヨタとホンダは今後も商品開発力では負けないだろう。ただこの北京オリンピックを政治も含めた壮大なビジネスチャンスとしてポンと1000億円を出すような米国企業の度量が日本のメーカーにはあるだろうか。残念ながら技術力だけで世界を制覇した歴史はない。GMの詐欺的CMを見ながらも実はこれも採算が合うのかもしれないと感じている。

2008年8月14日木曜日

<今日の視点>平和の祭典の意義

北京オリンピックが始まり、私も含め皆の関心はイランよりも金メダルの行方になった。しかし突如グルジアが始まったと思ったら、本日にはブッシュは米軍のグルジア派遣を発表した。ただこの状況にもかかわらず、自分を含め、世の中は今起こっている事と、映画やTVのゲームの世界との区別ができていない様子である。

無理もない。平和が続いた為、先進国の「戦後生まれ」が知る国威の衝突といえば、精々平和の祭典としてのワールドカップかオリンピック程度。従って「北京」に熱中している今は尚更平和の象徴である五輪と現実に起こりつつある悲劇への入り口の危機との区別がつかなくなってもしかたがない。そしてそれを一番象徴しているのは金融市場の動きだ。

そもそもサブプライムがあっても「金余り」に変化はない。その中でどうやって更に金を儲けるかが市場参加者にとっては現実問題。それはそれで真剣勝負だ。従って自分のポジションリスクと人類の悲劇のリスクが交錯していても、其の違いを認識するのはDNA的にも難しくなっている。言い換えれば、勝てば儲け、負ければ損の世界と、勝てば生、負ければ死の世界の違いが実感できないのだ。そうでなければグルジアも相場の材料でしかないかの様にCNBCに出演している米国の市場関係者があんな笑顔でいられるはずはない。この顛末を市場が本当に織り込み始めた時に市場はどんなパニックになるか。実はそれもゲームとしての刺激程度にしか感じられない己自身の終末も近いかもしれない。

だが最後に一つだけ言っておこう。冷戦が冷戦で終わった一番の理由は何か。それは冷戦時代の国家のリーダー達は第二次世界大戦を経験したからだ。だから最後に悲劇を避ける人間としての感覚が抑止力なった。果たして今の指導者にその感覚があるだろうか・・。

2008年8月12日火曜日

<今日の視点>オリンピックの正しい見方。其の3

米国が今回その威信をかけて絶対に金メダルを取る意気込みで送り込んできたのはバスケットボールの代表チームだ。このチームと比べれば、野球の米国代表チームは学生レベルといってもよい。そのバスケットボールの初日、会場にはブッシュ親子がいた。彼等は中国を相手に前半は緊張気味の自国のドリームチームを不機嫌そうに見ていた。ただカメラは同時にブッシュ親子の真後で目を半開きにして明らかに寝ている老人の姿もとらえた。その老人はキッシンジャーだった。

キッシンジャーが現政権の政策に口を挟んでいるとは思えない。だが考えてみれば彼が政権中枢にいたニクソン以後も世界はこの老人の影響を受けてきた。その彼が今も関係が深いと言われているのが「ネオコン」である。そしてそのネオコンとグルジアのサーカシビリ大統領はソ連崩壊から親密な関係である事は言うまでもない。

そもそもネオコンの主張の全てが濁っていると言うつもりはない。なぜなら民族の分離独立と自由自決主義は民主主義の大枠に入る。ただこの純粋な思想がキッシンジャーに代表される純粋から最も離れた国益策謀の中心グループと交わると、米国の行動パターンは世界に様々な副作用を及ぼす。

振り返ればブッシュ親子は大統領としてのエネルギーの大半がイラクと中東に注がれていた。だが、彼らに纏わりついたネオコンにとってはその理想が世界に拡大する順序において中東もバルカンも大差はないはずだ。そして大統領が交代していっても米国の国益、或いは米国という傘を通して自己利益の増殖を図る人々にとっては、大陸各地で発生する民族自決による摩擦は常にチャンスの芽も含んでいるのである。今回もその絶好の機会が突然やってきた。そして、もしかしたらこれはブッシュの次に政権の重大なテーマとして働く可能性さえある。

ところで、視点では何年も前から次に米国経済が悪化した場合、FEDによる金利調整は効果がなく、予想されるドル安の過程で米国はむしろ世界の混乱を望むだろうと主張してきた。ただそれは一つのパターンを紹介したに過ぎず、私自身も実際にそうなると確信した訳ではない。ただ今回の程度で簡単に弱点を露呈するユーロと、その結果手に負えなかったOILがいとも簡単に鎮火していく市場の本質には改めて驚嘆する。ただ株が上がるのは金余り中で皆がスプレッドのポジションを持っていたからである。基本的にはOILが下がっても住宅の価格は戻らない。よってスプレッド解消のショートカバーが終了すれば、株は自ずと調整過程に戻るだろう。

そういえば80年代にまだ矍鑠としていたキッシンジャーをホテルオークラで何回か見かけた事がある。もしかしたら一昨日、心配そうに母国のチームを見ていた単純なブッシュ親子の後ろで恍惚の様で寝ていた彼は、実は現代の妖怪としての面目躍如の姿だったのかもしれない・・。

オリンピックの正しい見方、其の2

こちらでは野球が山場を迎えつつあり、そんな中でアメフトのプレシーズンもスタートした。従って他に見るべきスポーツが沢山ある米国人にとっては、オリンピックへの注目度は日本人の1/3程度だろう。

ただそれでも今年は北京と言う事もあり、また独占中継するNBC並々ならぬ力の入れ様でそれなりの視聴者を呼んでいるはずだ。そんな平均的米国人もあの開会式には驚いた。それは現代のスポーツ中継の第一人者であるボブコスタ氏の開会式中継での驚嘆ぶり(組織力と見事な演出に対して)素直に物語っている・・。

そういえば、ここで何度も紹介したテレビ番組「ソプラノス」の食事のシーンで、主人公のバカ息子が、スパゲッテイーを食べながら、「パスタは中国人が発明したって本当?」と聞くシーンがある。

トニーは何も答えずにそのエピソードは終わる。一般的西欧人はその文明の起源から現代までの発展の流れを「ギリシャ」「ローマ」「大航海時代」「大英帝国」「米国」と考えているとみている。途中発生したイスラムの台頭や一時的だったモンゴルの脅威は禍だったとして無視し、キリスト教の優位性を観念的に信じ込んでいる。

その意味で中国の存在は「トニーのバカ息子」に代表される大半の西欧人にとっては未知だったといえよう。しかし経済的と軍事力の台頭や将来は、地球環境の破壊者として場合によっては西欧文明にとっては必然の禍、悪者に変化していくリスクを感じ始めている。

しかし、西欧が優越感を覚える一方、羅針盤等の航海技術を発明したのは中国だ。実際ガマやコロンブスが航路や新大陸を発見する100年前に明の鄭和は大船団を率いてインドやアフリカまで既に到達している。鄭和はそこで漢民族の文明の優位性を暴力や宗教で押し付ける事なく、現地の文明を尊重し友好関係を結んで帰国した。

NBCは競技の中継の傍ら、食文化の紹介などの興味本位の中継に力を入れている。ならばせっかくなので米国は中国の歴史にもう少し時間を割いて中継した方がよい。それが世界平和と米国の未来の為にも有益であろう・・。

2008年8月8日金曜日

オリンピックの正しい見方

表面的には世界はまだ平和で、WTOの破綻は暗雲だが、様々な金融取引上のルールは機能している。よって通貨の価値は経済指標や中央銀行の政策次第で左右されている。そんな中でこのところのドルの優位は米国内の理由というより、それ以外のグローバルスローダウンが原因である事は誰もが知っている。ではこのドル高がそのまま米国の国力優位性を証明するかどうか、経済指標や中央銀行を注視するのもいいが、せっかくなのでオリンピックのメダルで占ってみたい。

報道からは、オリンピックにはそれ程は入れ込んでいない標準的米国人も、静かに金メダルとメダル総数という「国威」には少なからず興味を持っている。ズバリ、彼等の関心は今回はメダル総数で米国が中国に負けるかどうかである。

そもそも近代オリンピックの歴史は1896年のアテネに始まるが、初期の頃は開催国と米国がメダルを競っていた。だが、ヒトラーによる国威向上政策が今回の北京に似ている36年のベルリンでドイツがメダル総数で優勝したのを最後に、戦後のメダル争いは米ソの冷戦をそのまま反映する時代になった。

そして冷戦終結後のバルセロナを境にその時代も終わった。96年 2000年 2004年の3大会は、米国がメダル総数でも優勝を重ねてきた。しかし前回のアテネでは、金メダル数では中国が米国との差を4まで肉薄し、今回は復活したロシアと共に米国を打ち倒す事を狙っている。

米国が勝てばまだまだドルの時代は続き、ドイツが頑張ってしまうとユーロへの流れが戻る。そしてロシアが勝てば、OILに代表される資源本位性がまだまだ大暴れする事を覚悟しなければならないだろう。ただ中国が勝てば個人的にはどうなる解らない。(強いて言えば環境破壊が進む?)ただ解らないという事はより混乱する時代になると考えている・・。

不祥事とプライド

昔在籍した日系大手証券では2回の不祥事を経験した。会社は大打撃、社長は交代した。2回目の不祥事の際は既に米国法人への駐在員だったが、同時に起こっていた金融再編の大波の中、国内畑ではない新社長は迷わず外資との提携を選択した。

2度目の不祥事で、本流である国内営業出身に社長候補がいなくなった事がその後の自分の人生にも多大な影響を及ぼした。なぜなら、この時点で国内営業出身が再び新社長になっていれば、親密な財閥グループとの関係を無視して外資との提携に突っ走る事はなかったと考えるからだ。

その場合は自分は駐在任期の5年前後で普通に帰任してはずだ。そして今頃はどこかの証券会社の営業店で働きながら、米国の政治経済とは無関係な静かな人生を送っていた想像する。

さて米国でもウォール街は2002年の不祥事に続いて2度目の不祥事に揺れている。これはサブプライムによる資産悪化とは別の角度からの打撃だ。十分な商品説明を怠って販売した債券の買い戻しを余儀なくされたCITI株は下落。また本日は途中まで頑張っていたダウ平均もAIG社(米国の大手保険会社)の格下げ伝わると底が割れた。そして引け後にはメリルが債券の買い戻しを決定。CITIに続いたのである。

CITIとAIGそしてメリル。この3社は米国のサブプライム問題のビッグ3だ。以前ここではなぜこの3社のサブプライムの金額が突出したか、その持論を述べた。復習になるが、この3社は2002年の不祥事で永く君臨した中興の祖ともいえる会長が全員あのスピッザー(元NY州司法長官)によって辞任に追い込まれた。そして混乱の中で急遽後継者を選ばなければならないというパニックに落ちた点が共通していたのである。不祥事では他の金融機関でもトップの交代はあった。ただ長期に渡り絶対的権限を持っていた「老人」が後継者を指名しないままフォースアウトされたのはこの3社だった。

ところで、今回の不祥事が一番響くのは個人的経験からはメリルだとみる。なぜなら本日メリルはCITIに遅れて顧客からの債権買い取りに応じる事を決定したが、CNBCによればその理由はサイン会長の判断ではなく、支店のブロカーによる突き上げが本社に向けてあったからだという。

当然だ。CITIは買い取り応じたが、メリルは応じない・・と言う事態は歩合セールスのメリルのブロカー群には許されない。今回の不祥事がメリルに一番影響与えると考えた背景は、再建の手腕を期待されたサイン会長はどうやらメリルの強さの泥臭いリテールビジネスへの感度が鈍いからだ。

一方サイン氏は40億円を前金で払いGSから大物を雇った。大物はメリルでの職務が自分のイメージと違う場合、支度金の返還なしにいつでも辞められるオプションを貰ったという。こが力を発揮すればよいが、そうならなかった場合の会社の求心力はどうなるのだろうか。

2008年8月6日水曜日

インベスターの胆力

元々この仕事をする上で顧客には自分の考える「インベストター」と「トレーダー」の違いを整理してから接するようにしている。ただ顧客側は期間中のパフォーマンスという競争の中にあり、殆どケースでWバフェットの逸話の様な長期のインベスターの観点は役に立たない。

そして、インベスターとして重要な要素と考える「信念」と「平常心」の維持の心の力において、「この人には絶対に勝てない」と感じた日本人がいる。ただその人は相場の関係者ではない。あの松本サリン事件の河野義行氏だ。そして昨日、彼が看護した奥さんが亡くなった。

重要な要素とは、マスコミも含めて周りが全員敵と言う中で、慌てず、焦らず、淡々と信念を貫く胆力である。無実だったとはいえ、河野さんは冤罪疑惑や愚かな群集心理に取り乱すこともなく、冷静に対処していた。彼が顧客だったら一緒にいい仕事ができるだろう。

ウォール街のヒロイン

朝からCNBCに例のオッぺンハマーの金融アナリスト、メレデイスホイットニー女史が出演している。そして彼女は、「誰もが想像していないペースでこれから米国の住宅価格は下がる」と、いつもの歯切れのいい分析をしている。

ところで彼女はフォーブスの最新号の表紙になった。理由は、多くのアナリストが楽観論を言っていた昨年、彼女の分析、特にCITIに関しての悲観論が現実になってしまったからだ。そしてこの光景と同じモノが6年前にもあった。

当時はメリルとCITIを中心に、アナリストとインベストバンキング部門の不正/癒着がスピッザー前司法長官によって糾弾されていた。その時、民間アナリストで事前に、WSの巨人と言われたCITIのワイル会長を批判したのがサリークライチェフ女史だ。

当時の彼女は大手に属さす、独立系アナリストとして中立の立場でウォール街を見ていたのである。結果、今のメレデイス女史と同じ様に、フォーブスで正義のヒロインとして特集となった。

その後の展開は有名。ワイル会長は自分を批判した彼女を重役でCITIに迎え入れた。彼女を迎える事で、CITIのクリーンさアピールする戦略に出たのだ。そしてサリーはそのままCITIに入った。だが同社は立ち直るどころか凋落を続けている。

要するに批判する事は簡単、だが傾き始めたタイタニック号を戻す事は至難の業であるという事。当然そんな事はワイル氏が一番知っていたはず。しかしピンチにそんな見せかけの人事で切り抜けようとしたなら、あの時にワイル氏と同時にCITIの命運も終わっていたのかもしれない。

ところで、今タイタニックは米国自身である。ただ3等船室の庶民は本当は何が起こっているのか知らされていない。よって事態が彼等にも明らかになると、船内ではパニックが始まるだろう。そしてそのパニックになった米国人は救済者としてオバマとマケインのどちらかを選ぶ事になる。

その際のマグニチュードがマケインとオバマのどちらに味方するかまだ解らない。だが、どちらがなっても米国は歴史的なコストを払う事なく立ち直る事はないだろう。

2008年8月2日土曜日

マヤの黙示録

本日は「皆既日食」だった。「皆既日食」で思い出すのはメルギブソンが2年前に製作した映画APOCALYPTOである。お勧めする程の秀作ではない。だが、それなりに話題にはなった。

映画は「マヤ文明」を模した中南米の一大文明が、欧米人の襲来で終局を迎える事を暗示して終わる。その暗示が「黙示録」即ちAPOCALYPTOというタイトルだ。

この映画では、マヤ族?に捕らわれた主人公の部族の男達が儀式で次々に首を切り落とされる場面がある。その順番が主人公の青年になった時、突然「皆既日食」が起こる。神秘的な現象を「暗示」と受け止めたマヤの王は、その瞬間に生贄を殺す事を止め、主人公は助かる・・。

この映画が公開された頃からだろうか、欧州の一部や米国では改めてマヤ文明に興味持つ人が増えたという。同時に、マヤが繁栄したとさえる5~10世紀に、彼らが天文学に通じ1年を365.2422日として計算した暦が残っていて、その事実から彼等の特殊な才能に興味を持つ人が増えた。

暦はシーザーがそれまでの太陰暦を、1年が365日の太陽暦に変えた。そして彼の名前を冠したユリウス暦が現行のグレゴリオ暦になったのは1582年の事だ。1582年前後のヨーロッパはまだガリレオが天と地球のどっちが周っているかの議論をしていた時代。

それを考えると、それよりも何百年も前に現行暦と同じに1年を365.2422日と正確に割り出していたとされるマヤ文明は確かに神秘的というより不気味でもある。そしてその不気味なマヤが残した暦が2012年の12月22日前後に終わるという衝撃の事実で、一部の人は人類の未来にも不気味な事を言うようになった。

いずれにしても、2012年まで何とか生きて確かめたい・・。

2008年8月1日金曜日

ブルーンバーグの僕(しもべ)

NYのブルーンバーグ本社からチャートの専門家がプロモーションにやってきた。ブルーンバーグに登録して15年経つが、実はこの端末を殆ど使っていない。従ってブルーンバーグではメールも打てない。チャートは10年以上CQGを使ってきた。その専門家が真にその人だが、2年前にCQGから優秀な大勢がブルーンバーグに引き抜かれ、チャートを描く多機能も今では完全にCQGを凌駕している事が本日確認された。

ブルーンバーグが保有するデータは膨大だ。このデータを自由に端から端までチャートに変えていければ非常に便利である。そこで興味があって彼等に聞いた。指標と同時に同社の端末から自動的に発注するシステムをNYではどの程度の人は使っているか?彼らでは解らないという。だがそのシステムを開発したのは顧客の要望に応えての事との話には驚いた。

そもそもブルーンバーグは最新のナビゲーションシステムの様なモノだ。前回の東京出張でも全てのタクシーがナビを備えていた。ナビの利便性は誰も疑わないし、コレがあれば東京の道を知らない自分でも明日からタクシーの運転手ができる。しかし自分は今の仕事を続ける限りこ、れからもブルーンバーグの愛好家にはならないだろう。なぜな、ら益々機能を充実させ世界を制覇していく同社の端末はあまりにも便利な為にその端末だけの世界で大体の事が済んでしまう。しかしそれはリスクだ。

今市場参加者はブルーンバーグを通して膨大なヘッドラインは瞬時に入手できる。ただあまりにも膨大な情報が手に入るためか、無意識のうちに我々は情報の本質を見抜く力を失ってきた。表面的には感じない寧ろ充実感さえ感じる錯覚と知識のスプレッドの拡大。真の情報は思考力を経て真の知識に変わるはずだが、この過程を省く利便性は実は静かに人間の思考力の退化につながると私自身は考える。

そして今は指標の数値次第で発注まで機械に任せる時代。これでは最新のナビを備えた車に自動運転装置がついた様なモノ。最早運転中も起きている必要がない時代になった。気の小さい自分にはそんな事は出来ない。もし可能だとしたらそれはトレードが命がけの勝負ではなくゲームである瞬間だけだ。ただもしかしたら市場はいつしか命がけの真剣勝負の場所から実はゲームの場所になっていたのかもしれない。いずれにしてもそんな時代にはブルーンバーグを使っているつもりが、実は「使われているかもしれない人」が世界にはかなりいるはずである・・。

2008年7月31日木曜日

自己反省をしない危うさ

2週間前から公開され、以後入場者数の新記録を打ち立てているのがバットマンの新作である。実はこの映画にはシカゴの街並みがふんだんに盛り込まれている。バットマンが普通の人間の時オーナーとして君臨する会社のオフィスビルはCBOTのビルを模したものだ。その意味では先物の注文をシカゴに発注した事はあってもまだシカゴを訪れた事のない人にはぜひ見てもらいたい映画である。

ところで、この映画にはヒロイン役でマギーギレンホールと言う米国人女優が出演している。彼女はどちらかというと遅咲き。映画一家に生まれながら、映画によりも一流大学でしっかりとした勉強をしたタイプである。彼女は前の作品で物議をかもした。

オリバーストーンが同時多発テロを再現した映画、「ワールドトレードセンター」で、瓦礫に埋まったまま奇跡的に助かった消防士の妻の役を彼女が演じた際、彼女は「同時多発テロは、米国にも責任がある・・」と言ってしまったのだ。オリバーストーンは常に反体制的作品を作る。この映画は興行的には成功しなかった。

そんな中でベルリンで20万人を集めたという外国人のオバマへの期待は米国が変化する事へ期待の表れだ。今週のエコノミスト誌は、米国は過去の危機「冷戦」「ウォターゲート」「ベトナム」「オイル危機」を自己反省とともに解決策を見出してきた。だが近年の米国は自らの危機の原因を自己反省するより他人に責任を押しつける様になったとしている。

大統領選挙に向け、この状態が改善されない事態、即ち、米国が自己反省の欠如を続ければマケインにもまだ可能性は出てくる。そしてその米国の命運を見て他の世界どう行動していくか、それが世界の運命である。

2008年7月30日水曜日

正義は強者の利権

オバマ・エコノミック・ チームと冠した会議に集まった顔ぶれに意外な人物が二人いた。ルービン・サマーズ・ライシュ・タイソンのクリントンチームに加え、カーターに任命されたボルカー、またグーグルのCEOやWバフェットまで電話で参加するという華やかさの中、その二人は異質だった。二人とはブッシュ政権初代の財務長官のオニール氏と前SEC長官のドナルドソン氏である。

二人は現共和党政権下の重要スタッフであった。そして共通するのが当時市場からの評価が決して高くなかった点だ。特にオニール長官のへの市場からの批判は酷いものだった。しかし今、ブッシュ政権の歴代財務長官を振り返ると、個人的に一番まともだったと感じるのはこのオニール氏である。

2代目のスノー長官は、同じく実業出身でありながら、オニールの轍を踏むまいと必死にイエスマンに徹していた。そしてポールソン。彼は住宅を救済する法案のサインを拒むブッシュに状況を説明して法案を設立させた。しかし、彼にも堅固たる一貫性は全く感じない。

オニール氏は2003年の株の下落局面で何もしなかった。何もしなかった事を批判され罷免された。しかし、あの時に米国はむしろもう少し苦しんだ方が良かったかもしれない。なぜなら「イエスマン」のスノー時代にまき散らされた誘惑やステロイドが災いとなり、今それがポールソンに襲いかかっている。

いずれブッシュのエコノミックチームには後日正しい評価が下されるだろう。では外交チームはどうか。外交も常に対立の構図があった。パウエルとチェイニーの確執は有名だったが、後を受けたライスも結局は最後にチェイニーと対立した。

チェイニーを取り巻くネオコンの中で最も影響力があったのはリチャードパール。そのパール氏の周辺に火が付き始めた。本日、WSJは彼とイラク周辺のOIL採掘を牛耳る関連企業との間にイラク戦争前からビジネスの利権に関して約束があったとの衝撃のリポートをしたのだ。この事が証明されると彼は大変な事になる。

恐らく、ドナルドソンとオニールがオバマの経済会議に選ばれた理由は前時代への反省である。ただオバマの時代も同じ事が必ず起こるだろう。なぜならその昔プラトンが「国家」で触れているように、正義とはいつの時代も強者の利権だからだ。

但し、最後まで周りの人に担がれたブッシュと、最初から自分で判断するオバマの違いは共和党と民主党の特徴でもある。アメリカ人ほど単純ではない欧州でオバマが期待されているのはその違いが見たいからだ。

ただ政策を自分で決める大統領、あるいはその力がある大統領は時に国内で利害の対立する勢力からは邪魔な存在になる。その意味ではオバマも妥協が必要だろう。いずれにしても、時代の織りなす人事の背景は実は意外に面白いのである・・。

2008年7月22日火曜日

ノーマンの世界

フロリダがハリケーンシーズンを迎える少し前、先に暴風雨に入ったフロリダのフォークロージャー市場には一つの目玉商品が出た。それは数年前は25Mを超えていた地元の著名デベロッパー自身の自宅だった。そしてCNBCで中継されたこの物件の入札説明会に顔を出していたのがグレッグノーマンである。

CNBCにノーマンが登場するのは珍しい事ではない。ただそれはゴルファーとしてのノーマンではなく、資産500M、また今では珍しくなくなったプロスポーツ選手のジェット機所有者のパイオニアとして、ビジネスで世界を駆けまわる一流企業家としての登場だった。

彼が凄いゴルファーだったとはいえ、53歳にして全英の3日目まで単独トップを走れば周りは大騒ぎだ。そんな中、彼のジンクスであるメジャー最終日の悲劇を念頭に、土曜日米国ABCの記者は「今晩はどういう予定?」と聞いた。

するとノーマンは「会社の社長とのビジネスディナーがある」と答えていた。これには解説を担当していたトムワトソンとポールエージンガーも絶句。そして最終日ジンクスは健在だった。途中、前述の二人はなぜここでドライバーを持つのかと、ノーマンの相変わらずのプレイスタイルに呆れていた・・。

それでも人はノーマンに魅了される。ゴルフクラブを初めて持ったのは今から20年前だが、その時の世界のトップはバレステロスとファルド、そしてノーマンだった。

そして、数々のメジャーの悲劇はともかく、世界ランク1位になったプレイヤーはそれからタイガーまで入れても実は12人しかいない。(ランガー/バレステロス/ノーマン/ファルド/ウースナム/カプルス/プライス/リーマン/エルス/デュバル/BJシン) 期間を比べれば、タイガーの505週をトップに次がノーマンの331週。後は全員が100週以下である。つまり二クラウスの後、世界のゴルフを圧倒したのはタイガーとノーマンである。

ワトソンは、ノーマンを称し「彼はタイガーが出る前のタイガーだった」と言った。今の時代プロゴルファーは大半は大学卒だ。特にワトソンやタイガーからはスタンフォードらしさも感じる。対照的にノーマンは高校からすぐにプロになると、まさに七つの海をまたにかけて獲物をるサメの様な人生を送ってきた。そして今、フロリダの不動産ではトランプ氏でさえ一目置くビジネスを展開しながら53歳にしてあの体躯を維持。

ノーマンは米国のメジャーで8回優勝をし損ねたといわれる。ただその原因となった「積極的すぎる最終日のゲームプラン」は人生のゲームプランにおいては十分ペイオフしている。なぜならこの様なゲームプランは他に誰も持っていない。だからこそ彼は今でも人を魅了する事が出来るのだろう・・。

2008年7月20日日曜日

スポーツ駐在員

野茂が引退した。日本では彼の引退を惜しむ声と、ドジャースの重鎮ラソーダ氏による米国人評が話題になっていた。ラソーダが野茂を評価するのは当然、ただ野茂に対する米国人の評価は日本人考える程は高くない。両リーグでノーヒットノーランを達成した野茂の事はそれなりに今も米国人野球ファンの記憶にある。しかし彼は最後まで自己表現があまりにも下手だった。下手だったというより意図的にソレをしなかった。

米国社会は自分から同化しない存在に対し冷たい。旬な時はいいがピークを過ぎれば人々の記憶から消えて終わりだ。イチローにも同じリスクがある。何日か前の日経新聞に、同僚がイチローを批判しているとの記事があった。野茂もそうだったがESPM(スポーツチャンネル)のインタビューでもイチローは未だに英語で答えようとはしない。実はここに彼の将来の評価に対して大きなリスクがある・・。

そんな中で二日目のTHE OPENで首位になったK.J.CHOYがESPNのインタビューに驚くほどの流暢な英語で答えていた。彼は30歳で渡米して8年、今はメジャーで勝っても違和感がないレベルまで来た。試合中の彼は韓国人男性特有の険しく寡黙な表情を崩さない。よって決してファンに人気がある選手とは言えない。ただ一方で彼の英語からはイチローや野茂にはない「同化力」も感じる。個人的にはこの差は米国在住の日本人と韓国人の標準的な境遇の違いが実は関係しているとみる。

まず全米の日本人人口は80万人前後らしいが、日系米国人としても重複する加州とハワイでの人口が半分以上の50万。残りの30万のは所謂駐在員である。一方200万人と言われる韓国人は戦後の移民が大半、そしてその半分は非合法との分析である。要するに、戦時中の不幸はともかく、既に米国に同化して余裕がある日系移民か或いは駐在員という比較的恵まれた環境にあるのが米国の標準的日本人社会とするなら、米国の韓国人社会にはまだまだ悲壮感が残っている。

この悲壮感からの圧倒的な家族のパワーを支えに多くの韓国人女性ゴルファーが米国を席捲している。彼女たちの成功に刺激を受けながら巨大な米国韓国人社会は米国に同化していく事の重要性も皆が認識しているはずだ。そしてこの同胞と同じ感覚がなければK.J.CHOYの英語はあそこまで進歩しなかったのではないだろうか。

個人的在米経験から端的に米国における日本人と韓国人の違いを表すキーワードは駐在員と難民。通常駐在員の立場では同化の必要性は希薄である。それと同じく多くの日本人プロスポーツ選手にとっても米国はチャレンジの場であっても彼等に母国を捨てた難民の悲壮感は感じない。その意味で彼らの活躍はスポーツ駐在員の活躍でもある。ただイチローは誰の目にもメジャートップの一人であり、また野茂が大リーグへの道を切り開いた功績は誰も否定できない事は言うまでもないが・・。

2008年7月15日火曜日

インフレで新陳代謝

洞爺湖サミットの翌週から、ヨーロッパではフランスを中心に「地中海サミット」が開かれている。サルコジ大統領は日本では退屈そうな表情だった。だが地中海に隣接するアフリカ アラブ ヨーロッパの全首脳を招き、自分が主役の今回は実に活き活きとしている。前から彼は同国の往年の名優、ジャンポールベルモントにそっくりだと思っていたが、会議での彼は政治家と言うよりエンターテイナーの様相だった。

さて、地中海に無関係の英国がなぜこの会議にいるのかともかく、豪華な参加者の顔ぶれから洞爺湖が全く霞んでしまった。その洞爺湖では開催国日本が威信をかけて議題にしようとした案件があった。其の案件とはヘッジファンドや彼等の背景にある流動性についての規制。しかしこの案件に関しては議題に挙げる事を米国が頑なに拒んだ事実が日経新聞や文芸春秋などで取り上げられた。

もともとインフレ対策はサミットの最重要議題だったはずだ。にもかかわらず、最早その原因として誰も疑わない過剰流動性とヘッジファンドについては不問にするという。米国はインフレに鎮火よりもむしろその後の展開に実は興味があるのか。これでは欧州からすれば洞爺湖が全く意味のない会議だった。インフレに対する考えが米国とは違う欧州(サルコジ)が開催国の日本に失望した本当の理由はそこだろう。

2008年7月12日土曜日

洞爺湖サミットは八ヶ岳

久しぶりの日本では丁度サミットが開催中だった。サミットは70年代に始まり、冷戦後はG7にロシアが加わり、そして今回は更に世界中から主要人物が集まっていた。

会議では、参加者が増えれば増える程、重要な決定がなされる確率は減る。イベントとして盛り上がる日本を尻目に、事前に外国のマスコミは今回のサミットの重要性の低下を皮肉っていた。

だが、少なくとも現時点でまだ世界は平和である事が確認できただけでも、このイベントは全く無意味という事ではなかった。しかし今回の会議がサミットの歴史の転換点にはなるだろう。なぜならそもそも「サミット」と言う英語の意味は「頂点 頂上」である。その鋭利な形状は中国やインド、更には南米やアフリカと言う国が新たに参加する事によって頂点の角が削られる。即ちそれは「会議」がエベレストから八ヶ岳高原になる様なモノだ。

持論だが、組織や「世界」を動かす上で理想の形はこのサミット(頂上)型である。頂点の支配者(層)が知識と情報の適度な格差を保ち、それが下方に下ると同時に拡大していく。このピラミッドの形状が世界に存在する事は貧富の差とは別の意味で実は重要だった。

しかし冷戦後のフラット化は国力だけでなく知識や情報までフラット化してしまった。これではそれまでサミットを構成した層が世界を動かす事は不可能だ。多国家が利害関係で四つに組めば世界は動かない。そのまま行きつく所まで行くだけだ。特に情報の露出はイラクで失敗した米国が深刻。

その昔「サミット」と言う言葉が相応しかったあの86年の東京サミットから22年が経過した。頂点が削られてしまった事が象徴的だった今回の洞爺湖サミットは、この会議の未来を示している・・。

2008年6月25日水曜日

格付け機関と監査法人の使命

新しいNHK土曜ドラマ、「監査法人」の一回目を見た。どうやら主役は高度成長期には最大手の一角として日本経済の発展に貢献し、90年代後半にその監査の甘さが災いして後退、社名を変えて再出発を図ったものの、一昨年の大手日系証券子会社の不正会計の一件でも当事者となり、ついには消滅した監査法人である事が窺える・・。

ところでAMBAC(米国大手証券保証会社)は1年前90ドルだった株価が今は2ドルを割っている(本日は1.97ドル)。米国の株価のパターンから言えばこれは倒産価格である。市場なるモノがこれまで米国が主張してきた通りのモノなら、この会社にいまだA格付け云々を議論している事がおかしい。こんな事をやっている限り、国家が銀行を管理していると批判された中国からでさえも、米国の金融市場は「世界で一番いい加減な市場」とままで言われても米国は反論できない・・。

昨日FBIはモーゲージ詐欺の対象として大手企業も調査中である事を明言。その中には格付け会社も対象になっている。そんな中でMOODYS(大手格付け会社)株はまだ35~45ドルの水準だ。同社株はAMBACが90ドルだった昨年7月は60ドル台だった。従って同社は米株の全体平均以上には下がっていない事になる。ただ私にはこの現実が理解できない。

CASHフローではこの価格が妥当なのだろう。しかしならば米国は格付け機関を罰せずに市場の真義を捨てるのだろうか。答えはイエス。MOODYS株の価格に疑問を持たない投資家は市場に真義など求めていない。今や株債券も商品や為替と同じだ。要するに収益チャンスで動けばよい。ただそれでは成長を前提とした資本市場と言う言葉は最早いらない。必要なのは有り余ったマネーがうごめく為のギャンブル場である・・。

日本の金融関係者はこれまで米国市場を教科書として其れを学ぶ事に心血を注いできた。その意味でも米国金融市場の真義復活は我々にも死活問題である。いずれにしてもFBIがどんな処断を下すか興味深い。

2008年6月11日水曜日

ナイキを履いたアベベ

オリンピックでローマの街中を裸足で走ったアベべのマラソン世界記録は2時間15分16秒。それから48年。詳しくは知らないが、今男子マラソンの世界記録は2時間5分前後と記憶する。 50年も時が過ぎると同じスポーツでもその前後で誰が一番かを判断するのは難しい。ただあくまでも主観だがマラソンだけは別だ。

スポーツ医学が発展し、殆どのスポーツが科学で解析されるようになった。記録は極端に伸びた。そこに器具の改良が加わり、近年は薬までが常識である。 仮に今、アベべが科学の粋を集めたマラソンシューズで走ればどうなるか。2時間以内で走るかどうかは別だが、彼が近代史上一番強いマラソン選手である事に疑いを持っているスポーツ専門家は少ない。

それに比べれば、今のスポーツはその記録そのものにどれだけの価値があるのか。スピード社の水着はまるで魔法の水着。五輪は人間の体力技術の限界と同時に「性能」の限界を争う場になった。早速日本はスピード社の水着をそれまでの国内メーカーとの契約を反故にしてまで解禁にするという。一方NHKの報道では、ドイツでは水泳連盟が選手の反発を承知で国内メーカー(アデイダス?)との契約を優先。英国スピード社の水着はドイツ選手に解禁しない方針との事だ。

記録やパフォーマンス優先か、「契約」という約束やルールへのコミットが優先か。そういえば金融市場ではこれまで成長を優先した中央銀行が一斉にインフレ退治へのコミットに回帰しようとする現象が見える。ECB然り、またドイツの水泳連盟然り。この議論に正論はない。あるのは歴史としてのトレンドである・・。

2008年5月18日日曜日

老人の負の遺産

16日付の日経新聞にサブプライムの損失上位が出ていた。そこで気づいた事がある。米系ではCITI メリル AIGが突出している。実は、この3社には共通項があった。それはあのエリオットスピッザーである。

お気づきの人もいると思う。この3人は何十年にも渡り、会社に君臨してきた70歳代の経営者。彼等は会社で中興の祖と言われた。しかし2003年の不祥事を受け、全員スピッザーによって強制的引退を強いられた。

競争の厳しいWSで、70歳にまで近隣するのは異常。しかし「中興の祖」ゆえに社内の突き上げはなく、結局スピッザーによって仕方なく去るまでは皆が強権を維持していた。彼らの強制的引退は突然だっただけに、会社は慌ただしく代わりのトップを決めた。

そして唐突にトップになった経営者がプレッシャーの中で取った手段。それがサブプライムだった・・。

2008年5月16日金曜日

支持者の群像

民主党の予備選は佳境に入ってきた。ここにきてオバマ支持を表明した人々には特徴がある。本日はブッシュに時代、SEC長官だったドナルドソン氏がオバマ支持を表明した。先週CNBCに登場したノーベル経済学賞受賞者の全員がオバマ支持だった事は印象的だが、彼らにに加え、グリーンスパンに代わり、俄かに再評価されているボルカー元FED議長、またオバマ支持の態度を明らかにしているソロス。そしてCNBCが報道した、ところで、あのバフェットも本当は最初からオバマ支持だったという。一体これは何を示唆しているのか。これが今回のテーマである・・。

まず金融市場の巨人、バフェット、ソロスそしてボルカーに共通する特徴とは何だ。あまり知られいないが、バフェットとソロスは同年同月生まれである。(1930年8月)。ボルカーは2歳年上。要するに彼らは米国がまだ覇権国家として君臨する前の時代を知っている世代である。

ただバフェットとソロスは全く違う環境だった。ソロスが命からがら欧州から米国にたどり着いたのに対し、バフェットは米国大繁栄をあますことなく体現した人だ。恐らく、その苛酷な体験から、ソロスには人間の愚かさと物事の限界を悟る嗅覚が身に付き、そしてバフェットはあくまでも陽気に米国の本質の成長を体現したのだろう。

彼らはまさに陰と陽、だがバフェットが成功者がよく陥る罠に落ちなかったのは、田舎のネブラスカを動かなかった事大きいと考える。NYは常に時代の先端を走る。よってブームを客観的に眺める事は難しい。彼は巨万の富を築いても、家は昔からの3BEDルーム。車は普通のキャディラックだ。この環境が、時代そのものを眺めるには必要だったのではないだろうか。

そして二人の投資スタイルも対照的。ソロスは物事の限界を感じとる能力にたけ、逆にバフェットは成長がどこにあるかを惑わされず自分で判断した。結果ソロスが英国ポンドやタイバーツを売り、近年ABXの売りで成功したのに対し、バフェットは選別した分野での長期の順張りで富をなした。

一方ボルカーとグリーンスパンの違いは大学である。ボルカーはソロスと同窓のLSE(ロンドンスクールオブエコノミクス)を経験している。だが、同世代のグリーンスパンは、英国から米国を見るを経験していない。このあたりが、その支持者を選ぶ観点にも反映している・・。

2008年5月10日土曜日

偽りのグリーンバック(ドル紙幣)

民主党の予備選も終盤になった。一方共和党の候補者は本来マケインで決まっている。しかし実は共和党の投票用紙には、まだハッカビーとロンポールの名前があり、先のインデイアナの予備選では、それぞれ10万/6万人の票を集めている。このロンポール氏は、選挙公約にFEDの廃止を掲げていた・・。

FEDを廃止などと言えば、突拍子もなく聞こえるだろう。しかしこの種の意見に最初に出会ったのは、グリーンスパンの神格化が始まった90年代後半である。そういえば、日本では日興証券からメリル、出雲市長を経て国会議員になられた岩國議員が同じ事(日銀廃止)を言っている様子。議員のブログを見ると、彼の考えはどうやらロンポール氏やその勢力と同じである・・。

ところで米国には絶対変えられない史実がある。それはFED誕生が1913年(議会)である事。1913年と言えば、米国が英国を抜き、事実上世界の超大国に躍り出た時期だ。要するに、欧州で繰り返される戦争を他所に、モンロー主義、西部開拓(メキシコ戦争)南北戦争を経て、米国が世界のNO1になる過程で、米国の金融システムに中央銀行制度(FED)は必要なかったのである。これは変えられない史実。そして、それは偶然ではなかったのである。

最近こちらのTVで建国の父の一人、ジョンアダムスが取り上げらた事を紹介した。そして、米国の創生期に根源的アイデアを提供したのが、建国の父の中でも100ドル紙幣の顔のベンジャミン フランクリン。彼の残した13の訓戒も紹介した。彼は、欧州の優れた部分を取り入れる一方、既に英国の中央銀行として存在していたイングランド銀行、即ち中央銀行制度は米国には持ち込まなかった。理由は、彼はその存在が引き起こす弊害を欧州から学んでいたからである・・。

では当時の中央銀行が齎す弊害とはなんだったのか。ベンジャミンフランクリンが感じたのは、金融は特殊な才能を持つ特定少数の人々による支配が起こってしまう事だった。それは国益を担う中央銀行でも起こる危険があり、よって彼は金融の機能を拡大せず、また国家としての信用の象徴である紙幣の流通額は議会の承認、即ち中央銀行の裁量ではなく、あくまでも国家が保持する事を建国の国是としたのである。そしてその精神はリンカーンにも引き継がれた・・。

ロスチャイルド4兄弟の一人であるネイサンが、戦時下の英仏両国に資金を提供して儲けた事は有名だ。そしてナポレオンが敗れたワーテルローでは、本国よりも早く英国の勝利を知り、英国債相場でも儲けた事もこの世界では有名である。しかし最近知ったのは、当時情報戦略において既に突出した存在だったネイサンの動向を皆が注目する中、彼は英国勝利の一報を受けとると、まずは英国債を売りに出たという事。そして周りが慌てて投げ売りを出したところで逆に買いに転じたという裏話である。

この話が真実なら、そんな輩をリンカーンが相手にしなかったのは当然。南北戦争では欧州の金融カルテルが北軍リンカーン政府と南軍の両方に資金提供を申し出た。リンカーンはその申し出を断り、米国の未来と真義の象徴として、裏を緑色にした国家紙幣を発行した。これがグリーンバック(ドル紙幣の通称)の本当の由来である。しかし紆余曲折を経て、1913年米国にFEDが誕生した。

そこから現在に至るまで、ドル紙幣の発行権限はFEDに移管されたままである。しかしFED誕生直後からその効果に疑問を持ち、その存在に対して批判を続ける勢力は存在した。しかしその意見は、グリーンスパンが神格化された90年代後半からは殆どカルト集団の様にしか扱われなかった。だが事ここに至り、ロンポールの様に、再び注目する人々が出始めた。

さて、昨日のWSJには、FEDが、準備金に金利を払う事を前倒しで実行する許可を議会に申し出た事が紹介されている。名目は流動性危機への対応と、短期金利が歪な状況に陥る事を防ぐとなっている。しかし実態は金融機関の救済に他ならない。そのコストとして、FEDから国庫への収益が減少する事と、再びドル紙幣が増刷される事が一部から懸念されてる。

FEDは流動性の危機という名目で、対インフレの責務を捨て、金融機関の言いなりになった。その結果増刷されるグリーンバック(ドル札)は、リンカーンが発行した「本物」からはかけ離れたモノになっている。

ノーベル賞学者のフリードマンは、大恐慌はFEDが流動性を過剰に高めた後で急速に締めすぎた事による失態との論文を確かに書いている。一方でFEDの失態は偶然ではなく、外部の力で意図的に操作されていると信じる人もいる。FEDがこのパターンを繰り返すと、世の中のVOLATILITYは停滞と高騰を繰り返す。そしてそこで生き残るの者は益々焼けぶとる。そういえばベアを吸収したJPに対し議会証言では異常な攻撃を仕掛ける人々がいた。彼等は下院の銀行委員としても論客のロンポールの影響を受けていたのだろうか。

今この意見を持つ人々は、FEDは再び過剰流動性と引き締めの失態を意図的に使い分け、VOLATILITYを演出し(インフレはその材料)、新たな焼け太り層の構成という詐欺に着手しているとみるだろう。そしての詐欺に使われるのは、建国の父やリンカーンの理念からかけ離れたいわば偽りのグリーンバックである。

いずれにしても物事には両面がある。FED廃止を主張する意見は、表裏の片面だけを繋いだカルト的論理である事は否定しない。だが、昨日のWSJの記事や、ルール厳守の信義を失ってしまった今の米国の実態を考慮すると、個人的には彼らに賛同せざるをえない・・。

2008年5月7日水曜日

無責任は議会の特権

先週のニューヨークタイムスに財務長官からCITIへ天下ったルービン氏の特集があった。まず興味を引かれたのは、彼はGSのトップだった時、デリバテイブの規制に賛成だったという話。ブラックマンデイは先物が原因とする説が当時あったが、。その際に彼は先物規制に乗り出そうとしたのである。しかし、当時のCBOTから「GSがそんな事をするなら、CBOTはGSを締め出す」と脅され、話はうやむやになった。(ルービン本人弁、しかしCBOTは否定・・)。今のGSの力からすれば、GSが先物取引所の連合に屈したのは意外だった。

それから10年、財務長官の彼は逆の事をした。98年に議会をでデイバテイブ危険論が高まると、ルービンはグリーンスパンとサマーズと協調して規制を阻止したのである。同紙によると、CITIに天下ってからの7年間の彼の報酬は120億。その間は彼は「ヨーダ」の様な役割を期待されたというが、CITIがここまで落ちる間、何の役にも立たなかった。そして今になり、批判が上がっている。

もともと彼は「自分はGSと財務省で究極の責任を担った。もう疲れたのでCITIでは責任を持つ立場には絶対になりたくない」と条件をつけてワイル氏の三顧の礼に応えたと弁明。それは事実だがただ120Mを貰ったのも事実。ならばグリーンスパンと並び彼にも批判向かうのは仕方がないのかもしれない・・。(NYTIMES)

そんな中、本日は議会が銀行の規制強化を言い出した。個人的にルービンやグリーンスパンを一度も英雄視した事はない。だがだからと言って今さら彼らを批判しても仕方がない。実は一番の批判の対象は米国議会である。

ここでは2004年ごろから米国経済をステロイド経済と呼び始めたのはご承知の通り。そしてその起点は99年のグラスステイーガル法の廃止だった。この法案廃止はワイル前会長のCITI帝国を誕生させる野望の一環だったが、当時の議会はグリーンスパンの賛成のレターを参考に殆ど議論もなく決めてしまったのである。

そして、今になりCNBCでさえもグラススティーガル廃止が失敗だったと公言。やっと議会が動きだした。議会は個人でなはい。よって過去の判断の失敗の責任を追及されない特権を持つ。

いずれにしても、庶民が苦境の真の理由が解らないままヒラリーだマケインだと騒いでいる限り、議会の特権は続く・・。

2008年4月19日土曜日

破壊者待望論

経済雑誌の新聞広告から日本で再び信長がブームになる前兆を発見した。でもなぜ今また信長なのだ。知る限り、彼がブームの時日本は沈滞ムードにある事が多い。今の日本は再びこの天才にあやからなければならないほど追い込まれしまったのだろうか。

そんな日の午後、米国ワシントンにはローマ教皇が降り立った。そして空港ではブッシュ大統領が出向えた。米国人でも殆ど気づいていないが、米国の大統領が外国の要人を空港に出迎える事は異例である。国賓待遇の要人はタラップに赤い絨毯で十分。米国ではそれ以上の待遇はない。寧ろ、覇権国家米国の大統領が誰かを出迎えるなどという事は本来あってはならない事の一つかもしれない。従ってブッシュは大統領として行ったのではなく、敬虔なカトリック信者の一人として法王に臣下の意をささげたともとれる・・。

ところで参考までにデータを紹介すると、米国の宗教割合はプロテスタント51.3% カソリック23.9% モルモン教1.7% 他キリスト宗派1.6% ユダヤ教1.7% 仏教0.7% イスラム0.6% 他宗教全般2.5%。また宗教を否定はしないが明確な意識を持たない人が12.1%、そしていかなる宗教も信じない人が4%である。

大統領選に関しての統計では、有権者の7割が大統領は何らかの宗教(キリスト教)の信者であるべきで、無宗教信者は大統領になる資格がないと考えている事が判明している。では信長とローマ法王はどう関連するのか・・。(数値はCIA調べ)

その前にこちらで話題のドラマ「TUDER」に触れたい。これは英国チューダー王朝を代表するヘンリー八世の物語である。先に結論をいうと、個人的歴史観ではヘンリー八世と信長は非常に似ており、この両雄以降の両国は歴史的大発展を迎えたと考えている。そこで簡単にヘンリー八世を紹介する。

彼は数ヶ国語に堪能でスポーツ万能。また趣味も広範囲で、基本的には優れた資質の持ち主だったらしい。しかし英雄色を好むではないが、急死した兄から引き継いだ強国スペインの王女との政略結婚が行きづまると、まず王女の侍女に手を出した。そしてカソリックで禁止されている離婚を画策し、侍女が懐妊すると彼女を新女王に据える。それがアン王女である。

しかしそのアンに飽きると今度は彼女の侍女に手を出し、次々に新しい女王を据えていった。そして彼が特異だったのはその残虐性。アンを始め妻にした6人女王の内3人を断頭台に送り、また友人でもあったあの「ユートピア」の作者、トマスモアも自分の宗教改革に同意しないとみると断頭台に送ってしまった。

残虐な点も信長にそっくりだが、彼のその異常な性格は、それまで中世ヨーロッパの一国過ぎなかった英国に画期的な大変革をもたらした。それはローマンカトリック支配からの独立である。「TUDER」でも当時のヨーロッパで最大の権威は教皇クレメンス7世であり、ヘンリー八世を始めとするスペインやフランス国王はそれぞれ国王でありながらローマ法王の配下にある姿で描かれる。そしてたとえその背景が好色からの離婚だったとはいえ、その状態をヨーロッパで最初に破壊したのがヘンリー八世である。

そして彼は自分を正当化する為に新宗教として英国国教会を立ち上げる。またそれに反対した盟友のトマスモアの頸を切り、最後はその大変革の実務を仕切ったクロムウェルまでも死に追いやる代償を払う。だがこれで英国はローマによる支配から脱却。その結果反カソリック勢力が英国に流入した事で、後に米国誕生にも影響する清教徒の誕生や、何よりもユダヤ人などの活用で金融面の発展につながった。

それが植民地で先行したスペイン ポルトガルに決定的な差をつけた要因となったとみる歴史観がドラマでも展開されている。

国家支配において宗教の関与を完全に否定した信長が描いたビジョンが、秀吉、家康に引き継がれたように、ヘンリーとアンの遺児エリザベス一世は、英国史上最も著名な女王として無敵艦隊(スペイン)を打ち破り、英国を覇権国家へと押し上げていった。

歴史は時にこうした狂人たちが運命的役割を担ってきた。英国がヘンリー八世を自慢するなら、沈滞ムードが再び漂い始めた日本では信長の破壊力に再び寄りすがるのも仕方がない。そしてこの米国ではブッシュ大統領がこの二人とは全く逆に、覇権国家の首長が宗教の権威に自分の頭を垂れている。やはり彼は破壊者ではなかったのだ。イラクを破壊してしまった彼は軍産複合体に担がれただけだ。そして今彼は疲れた。疲れた彼はべネデイクト教皇にすがりたいのだろう。真に米国の凋落を語りにふさわしい光景だった・・。

2008年4月16日水曜日

救われるべき民

先日のブッシュ声明は、イラクを去るどころか、必要ならイランも同時に相手にする様な過激な内容を含んでいた。彼に残された時間はない。従って事実上この声明はマケイン候補への応援演説の意味合いが強い。それはなぜか。

本日一部のMEDIAがこのブッシュの意を汲んでばかばかしい統計を発表した。どんな統計かというと、仮にオバマとヒラリーがタッグを組み、そしてマケインがライス長官を副大統領候補に指名して本選を戦ったらどうなるかという仮想のPOLLである。

ばかばかしい。理想論とは別に、民主党ではこの予備選の後でオバマとヒラリーが仲良く正副大統領候補として本戦に臨むなど想定していない。またマケインが女性副大統領候補を選ぶとしたら、それはヒューレットパッカーを辞めたフィオリーナ女史と専門家はみている。

にもかかわらず、本人や民主党の意向に関係なくMEDIAがこんな統計を取ったのは、イラクに加え将来のイランとの衝突の可能性を触れておく事でに危機感を煽り、国防に強いマケイン(/ライス)を援護する側面がある事は言うまでもない。

そして、本当に発表が正しいかどうか疑わしいが、POLL(統計)の結果ではマケイン/ライズはオバマ/ヒラリーを49-/43でリードしているとの事である。この仮想の話が本当に実現してしまうほど米国民がバカなら、最早米国民は地球上で、救われるべき民ではない。だが問題はその米国に、本来救われるべき他の国が付き合ってしまう可能性である・・。

まず西側の誰もが米国には恩義を感じている。また現時点では、日本は無論の事、欧州もバルカンや対ロシアとの関係上で米国を完全に見限る事はできない。またOILの富を牛耳る中東の王族は、米国が最も恐れるのはOILという最も強力な流通商品ドル決済の意義の希薄化である事を知っている。

一方でイラン革命が自らに起こる事を一番恐れるスンニ王族は、対シーア派や対イスラエル問題で米国が進んで自国の民衆のエネルギーの捌け口に身を投じる事と引き換えに、時に脅しながらもドルの生命線維持に協力するといった曖昧な関係を続けている。しかし、今回は米国の綻びを助けるために、世界中がとんでもないインフレを我慢しなければならないかもしれない事態となった。

そしてブッシュ論理の延長では、そんなインフレが嫌になったら米国は自分が痛みを我慢する代わりに、本来米国やドルに代わって成長すべき国の成長を止めにかかる事が肯定される。それでもダメなら今度は地球から人間の数を間引きする・・。仮に地球の人口が半分になればインフレどころか温暖化もすべて解決するではないか・・。

世界と人類の恒久平和を真面目に考え、地球環境を守るために必死に努力する人や国民がいる中でそんな悪魔の様な所行を地球上で考えてる人がいるはずがない・・。そう考える人は本来救われるべき人である。しかし予想以上に近い将来救われるべき人が救われず、そして救われてはいけない人が救われる。私はそんなシナリオを恐れる一人である・・。

2008年4月14日月曜日

メジャーリーグは米国の縮図

一時は神様として陶酔したグリーンスパンに対し最近の米国は冷たい。この様な単細胞的反応を見ると、よくない事とは思いつつもつい米国人を小バカにしてしまうのが私の悪い癖だ。ところで、そんな親愛なる米国庶民の日常会話を紹介しよう。この会話は先日ゴルフレンジの会計の順番待ちをしている時に偶然耳に入ってきたものである。そこでは典型的なカブスファンの男性数人が私の前でに会計の順番を待っていた。そして彼等はTVでカブスの試合中継を見ながら、ちょうど福留の打席でこんな話をしていた。A「福留はいいね」B「ああ。彼は間違いなく新人王をとるよ」。A「そういえばイチローもマツイもいいが、なぜ平均的に日本人選手みんないいんだろうか?」B「確かにそうだ。彼らはみんなDISCIPLINE(訓練、制御) されている・・」。

そもそもこのDISCIPLINEという言葉は相場では必須である。特にDAY TRADER(日ばかり)がまずクリアしなければならないのがこの壁である事は言うまでもない。では野球でDISCIPLINEというのはどういう意味か。メジャーリーグは練習量は問わない。よって練習熱心という意味ではない。そこで米国人同僚からの意見を参考にすると、どうやらそのイメージはホームランも打つが大事な場面で大ぶりの三振をするバッターではなく、統制されているがやるべきところではやる・・。要するに有能な組織人が持つ平均以上のスキルといった印象である。だから日本の野球人は、仮に日本で芽が出なくとも、野球組織人(野村監督が優先する考える力を持った選手)として平均以上の技術を持つ選手はイチローや松井クラスでなくともMLB(メジャーリーグ)の方が評価される可能性がある・・。

ところでステロイドで硬直した今のMLBには技能の柔軟性を売りにする選手は少ない。その日も5回まで7-0でリードしながら単純なエラーを切欠に7回には8-8の同点。そのまま延長に入って延長12回に10-8でカブスが勝つとシカゴのファンは優勝したかの様な大喜びだった。これが典型的カブスの試合。だがその試合も3安打と活躍した福留が試合後のインタビューでどこか憮然としていたのは、きめの細かい野球が全くできないカブスは実は中日より弱いと彼は発見したからだろう。要するにMLBとはいっても、今の米国野球はこんなものである。ある意味世界野球で日本が勝ったのはまぐれではなかった。ただあの時その可能性を知っていたのはイチローだけだったのである。実力の割に信じられない高額報酬、確かに市場としてはまだ世界一のだが、能力と適性報酬のバランスが崩壊したた点ではどこかでWSと同じ構造を持つMLBは米国の心とも言われる。皮肉だがホームランか三振という大味のパフォーマンスが優先の野球の試合内容は、柔軟性が劣化して二極化してしまった今の米国社会の弱点もどこかで代弁している。ここで本日のテーマにも帰結するのである・・。

ところで、これまで大衆が単純である事はスマートな少数が全体のかじ取りをするに都合がよかった。それは国家政策も市場からの収益も同じ。結果ピラミッドの様な形状のバランスが米国の強みだった。ただスプレッド(格差)が開きすぎた事で形状全体のバランスが崩れ、最近は企業のトップや政権が全体の舵取りをする事が難しくなっている。単純な国民が派手で単純な野球を好み、誰もが高額な金を払う。単純すぎる性質からのDISCIPLINEの欠落は、時の政権や金融市場の神様、グリーンスパンの想像を超えた事態を引き起こしたという事だろう。

そんな中オリバースートン監督が野球という米国の縮図をこよなく愛するブッシュの伝記映画を撮る。ブッシュは一時球団のオーナーになったが、同じ国技でもフットボールやバスケットボールではなく野球の球団オーナーになる事は白人ボーイズクラブ社会で特別な意味を持つ。例えばMジョーダン率いたブルズは90年代に6度チャンピオンになったがWソックスのオーナーも兼ねる白人資本家オーナーのレインドーフ氏は一度も泣かなかったらしい。しかしWソックスが2005年にワールドシリーズを勝つと、全米屈指の資産家の彼は夢がかなったと大泣きした。ここにブッシュがなぜ野球球団オーナーになりたかったが隠されている。そしてこの映画の脚本を担当するのが80年代のWSの狂乱と腐敗をテーマした話題作、「Wストリート」のスタンリーワイザーである事が非常に興味深い。「プラトーン」と「Wストリート」はともに米国の本質をとらえた秀作だった。期待したい・・。

2008年4月9日水曜日

KILLING FIELD(殺戮平野)

「KILLING FIELD」(殺戮の平野)、この言葉はポルポト政権下のカンボジアの惨劇を扱った映画で有名だ。しかし、今まさにこの言葉のイメージがそのままあてはまるのは実は今のシカゴ市の南部である。この事は日本で全く報道されないし、米国内のNEWSでもシカゴ地区以外ではあまり注目されていない。その理由として景況感がこのところ急激に悪くなったとはいえ、まだ全体の凶悪犯罪の発生率は同じスピードでは悪化していない事が挙げられる。しかし、今年に入ってシカゴの南部では公立学校に通う小中高生がその地区だけで20人も凶弾で死亡した現実は深刻だ。殆どがケンカによる発砲ではなく、不良連中とと全く関係ない子供達が流れ弾に当たったり或いは意味もなく殺されるケースである。

さて、そんな中で最近日本を激震させたNEWSは、在日米軍脱走兵によるタクシー運転手惨殺事件だろう。実はこの事件は様々な米国内の時事要因を内包していると考えている。そこでここではそれを紹介したい。まず私もわからないが、なぜ米海軍にナイジェリア国籍の米兵がいたかという事。確かに米軍のWEBサイトで確認すると、米国籍(2重国籍は除く)でなくとも米軍に入隊は出来るようだ。しかし実際の戦闘局面では言語上の意思疎通を含め、思想や規律的的問題を内包する多国籍兵と米国人が共闘作戦でもない限り混在するケースはほとんどない。よって、今前線の緊張からもっとも遠い所に位置する日本という場所にいる米軍は、そのレベルがどういうモノであるか、日本人は意識する必要がある。(MAJORITYの優秀な兵隊はなんらかの形でイラクとアフガン戦争に関わっているはず)

ところで米軍と言っても概ね200万人前後と推定される(現役兵は150万)その全体像は正確には開示されていない。ただ徴兵制が廃止されてからも、これまでその規模を維持できたのは二つの要因がある。それは①ベトナム戦争以後は入隊しても第二次イラク戦争までは大規模な戦闘に従軍する可能性が低かった事と、②ブッシュ共和党政権が演出した格差政策である。平たく言えば①は平和だったという事、では②の格差政策とは何だ。

当然「格差政策」などという政策が公式にあるはずがない。これは私の勝手な造語だ。しかしブッシュ共和党政権は暗黙のうちにこの政策を続けた。そして「必要なら100年でもイラクに留まる・・」と発言しオバマとヒラリーに攻撃されているマケインが仮に大統領になればこの政策は維持されるはずだ。ではどうやってこの政策を実行するのか。それには所得格差を維持し、高所得を得るためには高学歴を必要とする仕組みを作る。ただそれだけでは不十分。一番重要な事は学費の高騰を維持する事である。学費高騰を維持する?それでは国益に反するように聞こえる。実はここに共和党と民主党の考え方の違い、またそしてその趨勢は今回のタクシー事件も含め、米国軍傘下の日本の庶民生活にも影響する重要な要素があるのである。

今イラクやアフガンで戦っている米軍の出身地を見ると、大都会で育った若者は非常に少ない。その傾向は白人に顕著で、彼等は圧倒的に地方出身者だ。一方で黒人兵はNY地区ならハーレム以北のブロンクスエリア、そしてシカゴなら前述のサウスサイドの様な場所からの若者が多い。理由は簡単、中流家庭が多いとはいっても大都市を離れた中西部から西では高卒の肩書彼らに十分な仕事はなく、また大都会の荒廃地区の黒人層にも年間5万ドルと言われる大学などは夢の世界。そこに米軍は8年の最低拘束期間の従軍を完了するば、大学の学費補助を含めたキャリア優遇プログラムの甘い話を持ちかける。これが今世界に展開する米軍の基本的な兵員充足システムである。言い換えるならば、このシステム維持のためには「格差社会」が必要となり、底辺からの脱却を目指す若者のエネルギーをそのままイラク戦争に使っているのである。

ただ個人的にこのシステムは時に有効とみる。なぜなら貧しい家庭の優秀な子供には大学もサポート体制を整えている。その意味で本当に頑張る努力家には道は閉ざされていない。しかし民主党が主張するような学費低減が実現してしまうと皆が大学に行けるようになり、軍隊に行く必要がなくなる。イラクやアフガンで死ぬ確率高い今は尚更である。すると今度は大学数の過剰が生まれ、結果的にレベルの低下や経営の危機という弊害が生まれる可能性がある。また民主党の主張の弱点は、彼らは国内の格差を攻撃する一方でイラクを非難しながら時に中国、北朝鮮、セルビア、イランなどには共和党以上に強硬策を主張する。ただこれも格差に対するアレルギーだろうか、イラク戦争の様な特定の一部を利する様な戦略戦争は情緒的に批判しても、民主党は国際戦略上の焦点は非常に広範囲だ。その発想は平和時ならいいが一旦世界全体を巻き込むような劇変が起こると大変だ。なぜなら民主党政権では兵隊がいない?などという皮肉も起こりうるのではないか。

極論では格差を無くすという事はどういう事か。皮肉だが、軍隊においては徴兵という事が起こり得るという事である。リベラルな民主党が政権を取ると徴兵制度が復活し、戦争大好きな共和党政権下では逆に志願兵隊の充足システムは機能する・・?。自分の子供を含め、次の世代はこの皮肉をしっかりと理解する事が肝要だ。そしてそれは自らの自立心の問題も含め、米軍に国防を頼りながら一方でその存在が日増しに厄介になっている今の日本にも言えるのではないか。

2008年4月3日木曜日

JOIN OR DIE(結集せよ、さもなくば死だ。ベンジャミン フランクリン)

春は新しいテレビ番組が始まる。それは米国も同じ。HBOでは看板番組だったソプラノスが終了してしまったが、新しく建国の父の一人、「ジョンアダムス」の伝記が始まった。

そもそも相場をやる以上はTV番組をバカにしてはいけない。なぜなら制作側は世情や流行りに合わせて次のテーマを探す。その道のプロたちが選んだテーマや趣向には、次の潮流を予見するに必要な要素が多分に含まれている。その意味ではブルーンバーグよりも先見性に優れている。

その「ジョンアダムス」だが、番組には米国建国の父が沢山登場する。アダムスは第2代大統領。初第のジョージワシントン、第3代のトマスジェファーソン等、「建国の父」と呼ばれる人達がいかに苦労して米国の独立を勝ち取ったかが興味深く描かれている。中でも最も異彩を放っているのがベンジャミンフランクリンだ。

建国の父といってもワシントンは軍人、そして彼以外は、今のIVリーグに連なる大学を卒業した法律家や学者である。多くは英国から移民した裕福な実業家の子孫でどこかに英国の矜持である「権威」「厳格」「節制」「勤勉」といった基本概念を持っていた。

しかし本国のジョージ3世が植民地の13州に重税を課し、その事が結果的に独立を促したとはいえ、初期の段階では英国への帰属維持を主張する派と独立強行派とで13州の足並みは乱れた。そしてそれを纏め上げていく上で重要な役割を演じたのが主人公のアダムスと、ベンジャミン フランクリンである。

そのベンジャミンフランクリンは独立戦争に先立つ仏/インデイアン連合軍との戦いから、本国英国との戦争において、後世の米国人に多大な影響を与えたといわれるJOIN OR DIEという有名な言葉を残した。また彼は興味深い以下の13の訓戒も残した。

①節制
②沈黙
③規律
④決断
⑤節約
⑥勤勉
⑦誠実
⑧正義
⑨中庸
⑩清潔
⑪平静
⑫純潔
⑬謙譲。

ベンジャミンフランクリンは米国の金融市場関係者が最も愛する100ドル紙幣の顔だ。しかし今の米国とその市場には⑦~⑬の後半の訓戒は存在しない。そんな中、今日はポールソン財務長官は再びバンドエイドでしかない金融市場改革案を発表した。

だがいつまでもこんな表面的な修正案しか出てこないようではこの国は危うい。その意味で、ドラマJOHN ADAMSを沢山の米国人が見て、建国の父達の矜持へ立ち返る事を願うばかりである。

そういえば、日本では、来年から3年に渡り放送予定のスペシャル大河「坂の上の雲」の背景を、NHKは先週わざわざ「NHK特集」として紹介していた。

そもそもNHKがこの名作のTV化を計画したのは5年前。だが脚本を担当していた野沢尚氏が突然自殺。当時NHKの「プロジェクトX」が日本経済の復活に果たした役割に注目していた自分としては、その時に「坂の上の雲」が果たすであろう影響を想定しながら売れっ子の野沢氏の突然の自殺の不自然さを指摘した。

そんな紆余曲折を経ていよいよ撮影が始まった「坂の上の雲」は、不祥事に揺れるNHKとしては異常な力の入れようだ。ロシアの宮殿を借り切ってのロケを含め、何もかもがTV番組としては前例がない試みである。そして、この小説を読んだ人なら誰でも納得するはずだが、映像化されたこの小説が今の日本人に与える影響は恐らく大きい。

NHKの意図しているところが、日本人の自信回復である事は言うまでもないが、米国人がジョンアダムをみるべきように、司馬氏が示唆したように、日本人は日露戦争という大成功の体験からわずか40年で太平洋戦争の大失敗へ突き進んでしまった原因の分析も示唆することを期待したい。